第5話 従って、噂は立つだろうな

それだけじゃなかった。


先日、お腹の調子が悪いということで、あの義姉が授業を休んだというのが気がかりだった。そう言えば、食事も満足に与えられなかったと言っていたのを思い出した。


この頃、一緒に食事をとっていない。義姉が私たちと顔を合わせたくないからだ、と思っていたんだけど、引っ掛かる。


そこで、その日の夕食は、侍女のアンが止めるのも聞かず、義姉の部屋へ行った。丁度、義姉の夕食が運ばれてくるところだった。


「これが、義姉ねえさまの食事だというの」

そこにあるのは、残り物のパンや残り物の何か。水みたいなスープだった。この前の腹痛、腐ったものでも食べたんじゃないか?


男爵様おとうさまにお伝えします」

運んできたメイド、真っ青になりました。


「いえ、これは奥様が」

「そう、貴方はおかあさまのせいにするのね。義姉おねえさまは、ここの嫡子なのよ。その人への扱いではないわね」


メイドさん、ガクブルです。間違いなく母の仕業だとは思うんだが。これ、男爵様の意思もどこら辺にあるか確認したほうが良かろうと、メイドさんにしがみつかれたりしたのを振りほどいて、食堂へ。


今、お願いして護身術習ってるので、体力はお任せください。冒険者目指しているんで、頑張ってます。護身術だけは、私だけが習ってる。体を鍛えたいです、と主張してみた結果だ。


とは言っても、お嬢様に無体を働いたメイドになりかねないから、振りほどかれてくれたんだろうな。


私も無計画で、実行はしていません。ちゃんと男爵様がいらっしゃる日を狙ってます。


斯々然々と、男爵様に聞いてみました。話を聞いた男爵様は、驚いていた。考えてみれば、男爵様は忙しいので、留守が多い。だから家の中のことは、殆ど母に任せていた。


母よ、そんなに顔色を悪くするような事、しなければよかろうに。


なんか色々と男爵様に言いつくろっています。この前、腹痛で授業を休むほどだったから、簡単なメニューにしてくれと頼んだのが、ゴニョゴニョゴニョ。


男爵様は現物を見てないけど、察しはしたみたいだ。母については、一度目は目をつぶってくれるのかな。


でも、メイドさんと料理人はアウト、クビになった。人身御供ね、ゴメンナサイね。まだ男爵様が義姉に対して真っ当な対応をしてくれて良かった。


これで義姉を軽んずる使用人が、抑えられるかな。少なくとも私の存在を認識すれば、馬鹿なことをする使用人は減るだろう。



しかし、娘の私が言うのもなんだが、母はこんな性格だったろうか。ちょっと抜けてたケド、もう少し真っ当だっだ気がする。ゲームのシナリオ補正とかだろうか。でも、何か嫌な感じがする。


もう一つ、なんか絡んでるとか?

あんまり複雑なのは、やだなあ。それにゲーム補正だとしたら、どこに向かっているんだろう。


 母が継子いじめをしていたと知ってからの1年が経った。その間、母が義姉を虐めないように見張ってはいたんだけど。


あれからも、手を替え品を替え母は画策していたのだ。全部を妨害できたかというと、無理だった。気がついたのには対応したんだけど。


形見の品をさ、よく似た偽物と一部すげ替えていた。なぜ判ったのかって。だって鑑定持ちだもん。


偽物だと判ったけど、どうやって戻すのか。

申し訳ないけど、できそうもない。母の部屋と義姉の部屋、両方で捜し物をしなくちゃいけない。

これはちょっと、男爵様には言えない。


ただ、義姉は途中で気がついた気がする。平然と偽物のみを身につけている。他の物を身につけなくなった。


どうも、すり替えられていない本物はどこかへ預けたようだ。彼女も鑑定を持っているのだろうか。

ああ、自分の物だもんな。形見だし。判るか。


母が悔しがっていたのを耳にした。

えー、義姉の侍女もグルですかい。そうですかい。そうでなければ、すげ替えはできないよなあ。


母は、すげ替えられなかった物についても、偽物というか良く似たものを使っている。


でも、偽物だろうが、本物だろうが、それを身につける母の神経が、よく解らない。


母よ、人の持っている宝石とか、そんなに欲しいのか? 男爵様から新しいのを買って貰っただろうに。それとも、その宝石に意味があるのだろうか。


母の継子いじめは、当初はあまり目立たないようにしていた。

最初は男爵様の留守を狙ってやっていた。


不思議なことに、なぜか男爵様が段々義姉に対して冷たくなっていった。といより、目に入らなくなった? 気にしなくなった。


それでも、母は、男爵様の目にできるだけ入らないようにして、色々と文句をつけたり、詰ったりしていたようだ。


本人が身ぎれいにしているけど、新しい服などは仕立てなくなった。義姉の侍女もおかなくなった。まあ、蔑ろにしているわけだ。


そんな中でも私は、気がついたら間に立って義姉をかばうようにしていたためだろうか。


そんなこんなで、私と母との間もギクシャクしていった。そのせいか、私が気がつかない場所で何かやっていたかも知れない。


そして、男爵様よ。何故、嫡子をそんなに軽んじるのだ。

これもゲーム補正と言うやつだろうか。分からない。仕事を手伝わせたりしているのに、扱いが雑。というかムラがあった。


いつからだろうか、仕事以外では義姉を気に掛けなくなっていった。

しかも、連れて歩かなくなってしまったのだ。


嫡子だからこそ、色々と連れて行き、仕事を覚えさせていたのではなかったのか。最初はもっと大事にしていたと思うのだが。


義姉への愛情が薄れるほどに、私への愛着が深まっている気がするのは、気の所為だろうか。

始めの頃は、仕事で遠出した時には、娘二人分のお土産があった。その内私のお土産のほうが良いものになった。


でも、1番厄介だったのは、義姉かもしれない。彼女は何があっても、じっと黙って観察しているのだ。あれは、観察者の目だ。そこに何かの感情が乗っているようには、思えないぐらい冷徹な目だった。


でもね、メイドとかと話をしている所とか見たけど、笑ってた。

家庭教師の先生が褒めたら照れていた。あの眼は、家族に対してだけだったのかもしれない。それとも、私だけ?


すごく怖いんだけど、頑張ったの!を査定されている気分だった。彼女とは、殆ど会話らしい会話は無かった。非常に無口な人であった。


それでも、母からかばったとき等は、「ありがとう」と御礼を言われたりした。

それでも、仲良くなるというのは無理だった。


頑張ってはみた。でも、結局何も出来なかった気もする。使用人の人たちは、割と良い人が多かった。陰ながら義姉を庇ってくれていたようだ。

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