第22話 薬草採取のお仕事
2年生の夏季休暇では、王都周辺や学園周辺では採取できなかったものを採取するために、アクシィア様の領地へ招待された。招待状を男爵様に提出したことで、すんなり夏季休暇にピスタチア領へ出掛けることが許可された。
アクシィア様も自分で素材を取りに行くこともあるそうで、
「あの別荘の立地はなかなか便利なのですよ」
と言うことになりまして。
そんな話を聞きつけて、
「お二人だけで、内緒で出かけるなんて狡いですわ」
と言われてしまいました。
結局、休みの前に将来は冒険者になろうと思っているという話、
ルフィネラ様やギネヴィア様、ミリアーサ様も別荘に一緒に行くことになりました。
「貴方、正直に話しすぎです」
ルフィネラ様に、お叱りを受けた。解せぬ。
薬の材料は、植物だけでなく動物の部位とかもある。
別荘から少し離れた森の中へと採取へと赴く時には、お嬢様方は護衛を引き連れて、ちょっとしたピクニックになった。いや、森のど真ん中には一緒に行きませんよ。周辺の良いところまでしか、彼女たちは行きません。森に入るのは私だけです。でも、森の入り口まで、馬車に乗って行くわけですよ。
「お昼にはここで皆で一緒に食事をしましょう」
「見つかったら、戻りますが。お昼までに戻らなかったら先に食べていてくださいね」
森へ行くのを見送られながら、ちょっと妙な気分。どうしてこうなった。
前もって当たりはついてたけど、お昼には間に合わなかった。お昼は一人でお弁当を食べたけれど、戻ってくると皆が迎えてくれたのが、なんとなく嬉しかった。
別の日に。採取するものが渓流沿いにいるものなのだが、その川が注ぐ湖が近くにあるという話になった。それでは、皆様は湖でボートを浮かべて楽しもうという話に発展した。
私は皆さんが湖にいる間に、隣接する森林から必要な素材を幾つか取りに行く計画を立てた。湖まで馬車で行き、湖にはピスタチア伯爵領のロッジがあるというので、そこに宿泊する。
護衛の人は湖で魚釣りして、おかずの調達もするとか。採取仕事はあるものの、なんか至れり尽くせりで楽。採取から戻ってきたらご飯が用意されているなんて、素敵。
現地では皆さん、デイドレスなんですね。私は一人だけ違う格好で。上はハイネックにベスト、下はズボンとブーツ。髪はまとめてから帽子の中に入れ込む。ウエストバックや背嚢、短剣など、いつもの冒険者の格好になる。
「まあ、その姿も素敵ね」
なんて言われてしまいました。
ここでの狙いは動物もある。皆さんは、湖、私はそこに注ぐ源流の方を目指して。
この湖に注ぐ渓流沿いの水が湧く場所にしかいないアオムネイモリ、思っていたよりもでかかった。オオサンショウウオ? ってな感じだった。なんかね、肝を使うんだって。それから、巨大なセンザンコウ。こいつは、尾っぽのトゲが凶暴で、狩るのがなかなか大変だった。ま、掠り傷程度で仕留めたけどね。魔法で網を作ってですね、絡め取ったんですよ。トゲトゲの尾っぽも近づかなければ問題はない。
夕方近くになって、ロッジに獲物を持って帰る。薬の材料だけで無く、夕飯のおかずになりそうなものも獲得して参りました。キノコとか山菜とかキジとか。
「まあ、ソフィ様は良い腕をしているわね。将来は私の護衛騎士になるのはどうかしら」
ルフィ様は冗談なのか本気なのか判らないが、そう誘われた。
いえ、人間相手は苦手なのでと返したら、妙な顔をされた。
お嬢様方、イモリなんかもにもへっちゃらでした。こういうのを見る機会がないとかで、返って興味津々で。考えてみれば魔法薬の調合って授業もあったんだから、色んな材料に興味を持っているのは当たり前か。
「まあ、綺麗な状態で仕留めていますね。状態が良いですから直ぐに処置をしてしまいましょう」
アクシィア様は、ニコニコ笑いながらイモリやセンザンコウを簡単な処理をしてパッキングしてていく。さすがピスタチア伯爵領のロッジ、そういう施設もちゃんと付いてました。
「私、氷魔法はこのために覚えましたの」
アクシィア様は、自分でも様々な調薬をするということで手際が非常にいい。
護衛さんたちが釣ったおっきな鱒も、直ぐ側で裁かれていて、ちょっと笑っちゃった。その晩の鱒づくしは中々美味しかった。ムニエルやアクアパッツァ、薬草のついでに取ってきた山菜やキノコと一緒にしたパイ。
一人で来たら、このご馳走はないよね。
「鱒料理がこんなに美味しいなんて、知りませんでしたわ。領では牧場が盛んで、牛や羊の肉ばかりですから。魚ってこんなに美味しいのですね。
今度、内の領内で鱒の養殖をしてはどうかと思いますわ。家でも是非食べたいわ」
ルフィネラ様は満面の笑みで話を持ちかけると、
「そうなると、水質とかの調査もしていきますか」
アクシィア様も乗り気のようだ。
「そうですわね。今度人を派遣しても宜しいですか。鱒の生態調査もしておきたいわ。それから、料理人も派遣してもいいかしら」
「ええ、父に伝えておきます」
領地で鱒を食べるのを確保するために、自領で産業まで興しそうな勢いだ。
でもね、皆さんはよく判っているんだと思う。決して、森の奥に入り一緒に採取に行くとは言わない。護衛の人が示す線引きをキッチリと守っている。私が一人で採取に行くのは止めない。
でも、戻ってくるとどうやってコレを取ってきたのか、どんな風な場所にあるのか等々、沢山の質問攻めに遭った。皆さん、知るということに貪欲だ。
「だって、何が役に立つのかわからないでしょう。知っていれば、将来何かの役に立つかも知れないし。それに、役に立たなくても新しいことを知る、って楽しいでしょう」
「そうですね。どんな環境で何が分布しているのか把握していれば、自分の領地でも調べられますし」
「鱒は大変美味しいと、発見しましたもの」
なんて話をして、盛り上がっている。
なんだかんだ私は採集に励んでたけど、それでも時間をみては、一緒に遊んでもいた。
この夏の休暇で皆と愛称で呼び合うような仲になった。いや、皆さん、楽しそうで何よりですが……。
学園で勉強し、長期休暇は薬草を探したり、時間の合間を見繕ってギルドで稼いだりという生活パターンで2年生が過ぎていった。ギルドでは王都周辺で採取した薬草とかを買い取って貰ったりしていた。
残念ながら、マリウスさんとはすれ違っていてあれから一度も会っていない。こちらも期間限定なので、仕方がないのかな。
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