第4話 設定は生きている


 さて、ゴロゴロと二三日寝っ転がっていたが、ようやく起きて活動しても良いと言われた。

さあ、行動開始だ! と気分を切り替えた。

と言っても、直ぐに何かするわけではなく、しばらくは観察に徹しとこう。


 男爵様は商売の才能があるようで、諸外国と取引とかしている商会をもっている。前世で言うと商社みたいなものかしら。自領での生産品を取り扱っているというのもあるけど、それ以外に商品や原料を調達してきて売買している方が中心みたい。


いやあ、偶然お客さんが来ていて、その会話の内容でそう思っているだけなんだけどね。商社じゃなければ、仲買人かな。領地に港があるんで色々と取引はしているみたい。

そのせいか、彼方此方に忙しく飛び回っているので、あまりお家にいない。


男爵様の稼ぎのお陰で、家はお金持ち。だから、学校に行くまでに色々と家庭教師をつけて貰えますよ、と侍女のアンに言われた。アンは私が寝込んでた時にいてくれた人。私、メイドと侍女の違いって判らなくてみんなメイドさんだと思っていた。


アンをメイドだと思ってたら、私付きの侍女だった。凄いね男爵家、ホントお金持ち。もっと上の爵位の家だと当たり前なんだって。


でも、着替えとかは自分でしているけどね。どちらかというと、お守りに近いのかな。


前世は一般庶民で、メイドって名前しか知らなかった。男爵家に来るまでも平民だしね。知らない事いっぱい。


 私が行っていた幼年学校は、学園に入るための前準備で行く所。家庭教師をつけられるほどではないけど、お金に余裕があるお家の子供が行くとこらしい。


試験に受かれば、いい学園にいける。平民は、無試験で3年制の学校に行くのよね。


ただ、魔法についてだけは学校に入ってから習うということで、基礎的な座学だけをちびっと。ちょっと残念。なんでも体が出来てからでないと使えないんだって。


男爵様は「お父様」、義姉には「お姉様」と呼ぶように言われた。そう言うように心がけたけど、お姉様はそう呼ばれるのは、本当は嫌だけど我慢しているようだった。まあね、そうよねとは思ったけど。


母は、あまり義姉に構わないようにしたようだ。つかず離れずといった処だろうか。


姉が諸外国の言葉を習っていると聞いて、

「私も、他の国の言葉を習いたいです」

男爵様に願い出た。


「一緒になんて、嫌です」

義姉には非常に嫌がられたが、邪魔はしないと約束して彼女が習っている周辺諸国の言葉を一緒に学ぶことにした。先生にダメ出しされたら諦めるという条件が提示されてた。


義姉も習い始めだったため、基礎的な処だったのは助かった。英会話している処にABCも判りませんっていう奴が乗り込む、という感じじゃなかったから。


男爵様の仕事の関係上、語学は重要視されていたので他の貴族よりも幅広い言葉を習う機会を得てたみたいだ。


子供ってさ、脳みそ柔軟よね。語学習っても、本読んでも、何でも直ぐに覚えられるのよ。頭に入ってくるのが面白くて、本とか沢山読みふけっちゃったわよ。

前の私より、今の私の方が賢いだけかもしれないけど。判るんで、面白い!


語学で真面目に勉強するところを見せて、

義姉おねえさまと一緒に勉強するの」

と主張した。語学だけでなく、学校の試験に関する部分だけを一緒に習うことになった。

経営学とか事業に関わる部分は姉のみだ。


義姉は、今度は諦めたのか何も言わなかった。何とか仲良くなる切っ掛けにと思っていたんだけど。殆ど話すことはなかった。いや、義姉はすごく無口だった…。


それから、一緒に勉強をして判った事だが、彼女はもの凄く賢かった。ついていくのが精一杯だった。


時々、貴族の関係だか仕事の関係だかしらないが、お茶会だとかに男爵様は義姉を連れて行くことがあった。男爵様は仕事を覚えるためだと言っていた。

10歳で、社交。義姉、凄いな。


私はいつもお留守番。義姉、大変だなと、思う。跡取りだからなあ。

でも、そういった日は、ひたすら復習をして、姉に追いつこうと必死になっていたけど。




なんだかんだで一年ほどが過ぎていって、この生活にも慣れてきた。


義姉は、いつも冷静で無表情という感じで、余計なことは一切話さない。私が面白がって色々と勉強をしているので、先生方は一緒に居ることを許して下さっているみたいだけど。義姉には迷惑だと思われている感じがする。だから、授業の時間以外の時に先生には質問をしていた。


先日、「お腹が痛い」とかで義姉が講義を休んだ。そういえば、ここ半年ぐらい義姉と食事をした記憶が無い。




さて、義姉が虐められた話。もしかして作り話や思い込みではと、思った時期が私にもありました。申し訳ありません。事実です。



義姉は、自分の母親からの形見で色々なアクセサリーを持っている。もう、ひと目見て、一流品! てわかるやつを。で、男爵様とお出かけの時に、それを身につけていくわけです。


それでね、ウチの母はそれらにどうも一目惚れしたようだ。義姉がお出かけの時にね、魅入っていたのよね。


「子供には、過ぎたものでは」

とか男爵様に言ってる所に出くわした。でも、

「あれは、母親の形見なんだ」

と、窘められたみたいだ。

男爵様はそれで、新しいアクセサリーなどを母にプレゼントしたようだ。新しいのをつけてるのを見たので。


だから、諦めたのかなと思っていたら。

今度は、私の所へやってきて、

「お姉様の身につけているペンダントやブローチ、素敵でしょう。お姉様は色々な種類を沢山持っているから、お前がお願いすれば、きっと貸してくれるわ」

と、ぬかしやがった。


ああ、きっと知らなければ、母親の言葉にうまうまと乗せられて、取り上げる事になったかもしれない。


「母よ。あれは義姉おねえさまおかあさまの形見だと聞いた。それを借りるなんて、人として正しいと思うのか? 」

と聞いてやったところ


「お前はなんて、使えない子だ! 」

と怒られた。男爵様はなんでか私に甘い。お強請り成功率は100%に近い。やはり、可愛いは正義なのだろうか。だから、私に強請らせれば、手に入ると踏んだんだろうが、そうは問屋が卸してたまるか。


ゲーム内で、義姉の語っていた話は、本当の事だったんだ。反省しなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る