第10話 冒険者、見習い突破です

 三ヶ月後、鉄級に上がるための試験を受けることになった。

一般的には、見習いが鉄級に上がるためには研修がある。

そこで魔物との戦い方などをレクチャーされる。王都の外に出て活動する方法を学ぶのだ。


それがすむと、パーティを組んでもソロでもいいから、魔物の魔石を一人一つ取ってこれれば、鉄級に上がれる。


冒険者の階級は、鉄、鋼、銅、銀、金の5階級だ。この一番下の階級になれるのだ。それでようやく冒険者だと名乗ることができる。


研修期間は、マリウスさんの弟子ということで、免除だ。試験官や他の鉄級の試験を受ける人と一緒に、森へ。

一番若いのは自分かと思ったら、同年代は割りといた。

「一番のチビは、お前だな」

同じ試験を受けた奴に、そう鼻で笑われた。

試験は、身長じゃ決まらない!



「良くやった」

マリウスさんが笑顔で褒めてくれた。単独行動の小鬼を見つけて、討ち取ったのだ。


「マリウスさんのお陰です。ありがとうございます」

ニッコニッコで冒険者の組合員証をマリウスさんに見せびらかした。

冒険者の組合員証が、木の札からドッグタグみたいな金属の板に変わった。名前と階級が書いてある。ステイタスなんかは見られない、ただの金属板だ。でも、この金属になるということが大事。見習いを突破した証明だから。なんか無茶苦茶嬉しい。


因みにレベルや魔法などのステイタスは、基本的には神殿のみで確認する事ができる。お金を払うと、ステイタスとかを教えてくれるらしい。

例外は、学園の入学試験だ。とは言っても、学園内にある神殿で、行なわれる。



すごく嬉しい。すごく嬉しいけど。これで、マリウスさんとはお別れになる。


最後に一緒に食事に行くことにした。一緒によく行ったギルドの側の大衆食堂だ。


デカい肉の塊とか、ソーセージやチーズ、シチューなど色々と注文をして。マリウスさんはワインを、私はぶどうのジュースを片手に乾杯をした。ここは、お礼を兼ねて私の払いだ。

「何、生意気なこといってんだ」

って言われた。これはケジメでしょうと主張して奢らせて貰うことになった。


プリッとゆでたソーセージにマスタードをたっぷりとつけて齧りついた。自分のお祝いの席の料理は、何を食べても美味しかった。

「マリウスさんが金級の冒険者になったら、教えてくださいね。その時もお祝いをしますから。

その時も、奢りますよ。きっと、僕も沢山稼げるようになってますからね」

ニヤッと笑って告げると、

「チビのくせに生意気な。お前が沢山、稼げるようになる前に、俺は金級だよ」

頭をポンと軽くたたかれた。


楽しい時間というのは、早く過ぎる。

「じゃあな、元気でやれよ。俺が教えたこと忘れんなよ」


彼は、三日後に王都を出立するという。これから暫く、依頼の関係で冒険者ギルドには来ないと言われた。長期の依頼らしい。銀級の冒険者だと指名依頼とかもあって、冒険者ギルドにいつも顔を出すわけでもないらしい。


「お世話になりました。ありがとうございました」

感無量で、目がうるうるする。でも、泣かないって決めたのだ。

「元気でやれよ、ソル。まあ、縁があればどっかでまた会えるさ」


マリウスさんのその言葉はとても嬉しかった。自分の事を気に掛けてくれるということでもあったから。


でも、多分それは難しいだろうな。マリウスさんが依頼から戻る頃は、私も学院に行くための学習期間に入る。


学園を卒業して再び冒険者ギルドに戻ってくる時には、もうソルではなくなるからだ。


6年後、さすがに妙齢なお年頃になってるのに、男の子では通るまい。どうしよう、通ったら。いや、大丈夫。きっと成長してくれるはずだ。

いつまでもチビじゃないはずだ。


成長して再び会うことができても、もう分かってもらえないだろうなと思う。

眼は碧眼じゃなくなるし、茶髪にはしないと思うし。

なにより男じゃない。そう思うと、ちょっとさみしかった。


 隠蔽については、ずっと眼の色などを誤魔化していたのが効いたのだろう。レベルが上がっている。これならば、学院の入試のステイタスチェックを、誤魔化しきれるだろう。


 そうか、学園でも眼、オッドアイじゃなくそう。両方銀眼にしようかな。ちょっと灰色入れよう。眼鏡かなにか使えばいいかな。



 マリウスさんと別れて、半年ほどが過ぎた。その間、家庭教師との勉強も頑張った。それでもたまに休日もあったので、そんなときはギルドに行って王都内の清掃などの仕事を引き受けていた。短時間で済む件だけね。


さて、いよいよ学園に行くことになるので、冒険者は休業扱いにしてもらう。この休業は6年間迄は認めてもらえる。


この国では、12歳になると学校へ行くことが義務付けられている。

万が一、該当年齢の子供を学校に行かせなかった場合は、が厳罰に処される。両親、親戚、雇い主だけでなく、近所であってもこれは適応される。


魔法を正しく学ぶことなく暴走されると、場合によっては大惨事になるからだ。学校は魔法を正しく使うための方法を学ぶためにある。だからかなり厳しく取り締まられている。


行ける学校は、身分や能力によって違う。多くの平民が行くのは3年間の学校で、魔法と読み書き、計算を習う。

どの学校でも希望者には寄宿舎が用意されている。場所によって違うが無償の場所も多い。


また、学校の存在は埋もれている人材発掘という意味合いもあると聞く。

能力があれば、6年制の学園の4年に編入する。

学園は5箇所ある。魔法だけでなく、その他の成績が良ければ、推薦され編入が可能なのだ。奨学金制度も充実している。研究職に就きたいならば、その上の学院に行くことになる。

これもそれも国が安定しているからこそ、行えるのだろう。


休業届を出しに行くと、

「ソル君は優秀だから、きっと学園へ編入しちゃうわね。そうすると6年は休業か。寂しくなるわね」

ミリィさんはそう言ってくれた。端っことはいえ貴族なんで、6年は決定なんだとは、言えないので。


「どうなるかはわかりませんが、戻ってきた時は宜しくお願いします」


「そうそう、学校のために休業届を出す場合は、長期のお休み時に余裕があれば、仕事を受けるのは可能よ。単発、短期のものだけどね。

買い取りとかは、いつでもするからね」


おお、それは良い事を聞いた。なんだ、シンミリしちゃったけど、またマリウスさんには会えそうじゃん。


「そうなんですか。教えてくれて、ありがとうございます。じゃあ、休みの時には、また来ます」


「ええ、待ってるわ」

ふんわり微笑んでくれるミリィさん。人気の受付嬢だって、わかるよなあ。



でも6年後、このギルド支店には戻らず、違うギルド支店に行こうと、この頃は考えている。なぜならば、王都から出ようと思っているから。

そういう事もできたはず。


ごめんなさい。

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