第31話 夏休みが終わったら
男爵様の断罪が終わった。母と補佐官は衛士達によって連れて行かれた。母は、禁止魔法薬の使用と夫の殺害未遂、補佐官は男爵様の殺害未遂などで、この先裁かれることになる。
ただ、禁止魔法薬に関しては表沙汰にならないことになっている。禁止魔法薬絡みの事件は全て禁止魔法薬についてのみ隠蔽されるのだ。
今回のことは、表向きとしては男爵様が体調を崩した際に、妻が商会の資金の横領をし、補佐官を抱き込んで商会を乗っ取ろうとしたという理由で、離婚するという形になるという。
だから、共謀していた補佐官共々追い出されたという形だ。母は表向きは厳格で有名な修道院に入る事になった。それは形として記録されるという。補佐官は首になってどこかに消えたという形で締められるようだ。
では、本当のところはどうなるのか。禁止魔法薬の使用の件で待ち構えた衛士に二人は捕縛された。この禁止魔法薬に関しては、全て内密に調査されて処分される。
禁止魔法薬に関しては、製造・販売・所持・使用、すべてにおいて厳罰になる。この魔法薬絡みということで、本来ならば出来ないはずの貸金庫の中身まで捜査の手が伸びた。
この男爵様の断罪劇は、衛士を配置するためなどの時間稼ぎでもあった。屋敷に入れてから、逃亡阻止の結界を屋敷に張り、確実に母を捕まえるためのものだった。
母や補佐官とて魔法は使える。二人の魔法を封じ、転移魔法を設置して屋敷から直接牢獄へ送る準備をするための時間だ。実際にその時間を稼ぐのに男爵様は断罪したが、それは彼なりのケジメだったのだろう。
その場に私も参加したのは、きちんと見届ける義務があると思ったからだ。
この魔法薬の使用などに関する事件についての公表はされない。
人は知らなければ求めない。下手に公表してしまうと、この禁止魔法薬の存在を知らない人達にもこういう魔法薬があると宣伝する事になるからだそうだ。
捜査とかは内密だけど、禁止魔法薬としてちゃんと法律では取り決めされている。だから法に則って処罰はされるし、記録も残る。但し秘密裏に。
母は、禁止魔法薬を使用した。連れて行かれた先では、彼女を手がかりに薬の入手ルートを洗い出し、組織的なモノにせよ、個人的なモノにせよ、調べ上げると言っていた。
補佐官の男は、毒薬絡みで医師と接触していたため彼も、禁止魔法薬に絡んでいる疑いがあるということで、一緒にしょっ引かれてしまったのだ。
もし、関係が無かったとしても、殺人未遂を起こしているし、この事件に関して知ってしまった以上は、表には出てこられないだろうという。
で、禁止魔法薬製造の関係者を撲滅する方向になるそうな。それらが皆、はっきりしても公にはならないらしい。
補佐官と浮気をしていたという話もあったが、弟は、男爵様の子供には違いなかった。浮気もしていたのが最近だと判っていたのと、ちゃんと検査を受けたことで証明されている。不幸中の幸い ?
魔法による血液検査があるんですよ。お貴族様には色々と後ろ暗い話はあるでしょうから(偏見)、確認する方法が発達したんだろうなあ。
もともと男爵様に目元や髪の質が似ていると話していたぐらいなので、大丈夫だろうとは思っていたけれど、良かった。これで、男爵家で面倒をみてもらえるだろう。
弟は乳母と一緒に別の部屋にいるから、この騒動は知らない。小さくてまだ判らないだろうけど。母は、弟を可愛がっていたそうだ。男爵様も可愛がっていたのは見ていたけれど、今はどうなんだろう。
使用人の人達は、禁止魔法薬の話が出るので、皆下がらせていた。
嫡子は義姉のままだ。この国では女性にも継承権はある。
私の考えが至らなかったと思う。禁止魔法薬を母が盛ったのが、例えば私だけのためだったとしても、母がまともに済むはずが無かったのだ。
最悪で離婚することぐらいは考えてはいた。けれども、それだけでは終わらなかった。
禁止魔法薬の使用について貴族当主としては、内密に済ますわけにはいかない案件だったのだ。私が男爵様に禁止魔法薬の件と飲んでいた解毒薬について説明すると、すぐに男爵様は王城へと向かった。
禁止魔法薬が使われた時点で、報告の義務があるのだ。
貴族当主は、禁止魔法薬に関してはある程度の情報を持っているという。
アクシィア様が報告しなかったのは、直接的に関係しなかった事と本当に使用されたのか確認できていないためだった。
解毒薬を作るのは、禁止事項に抵触しないしむしろ推奨されている。
疑いがある場合は解毒薬を与え、本当に使用されたのかを確認する義務があるぐらいだ。そして禁止魔法薬が使用されたのであれば、即時報告の義務が生じる。
男爵様が王城へ報告し、その関係で私も事情聴取を受けたんです。前世、今世で初めてですね。禁止魔法薬の使用に気がついたのがアクシィア様であったこと、使う薬草は自分で採取していたこと、多めに取った薬草などは薬師ギルドに売ったこと。
そうして貯めたお金でアクシィア様から解毒薬を購入したこと。アクシィア様にも確認してもらったと聞いたときには、彼女に対して申し訳なかったと思った。
義姉のためなんて、いい格好しいこと言ってたけど自分の考えなしに呆れていた。こんな大事になるとは、想像していなかった。禁止魔法薬の使用という事態を本当に甘く考えていた。
弟がもしも、浮気相手の子供だったらと思うと肝が冷えた。いや、そうでなくても母親を取り上げるような形になってしまったし、この先肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれない。
まだほんの小さな子供だから、今は私が何をしたのか判らないだろう。もし、今日のことを理解できるようになったら、どう思うのだろう。母の放逐と私は無関係のように伝えられるだろうけれども。
だが、今、喫緊の問題が私に迫っていた。
私は、この半端な時期に学園を退学になるのだ。
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