第9話 弟子入り
「ありました、マリウスさん」
王都の近く、東の草原に来ている。教えてもらった薬草が見つかって、ついついそちらに気を取られて小走りでその場所へ。確か、アコニチウムだっけか。根っこが一番薬効が高いんだったよな、だから全部を採取するはず、と教わったことを思い出しながら採取用の袋を取り出そうとした。
「ソル、どんな時も周りに注意を向けろ」
直ぐ側で、角兎の首を切り落としたマリウスさんが告げてきた。角兎は不用心に向かってきた私に飛びかかろうとしたところを、側にいたマリウスさんが仕留めてくれたのか。角兎は草原にすむ低級の魔物だ。
「ごめんなさい」
「いつでも、周囲への警戒を怠るな。それを癖にしておけ」
「はい」
あの現場で助けてくれたのは、銀級の冒険者のマリウスさんだった。前々から良い噂がない銅級冒険者のバドゥが、何やらコソコソしていたので気になったのだという。側にいた連れに言付けして、追っていったらあのシーンに出くわしたらしい。
まあ、そのお陰で助かった。
バドゥは私が受付嬢のミリィさんと仲がいいのを嫉妬して、と言い訳をかましたらしいが、余罪も後から出てきた。
今回のことでは、彼は罰金と半年間の奉仕活動が決まった。階級も下がる。
ちょっと依頼を失敗してムシャクシャしてたりすると、八つ当たりで、目についた下級を嬲っていたという。見習いは私ぐらいだったそうだが、えれえ迷惑だ。
私に関しては、ちょっと違ったのは本当らしい。
下水道掃除の件から、見習いなのにミリィさんが専任みたいになっていたから、嫉妬して八つ当たりなのは本当だったようだ。
ミリィさんが、見習い窓口ばかりに関わっている形になっていたのをやっかんでいたんだと。
ギルドとしては、皆が嫌がる掃除を進んでする人間を放したくないからだと思うんだけど。
ミリィさんに気に入られたければ、真面目に下水道管の掃除をすれば良かったんだよ。
あの時、咄嗟に動けず何も出来なかった。弱い自分が許せないと思った。
治療をしてもらって、気がついて、悔しくてボロボロ泣いた。
「強くなりたい」
そう言って泣く姿を見て、多分マリウスさんは人が良いんで絆されてくれたんだと思う。冒険者の基本的な事を手解きしてもらうことになったのだ。弟子入りだ!
と言っても、ずっと一緒にいてくれるわけではない。マリウスさんは現在大きな仕事が終って、3ヶ月ほどの休暇を取っているんだそうだ。
その間だけ、色々と教えてくれるって。
最初は師匠て呼んだんだけど、
「師匠呼び、止めないか。なんか恥ずかしいんだが」
頬をポリポリ掻きながら、ちょっと困ったような表情で立ち止まった。
「えー、色々と教わるんだから、師匠です」
「お前、期間限定なんだ。癖になるから止めとけ。マリウスさんでいい」
そう言われて、残念ながらやめた。師匠、というの憧れてたんだけどなあ。
最初は、ギルドにある修練場で、手合わせをしてもらった。
「基本的な事は齧ってるのかな。まあ初歩の初歩だけだが」
暫くは、修練場に通った。
町中の仕事と鍛錬の日々だった。
それから、王都の外で採集などの依頼を一緒に受けることになった。
採取や討伐などで王都の外に行くには、ギルドに設置されている門を通じて外に出る。転移門だ。
王都の四方には城壁の外にギルドの派出所があって、そこに出るのだ。獲物を持って街中を歩かなくても良いようになっている。大概は、このギルドの派出所で買取されるからだ。
東が最も弱い魔物が出現し、西側には手強い魔物が出現する傾向がある。ゲーム知識だけどね。
本来ならば見習いになりたての私は、この門は使えない。
使えるようになるには鉄級に上がらないといけない。
マリウスさんの弟子になったから使わせてもらえるのだ、ラッキー。
薬草の採集は、草原と森では種類が違う。種類が違うと、採取する部位も違う。植物はその種類によって、生えている場所が違うので、どんな場所に生えているか、よく覚えておくように言われた。採取道具も揃えた。
薬草採取を専門にしている冒険者もいると教わった。
「どんな生育環境なのか、知っていれば的確に採取できるからな。
それに、やたらめったら取ってくればいいという訳じゃない。薬師が使うのに必要な状態で採取するっていうのも、知識と技術がいるんだよ。どんなに貴重な薬草だって、採取した状態や保存状態が駄目だったら使えない。使えない物は買い取りして貰えないからな。それに薬に使うのは薬草だけじゃないしな」
勿論、森の中にある薬草以外の採取品についても教わった。
上の級に上がるためには、小鬼も猪も単体なら、なんとか倒せるようにならないといけないから。
草原に出てくる角兎の倒し方、解体の仕方。慣れてくると森に少しだけ入り、小鬼、猪などの出やすい場所。彼らの性質や習性、その倒し方や魔石のある場所、解体等、実地で教わっている。
当然、角兎や猪とかを狙って肉食獣の森狼などもやってくる。彼等をいかにやり過ごすのか、という方法も教わる。で、木にも登れるようになりました。
木の上で、寝る方法も教わった。
それから、
「ついでだ」
といって、人との喧嘩の仕方も教えてもらった。腕力とかないから、如何に躱して逃げ出すのか。隙を見いだすために人の急所を狙う方法とか。
「お前みたいなチビがタイマンはれるとか思うな。囲まれないように、意識していろ」
「お前は、実戦が足りない。礼で始まる試合じゃないからな。開始の合図は無いし、相手も形振り構わず来るぞ」
そうだよな、いきなり膝蹴りだったし。
「圧倒的に体力も力も足りない。体力をつけるのに時間があったら、素振りとかしとけよ。冒険者なんて、体力勝負の所があるからな」
教わる基本は、実は倒し方よりも逃げ方の方が中心かも知れない。自分が極力優位な立場でない限りは、如何に上手くやり過ごすのかも重要だと言われた。
チビだから、だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます