第32話 学園は退学です
だが、今の喫緊の問題が私に迫っていた。
私は学園を退学しなければならない。どうしてそうなるのかというと。
スティルペース学園は貴族だけが通う特別な学園だ。連れ子であっても、男爵家の庶子ということで申請をし、それで通わせて貰っていた。戸籍上は、男爵様の子供にはなっていないけれど、庶子だと当事者が言うだけでも通ったんだそうだ。そういう場合もあるので、父親がきちんと手続きをすれば通すようになっているのだそうだ。でも、母親が離婚されて男爵家の子供ではなくなった。
私は紛うこと無き母の連れ子だ。母の離婚イコール私の貴族籍の消失という式が成り立つ。
男爵様とは、縁もゆかりも無い存在だというのも証明されちゃったことだし。本当の父親が誰であっても、平民に変わりは無い。平民になるのは別に良い。ここに来る前は平民だったのだから。そちらの腹は括っている。そう、自分に関わる部分としてここまでは織り込み済みというやつだ。
私は平民に逆戻りになる。この先をうっかりしていた。あの学園は、お貴族様しか通えないのだから、当然学園の通学資格も失われると言うことになる。お目こぼしは無い。
今思えば、アクシィア様はここまで予想していたのだろう。だから、学園を卒業してからの方が良いと言っていたのではないかと思う。
せめてあと半期、行きたかったかな。そうすれば、学校を卒業したという資格にはなる。卒業資格がないので、この後はえらい面倒くさい羽目になる。
どっか別の平民が通う学校を見つけて、転校しなければならないのだ。3年間学校を出ることは義務なのだよ、国民としての。半年分、足りない!こういう場合も、自業自得って言うのかな。
そんな風に色んな事を考えて頭を抱えていたので、断罪劇についてはぼんやりと眺めていて終わった。内心では、それどころでは無かったのだ。手続きなどは、あの断罪劇が終わるまでは出来なかったけれど、終わればすぐに対応しなければならない。
衛士達に連れて行かれる前に、母は離婚届に署名させられた。禁止魔法薬の取り調べなどの関係で、母は隔離されるから。執事さんは速攻で離婚手続きをした。男爵家のためにはそれは必要なことで、私のために離婚を待つという選択肢はない。こればっかりは仕方が無い。
断罪劇後、私は学園へ連絡をした。
学園への連絡方法は、魔術便っていうのがある。学校に直接連絡をつける方法で、転送陣で書類などが送れるようになっている魔法陣のある板があるのだ。魔法便は学校の事務などへの連絡と、通っている子供への連絡に使われている。だから生徒の家には大概ある。まあ、購入するんだけどね。レンタルもあるらしいんだけど、男爵家には子供が二人通っているし、裕福なので問題なく所持している。しかし、退学届はその転送陣で送ってお終いという訳にはいかない。
学園へ連絡した内容は、両親が離婚したため自分は貴族から平民になること、そのため学園を退学することになるので、学園の退学手続きを取りたいというものだ。できれば、他の学校への編入手続きも教えて欲しいと添えた。
なぜならば、どっかの学校に編入しないといけないからだ。だから、そうした対応も含めて相談に伺いたいとも。
返信として、他の学校もしくは学園へ編入する場合は必要書類をそろえることになるので、必要書類に関しては、学園側が用意してくれるとのこと。それを相手の学校へ提出することになると説明された。それから退学に関しての必要書類一式を揃えて学園に提出して欲しいと連絡が来た。提出書類や手続きについては、学園側とのやり取りを執事さんが引き受けてくれて、手配して貰った。はぁぁ。
学園側からの要請があり、書類提出を持って一週間後に学園へ伺うという話になった。
その日のうちに退学する旨の書類の提出や手続きなどを行うことになるそうだ。また、その日に編入するための学園側が相手の学校に提出する必要な書類を渡してくれるという話になった。
さて、学園に行くに当たっては、私が一人で行くと話を通した。学園側も必要な書類に不備が無ければ、一人でも構わないという回答も得た。
男爵様は、投与されていた毒薬のせいでまだ体調が万全ではないし、母のこともあって、家や仕事もバタバタしている。だから、一人で手続きに行きますということにした。一週間もあったので、家をでる準備もできた。
一週間後、
朝早くだが、ユリウスは機嫌良く起きていた。寝顔だけでも見てから行こうと思って弟の部屋に行ってみたのだのだ。
「ねえね」
この夏季休暇で、漸くそう読んで貰えるようになった。目標は達成された。
「ゆーちゃん、ねえねはこれからお出かけします。元気でいてね」
そう言って、ぎゅっと抱きしめると何かを感じたのかユリウスはぐずりだした。
「良い子にしているんだよ。元気でね。ねえねはお出かけするからね」
そう言って、別れを告げた。
次に男爵様の部屋へと向かった。
「長らくお世話になりました」
「学校か学園か決めたら必ず連絡をしてくれ。こちらの手が必要なだけでなく、何かあれば連絡をして欲しい。君は私の命の恩人でもあるのだから。それを忘れないで欲しい。前にも言ったが、学園に行くのであれば資金は私の方で援助するから遠慮はいらない。君のような優秀な子は、勉強を続けた方が良いと思っている」
そう男爵様は言ってくださったけれど、これからは自分で出来ることは自分でしようと思っている。でも、それは口に出さない。
「ありがとうございます。その時にはよろしくお願いします。学校のことは決まったら連絡をします。
こんな事を言うのは、なんなんですがユリウスをお願いします」
「大丈夫だ。母親の事があっても、私の子供には違いないから心配しなくていい」
男爵家から学園まで馬車を出して貰うことになった。この家から出て行く手筈は整っている。学校をどこにするのか迷っていたため、取りあえずは宿屋を予約してある。
学園から戻るときは宿屋の方へ向かうことにしている。部屋にある荷物は当分このままで良いと言われている。また後で、必要があれば取りに戻れるようにしてくださるとのことで。まあ、ドレスとかもう着ることも無いんじゃないかな。
取りあえず必要な物をトランク2つ分に詰め込んで馬車に乗せて貰ってある。
玄関ホールでは、アンやカルロスなど使用人の人々が見送ってくれた。
「お嬢様」
アンは涙声だ。思えば屋敷の中でいつも一緒に居たのは、彼女だ。
「いやいや、もうお嬢様じゃないから。もし、どこかで会ったらソフィって声をかけてね。今までお世話になりました。皆さん元気で」
一つお辞儀をして、それから笑顔で手を振って男爵様が用意してくださった馬車に乗った。
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明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
内容が新年早々で読むようなもんじゃないかもしれませんが、
引き続き、読んで頂けると嬉しいです。
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