第38話 物語が動く


 国内外では魔物が活性化している傾向がみられたため、その原因の調査が行われていた。その調査の一つに師匠は参加していたのだという。


そこで、彼は足を失う結果になった。

その調査の際に襲ってきたヒュドラによるモノだそうだ。その場所にヒュドラが出るという情報は無かった。ただ、大物がいる可能性は指摘されていた。


幾つかあるそうした依頼の内の一つだったのだが、調査内容からすれば、本来ならば金級のパーティの方が良いのでは考えられていたものだったらしい。


だが、それに見合うだけのパーティが指名依頼を受けていた為、それを受けられなかったのだとか。そのため金級も目前と言われていた事もあって、師匠のパーティが引き受けることになったのだという。


「リーダーが昔世話になった人からの依頼ってこともあって、断れなかったんだ」


本来、調査中にその地域で出現するはずのない亜種のヒュドラが現れたという。


パーティはその時、一人死んだが逃げ帰って報告はできた。その後、亜種のヒュドラに対しては報告内容から対策が取られ、無事に退治はされたと言う。


師匠のパーティは解散した。アタッカーだったリーダーは、皆を逃がすために囮になって死亡した。


師匠は左足を失ったことで、引退を決めた。解散後他のパーティに入った者もいれば、ソロで続けている者、引退した者様々だという。


 冒険者を引退した師匠は、実はこの学園の卒業生だったんだって。それで師匠の現状を知った学園長から声を掛けられて、この学園の魔方陣学の教師に推挙されたんだとか。


魔法陣は元々の専門ではないけれど、好きでかなり詳しく調べていたんだそうだ。え、ということは師匠はお貴族様ですか。


「そうだよ。でも、三男坊だからね。貴族って言っても子供はね、家を継ぐとか爵位を貰うとか、貴族の跡取り娘のところに婿養子に入るとかなけりゃ、成人後は平民だよ。まあ、学院にすすんだり、文官や騎士などになるという手もないではないけどな。

俺は、腕に覚えがあったんで冒険者になったんだ」


「えー、それなら騎士様になるとかの道もあったでしょう」


「騎士みたいな堅苦しいのは、好かない。

冒険者の方が楽しそうだったからな。割といるぞ、貴族だった冒険者って。皆、出自を口にしないだけさ」


それで、アクシィア様達は私が冒険者になると言っても、驚かなかったんだ。世の中、知らない事がいっぱいだ。




 学園内で聖女様が王城に呼び出されたと、噂になった。いよいよ、世界樹があると言われている原始の森へと旅立つのだろうか。


世界の危機なのかもしれないが、学園では、相変わらずの毎日だ。戦争など起きているわけではなく、日常生活で大きな変化はない。


王都は守護が堅いから、まだ変化に気がつきにくいだけなのだろうか。あちらこちらで、様々な事件は起きているのだろうか。


そうやって調査が積み重ねられていって、幾つも起きていた不可解な現象の要因は、原始の森からの瘴気の流出だと言う事が話題になっていた。


瘴気溜りは世界樹を冠する原始の森にあるという事が判明したという。


そんな噂が流れてきたのも、きっと聖女様が現れたからだろう。


もっと早くわかっていたとしても、解決策が提示されなければ、不安が煽られるだけだから。


ただ、その話を聞いてもどこか他人事で、へえそうなんだ、ぐらいの感想しかない。もう聖女様は元義姉、いやアルディシア様になったので私には関係がなくなったんだと思っていたら……。




「陛下より、原始の森の要である瘴気溜りを浄化するというお役目を受けました。そこで、原始の森への同行と道案内をお願いできませんでしょうか」


今、目の前にアルディシア様元義姉カロネイス様王太子の婚約者ゼピュロス王太子殿下がいる。師匠の研究室に三人で尋ねてきたのだ。私は師匠の後ろに控えている。


アルディシア様は、助手のソルが私だとは全く気がついていないようだ。よかった。一応、ステイタスはずっと偽装してるんだけどね。誰が鑑定持ちだか判らないから。


「何故、私のところへ来たのか理解できないのだが」

師匠がそう訝しむと、


「マリウス先生が、原始の森の奥深く分け入ったことがあると伺いました。そこで道案内をお願いしたいのです」

聖女様が真剣な表情で、そう口にした。


「無理だな。私は、左足を失っている。この状態であの森に行っても何の役にも立たないだけでなく、お荷物にしかならない。

他の人間に依頼してくれ。引き受けるかどうかは判らないが、紹介は出来る」


師匠は、一人腰掛けていたがスラックスをまくり上げて、自分の左足の義足を見せた。この頃、段々杖を使わなくなりつつあって忘れちゃうけれど、何度見ても、義足を見ると胸がつまされる。「お前の足じゃないだろう」って笑われるんだけど。


「他を当たってくれ」

すげなく断った。

「その左足は」


「魔物とやり合って失った。今の状況では、原始の森へ行くのにはそれなりの力が必要だ。この足では、案内など無理だ」


しかし、アルディシア様は諦めなかった。彼女は師匠の近くに跪き、断りも無しに義足に触るとその周辺が輝きだした。驚いた師匠は、為すがままになっている。


義足が勝手に外れ、足の形に光が収束していく。だが、彼女の力だけでは足りない、足を形成しきるには魔力が足りないのが何故か見て取れた。

アルディシア様の額に一筋の汗がこぼれ落ちた。


師匠の背中にそっと手を添えた。魔力を補えないかと思ったからだ。聖魔法については、何も知らない。


いや、ステイタスに出てるからきっと扱えるのだとは思うのだけれども。なぜか、使っちゃいけないと思っていた。そもそも、使うという発想が今の今までなかった。


でも、師匠の足が治る機会を逃したくない。


足りない魔力を補うことで可能かどうかは判らなかったが、出来ることはしたかったのだ。


イメージでいえば、彼女に力添えをするという感じだろうか。咄嗟にやってしまった。


私が魔力を補完した途端、光が物質化したかのように様相が変化し、突如、生の足になった。本当に、聖魔法は欠損部分を再生できるんだ。

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