第42話 顔合わせ 1
原始の森へと向かう前に顔合わせと言うことで、学園の連休を利用して、魔物が生息しているという森へと向かっている。
これは聖女様からの申し出があったものだ。王領の森に巣くう魔物の浄化を国王から依頼されたそうで、そこへの同行をお願いされたのだ。
「原始の森への同行者がどのくらいの腕前なのか知るのには良いかもしれない」
とは師匠の言だ。
王都から出発し、最初は馬車での移動になる。馬車は2台で、1台は師匠とルーベラさんと私、もう一台に聖女様達ご一行だ。
私とルーベラさんが居なければ馬車は1台で済んだかも知れない。
あの日、ルーベラさんからは
「私のことはルーベラさんって呼んで。それ以外はイヤよ」
と、エライ迫力のある笑顔で念を押された。はい、ルーベラさんです。
師匠も同行するに当たってはそう呼ばないのならば、行かないと言われて気をつけている模様。
今回のメンバーは原始の森へ向かうときのメンバーと同じだという。
聖女、王太子殿下のコリペティリア様、王太子の婚約者のエリカセア様、騎士団団長の息子のディオカルプス様、魔法騎士団団長の息子のネフィリィウム様、それから、師匠とルーベラさんと私。
さすがに文官の宰相の息子は付いてこないようだ。しかしなぜにエリカセア様がいるんだろう。
それに、原始の森への同行者には、なぜ王国の実力者ではないのだろう。両団長の息子って、何。騎士団で一番強い奴連れてこいや、と思う。
何故、生徒が中心なのか、王太子のような立場の人が危険な場所に向かうのか。ゲームをしている時には気にしたことないけれど、考えてみればなぜこの人達なのだろう。神からの啓示とかあったのかしら。
なんか、聞いたりすると藪から蛇がでそうなんで黙っている。
今回、同行して一つ分かったことがあった。攻略対象者’ズに会うのは、ちょっと恐かったんだ。
何故ならば、自分が誰かに一目惚れとかしちゃうんじゃないかって。それこそ強制力みたいなのがあってそうなったら、目も当てらんないよね。
でもね、大丈夫だった。なんとも思わなかったので、ホント安心した。いやー、皆が話していたように美形揃いなんだけど、ちっともなんとも思わなかった。良かった、良かった。
それから、女避けの意味が分かりました。師匠に何かと言えば
「左足の具合はいかがですか」
とか、最初の時には話しかけてきた。
「ああ、順調ですよ」
師匠も最初は丁寧に答えていたが、段々と面倒くさくなってきている気がする。
爽やかな笑顔で対応しているけど、あれはよそ行きの顔だ。
加えてルーベラさんの事を疑念に思い、疎ましく思っているのもバレバレだ。本人は多分、ばれていないと思っていると思う。
なんというか、通常はルーベラさんに対しても余裕があるように振る舞おうとはしているから。
でも、気配察知にピリピリとくるのです。師匠とルーベラさんにも筒抜けだと思う。
ルーベラさんも興が乗っているのか、師匠と仲良さげにしている。聖女様については、大人の余裕を見せているって感じかな。
師匠もルーベラさんと気の置けない間柄っていう雰囲気をかましている。
女同士? の戦い、こっわー。こんなので、この先大丈夫なのかなと少し不安になってきた。お役目があるから、滅多なことはないと思いたい。
私の今まで構築していた元義姉の姿が、どんどん崩れて言っているような気がする。あのクールなお姿はどこに行ったの !
あの時、元義姉が私に文句を言ってきたのは、そういう訳だったのかと今更ながらに実感した。ソルが私だとばれませんように。
ま、今のところ師匠とルーベラさんに集中していて私の存在は殆ど眼中にないようです。どうかこのままでありますように。
馬車で出発したのは時間短縮のため。連休といっても三日だし、できるだけ速く戻りたいためだろう。馬車に乗っている間は、野営の準備もそんなになくて楽。原始の森へ向かうときも最初は馬車だといいな。
御者については、こっちの馬車は三人で交代しながら、ご一行の馬車は御者が2名ついている。馬車の操作はこの旅に出る前に師匠からみっちり教え込まれた。
「ずっと馬車で行ければいいのになあ」
御者をしながら、そんな事を呟いた。荷物も移動も馬任せで楽だなあと。
大量の採集物を二人して背負い、師匠と走るのを考えれば天国のようだ。師匠の方が重いし、左足が再生したばかりなのになんであんなに速いんだよお。足慣らしなんて必要ないんじゃ無い、って思う。
最初の宿泊は馬車の中になった。料理番は私とルーベラさんが担当だ。だって食材を無駄にしたくないし、美味しい物とまでは言わないが真っ当な食事はしたいから。
お貴族様は基本、料理なんかしませんから。お菓子ぐらいならば、趣味で作る人もいるそうだけれど。
そうは言っても、今晩はパンとシチューだから大したことはしていない。
今晩のパンはパン種を仕込んでおいたので、食べる前に焼いた。
野営の準備をしている時に、師匠がキジを獲ってきたので、急遽、捌いて夕食に一品増えた。
考えてみれば、ご一行はダンジョンに行っているのか。そうすると自分達でも作るのかな。
調理をしていたら、じっと
「いや、ダンジョンといっても、まだ長くて2日間ほどしか入っていない。料理を収納で入れて持って行くから作ったことはない。そういえば、実習で、希望者は簡単な野外料理を習うそうだ」
彼は丁寧に答えてくれた。
「調理など興味が無かったが、君を見ていると調薬や錬金術のようで面白いと思う」
「ああ、そうかもしれません。分量や材料を混ぜる順番、火力や時間などが的確であれば美味しく出来ますが、その辺を間違えると同じ材料でも味が変わりますからね。例えば砂糖と塩を入れる場合は、砂糖を先に入れんですよ」
「そうなのか」
「はい。砂糖は味が染み込むのに時間が掛かるそうです。それに食材を柔らかくする働きもあるんだそうです。だから最初に入れるんです」
「ほう。それは面白い。野外の調理実習も受講してみようか」
そうですか、でも野外の調理実習ではそんな話はでないと思いますが、と思ったけれど言わなかった。自分で色々と考えそうな人だったので。
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