第40話 義足


 聖女達ご一行がやって来た翌日の放課後、グレンジャー先生とアッサム先生が揃って研究室へとやってきた。


「聖女一行がここに来たって聞いてね。何事だろうと。ちょっと興味本意だが、話を聞こうと思ってね」


口止めされているわけではないので、師匠は先生方に昨日の話をした。


 師匠だけでなく、宮廷魔術師達も力不足を懸念しているんだと、グレンジャー先生も言う。


そうなんだ。そう考えると、やはり何故アルディシア様なんだろうと、疑問に思う。

エリカセア様の方が魔力量が多かったと思ったんだけどな。


ダンジョンで祈りを捧げて聖魔法を使えるようになったと噂では聞いているけれど、本当のところはどうなのだろう。

でも、聖魔法は本物だった。


「彼女の魔力量がどうにも、という話を耳にしている。今迄の聖女は魔力量がとんでもなく多かった話ばかりが伝わっている。

彼女も一般的な人でいえば決して少ないわけではない。しかし、どうにも歴代の聖女と比較してしまうと多くはないようでね。歴代の聖女が化け物並みだと伝わっているからねえ。

聖魔法の獲得がすなわち魔力量の増加にはならないようだね。歴代の聖女は元々魔力量が多かったんだろうか。

それとも大げさだったのかな」


「彼女が聖魔法を持っているのは、間違いないよね。僕も見たかったなあ」


アッサム先生は、師匠の足を見てそう言った。

「確かにな。コレを見ると、不足しているとはいっても、さすが聖女だと言わざる得ないな。足一本は中々だよ。

もしかしたら、聖女には効率良く魔力を使う力とかがあるのかもしれない」


「聖魔法以外で欠損部を修復できるなんて話は聞いたことがないからな。

それでも、魔力量を増加させる努力はしておくべきだろう。

瘴気溜りがどうなっているのか、詳しいことは現地にでも行かなければ判らないだろうから。現地に行って足りなかったではお話にならない」


 足が再生した話は、やはり衝撃的だったのだろうか。えらく前のめりで色々と質問しだした。


「前のままというわけではなく、新しく足を作り出すという感じかな。左足にあった古傷は再現されていないし、踵や足の裏が柔らかいんだ。

そのせいなのか、左右の感覚が少し違うような感じがする。ちょっと歩くにも違和感があるんだが、そのうち慣れるだろう」


師匠は、なんだかんだと説明している。アッサム先生が根掘り葉掘り聞いている。



 取り外した義足は、机の上に置かれている。大きめのタオルに包まれている。


取り外されるまで知らなかったけど、膝より少し上の部分からの義足だ。

膝まで義足ならば、さぞかし大変だったんじゃないだろうか。


「僕の作った義足、もういらないよね。今までのデータを取るから、頂戴」


少し嬉しそうにそう言って、机の上に置かれた義足を手に持った。何やら確認しているようだ。


「データって何があるんですか ? 」


「ああ、アルビノエスがどう使ってたか。これには、ある程度使用者の意思を読み取って振る舞えるようにしてたから、どんな場合にどんなふうに動いていたのかなどを記録してあるんだ。

人によっては癖があるだろう。それで微調整していた事もあってね。調整が完全につくまで念のために杖を使って貰っていたんだ。

微調整が上手くいけば、杖なしでも歩くぐらいなら何も問題が無くなったはずだ。走るのまでは、時間が掛かっただろうけどね」


今頃知ったのだけれど、師匠の義足を作ったのは、アッサム先生なんだ。


現在、本物に近い義手や義足を開発中だという話で、その試作品だったらしい。


かなり精巧な作りで、魔力を通して、ある程度動く仕組みなんだって。でも、同調させるのには慣れが必要で、それで補助として杖を使っていたそうだ。


「手足を無くした人のために、研究されているんですか? 」

て聞いてみると


「いやあ。最初は作業の一部でも代用可能な助手を制作するのが目標だったんだ。義足はその発展系かなあ。全部機械化した人の様なものが出来ないかなあと思ってて。

ある程度自己判断して人並みに細かく作業ができるものを作るって難しいんだよね。

知識を集積していくとか、判断基準とかさ。一つの仕事だけなら、可能なんだけど、複数の仕事を任せるのは難しくってさあ。その技術開発の延長線上でこの足を作ってみたんだ」


「ゴーレムとは違うんですか」

「うん。もっと細かな作業をしてくれるのがいいんだ。単純作業や力仕事だったらゴーレムでも十分なんだけど」


アンドロイドみたいなものだろうか。この世界のゴーレムは、任せた作業は正確に行なう。ただ、応用はあまり利かないと聞いた。


そういえば、ホムンクルスみたいな存在は実現したという話は聞いていないな。ああ、機械仕掛けならば、アンドロイドか。


「生き物みたいな感じの創造物ですか。それとも、からくり人形みたいな感じですか」


「そうだな、どちらかと言えば、からくり人形の方かな。自分である程度意思決定ができるような、そういうのを作りたいなと。

反抗したり、人を騙したりするのは困るけど、正しい知識の集積ができて、状況把握によって自己判断できるモノが作れると楽しいと思っているんだが。

理想を言えば、助手を作れないかなと思ったんだよ。

人の助手が悪いってわけではないけれど、危険な場所で作業するには、頑丈な方が良いだろう」


「なら、可愛い女の子とか、格好良い男の子とか」

「そういう発想はなかったな。可愛い女の子とか良いね」


「あと、機械仕掛けならば手なんかを色々なパターンで変えられるとかも便利そうですね。手がドリルみたいになって、岩盤を掘り進むとか」


「あ、それ面白そうだね」


アッサム先生と二人、盛り上がって話をしていると、師匠には呆れられたような顔を向けられた。あー、スミマセン。

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