第37話 聖女様、誕生


 師匠が言ってた補助が必要、というのは本当のことだったみたいだ。いや、まあ、そうだけど。なかなか忙しい。


まだ後期が始まる前だというのに、資料の作成や整理、授業で使い備品や薬品等の発注等、雑用が山ほどあった。


それから荷物の持ち運びも手伝う。生徒でいる分には気がつかなかったけれど、先生って色々と準備したりするんだ。


「もう少し、足の方が熟れたらこの先、試料採集にも出かけるぞ。少し先の話になるけどな」

とも言われた。それは大変楽しみだ。


師匠、自分、薬草採取の腕を上げましたぜ。そう言ったら、

「そうかそうか。インクの材料とかだから鉱物が多いが、植物も使うことがあるかからどんなものが使えるのか、ちゃんと調べておけ」


と冊子を渡された。魔法陣の材料についてまとめられている物だ。自分で色々と調べて取りまとめたものだという。


手書きの部分や複写したものを貼り付けた物、どう考えても元の本をバラして付け加えた物などが組み合わさっている。


「これを貸してやる。書き写しとけ」



 そうして始まった新学期直前。皆が帰ってきた。皆には寮監さんに手紙を託した。


家の事情で両親が離婚し、平民になった関係でこの学園を去らねばならなくなったこと。


学園の厚意で、学校の卒業資格は得たので、しばらく様子を見てから仕事をしようと思っていること。今まで一緒にいられて嬉しかった事や感謝などを簡潔にまとめておいた。


皆は、私が居なくなったことを惜しんでくれるだろうか。


そうは言っても、ソルとして学園内で皆のことを見かけることもあるだろうけど。攻略対象者’ズが卒業したら会いに行こうと思うけれど、覚えていてくれるだろうか。


前もって手紙を書いて確認してからなら、大丈夫かな。




 新学期早々、学園で一つ、衝撃的な出来事が起きた。


学期最初の4年生の授業で行われたダンジョン探索をきっかけにして、ソラナセア男爵令嬢アルディシア元義姉が聖魔法に目覚めたのだという。


同じパーティとしてダンジョンに赴いていたメンバーは、王太子殿下であるゼピュロス・コリペティア、王太子殿下の婚約者のカロネイス・エリカセア、宰相子息のスヴェン・ルシニア、騎士団団長子息ローリナム・ネフィリウム、魔法騎士団団長子息ローガン・ディモカルプスの6名。要するに攻略対象者’ズだった。


学園で利用しているダンジョンで新たなルートを見つけ、その奥で見つけた祭壇にアルディシア様元義姉が祈りを捧げたところ、周囲が光り輝いた。その光が彼女に注ぎ込んだという。


学園に戻ってから学園の神殿で鑑定を受けたところ、彼女は聖魔法を授かったということらしい。


そのダンジョン奥の祭壇は、その後に調査隊が入って調べたが、聖魔法を授かった人は他には居ないという。


現在、彼等6名は王城に呼ばれて聞き取り調査に協力しているということだ。とにかく、王城では大騒ぎになっているらしい。


人伝に聞いているから、らしいとしか判らない。



「聖女様 ? 」

「そうなるらしい。ただ歴代の聖女様と比べると、どうも魔力量は少ないらしいんだ。聖魔法を授かったが、魔力量は増加しなかったという話だ。

それでも聖魔法が使えるという事で、聖女になる。神殿でもそう認定されたんだと聞いた」


「聖魔法っているのは、治癒とか浄化でしたよね。魔方陣符にありますよね」


「魔方陣符の治癒とか浄化は聖魔法とは違う。そのままの魔法だ。

聖魔法は別格なんだよ。効果が、段違いだ。浄化は、死霊や妖物までも簡単に消滅させられる。魔方陣符の治癒は表面上の怪我や単純骨折なんかは治るが、複雑骨折や欠損なんかは直せない。でも、聖魔法ならば複雑骨折はおろか欠損した手足も再生できるらしい。死んだ人間を蘇らせるのは無理だがな」


思わず、師匠の足を見てしまった。それに気がついて、苦笑いしながら


「そうは言っても、魔力量の問題がある。どんなモノでも治せるわけではない。指一本と足一本じゃ、全く違う。指ならすぐだろうが、足一本は桁違いに魔力量が必要になる。話に聞く歴代の聖女は、足一本ぐらいは平気で再生できたとは聞くがな。それにしたって、おいそれとお願いできるようなものではないよ。

なんと言っても、本当ならば王国お抱えになるからな。下々の者には関係の無い話さ。

今度の聖女は、まだ成人前だ。魔力量については今後、増える可能性もある。今は魔力量が少なめだが、かなり期待されているらしい」


「聖女って、何をするんですか ? 」


「ああ、時代によってその存在価値は違うと聞くがな。だがな、聖女が現れるって事は、その存在を必要とするような出来事が起きる前触れとも言われている。実際、彼方此方でトラブルが報告されているからな」


その台詞を聞いて、思い出した。そうだここは『迷宮ラビリンス』の中だった。自分がヒロインなのに、大外れしちゃったからすっかり意識の外だった。


元義姉が聖女様。このパターンを、私は知らない。ヒロインがいなくなっちゃったから、補正がはいったのかな?


なぜカロネイス様じゃないんだろう。彼女の魔力量の方が多いと思うんだけど。


何にせよ、聖女が誕生したということは、事件は起こるということなのかな。ヒロインの代わりに元義姉がその役割を担うのかな。姉妹だからだろうか。でも、血は繋がってなかったけど。


「気になる現象は、幾つもある。ここ数年、魔物が活性化していてその原因の調査も現在行われている。例えば、各地のダンジョンでは、今まで浅層に出てこなかったモノが出現している。どこかに瘴気溜りが形成されているのではないかという報告もある。100年から200年に一度、瘴気溜りができるという話もあるしな」




 聖女様が現れた。ヒロインが聖女じゃない場合、どんなことになるのか。このパターンは知らない。というより、なんで元義姉が聖女なんだろう。


いや、物語に入る前にヒロイン、退学しちゃったもんな。それに時期が早い。


聖女になるならば、悪役令嬢役のエリカセア様の方じゃないのかな。なぜアルディシア様元義姉 ? あの人が表舞台に立つって、本当に ?


聖女の役割は、何だったけ。何かの浄化だった気がする。あー、と世界樹だっけ。瘴気溜りが世界樹のところにあった気がする。


浄化は、誰かがしなくてはならない。ヒロインが役割を投げちゃったから、代わりになったのだろうか。そうだとすれば、ちょっと申し訳ない気がする。


彼女は、攻略対象者'ズと一緒に、旅に出るのだろうか。 それとも、違う人達だろうか。何時、旅立つんだろう、学園はどうするんだろう。

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