第110話、呼び出し内容を明かす
はじめは占いのはずだった。
それが予言に変わり、ラウディはそれに振り回された。さすがに予言となると、軽視できない。
しかしジュダに言わせると、果たしてその予言が正しいのか、いまいち信用できなかった。
二十まで男装して王子でいれば、魔王の嫁にならなくて済む? 何故ラウディなのか? 彼女には妹で、王国一の美姫と言われるフィーリナ・ヴァーレンラントがいる。そちらはいいのか?
そもそも男装していない時だってこれまであったはずなのに、魔王にはバレていないのは何故だ?
ちょっと考えただけで、予言が胡散臭いものに感じられる程度の疑問が湧いてくる。
神託やら予言やら、それが突拍子がなくても人はそれを信じようとする。それらを蔑ろにした時、予言通りになって不幸になるから。
そんなものは、その時になってみないとわからないのだが、そうやって軽視した結果、軒並みしくじっていることを考えると、如何に嘘くさい予言であっても、無視はできなかった。どんなに馬鹿らしくても。
ジュダは、その件について深く考えないことにした。当面、やることは何も変わらないからだ。ラウディの性別発覚を防ぎ、彼女を守ること。今までと同じだ。ならば気にするだけ無駄だ。何も起こらなければ、それでいいのだ。
「あの、ジュダ、ちょっといいかな?」
「いいですよ」
王城の一室。ラウディの私室にジュダはいた。
王子の部屋だ。レイアウトが寮の彼女の部屋に似ている気がした。同じ配置でないと落ち着かない……というわけではなさそうだが。
「用件は何だった? ……って聞くのはよくなかったかな?」
ラウディは、探るように聞いてきた。半分プライベートな話題に突っ込むから遠慮しているようにも見える。ジュダはじっとラウディを観察する。
「どちらの用件でしょうか?」
ペルパジア大臣に呼ばれた件か、ヴァーレンラント王に呼ばれた件か。どちらも気になっているのだろうと、見当はついているが。
「聞いても大丈夫?」
ラウディの反応を見るに、自分が呼ばれた件――王の別荘での休暇の話をしたいのだろう。その前にジュダに予定などがないか確認したいのだ。
――そういうことなら。
「あなたのお父上からの件は、たぶんラウディが呼ばれた件と同じだと思いますよ」
「あ、それって別荘の……?」
「そうです」
護衛の一人として、ラウディが選んだ騎士であるジュダが付き添うという話。
「かなりプライベートな場所らしいですね」
「うん……。あそこは自由にしてていい場所なんだけど……そっか、ジュダもいいんだ」
「何か問題が?」
「ううん。私の性別を知っている者しか、入れない場所だから。ジュダはもう知っているし。問題はないよ」
ラウディは微笑した。少しホッとしているようだった。
「父上から話を聞いたということは、ジュダも来てくれるってことでいいんだね?」
さあて、どうでしょうか――と、一瞬意地悪して、彼女の反応を見たくなるジュダ。ちょっとからかいたくなったが、そこは自重する。
それよりも、彼女の表情を曇らせる話が控えているからだ。
「もちろんです。俺は、あなたの騎士ですから」
そうジュダが言った時、ラウディは嬉しそうに頬を染めた。
――そういえば、彼女は自分の予言のことを知っているのだろうか……?
ジュダは疑問に思った。しかしそれを問うたところで、何か行動が変わるわけでもないし、ジュダのラウディへの対応も変わらない。
もし知らなければ、彼女は動揺することになるだろうが、逆に知っていたとしても、予言や境遇に対する愚痴しか引き出せない予感がした。
とりあえず、予言の話は別の機会としよう。もしかしたら、彼女の方から切り出してくる可能性もある。もちろん、知っていればの話だが。
さて――
もう一件の、ジュダにとっても、頭の痛くなる話をすることにした。おそらくラウディにとってもショッキングな話題だろう。
「それで、大臣から呼ばれた件ですが……お父上から何か伺っていますか?」
「ジュダの用件? ううん、私は聞いていないよ」
「そうですか」
さりげなく、ヴァーレンラント王も知っているアピールして、ヘイトを分散させようという魂胆のジュダである。
「護衛として王家の別荘に行く前に、ちょっと寄り道をさせていただきたいのです」
「うん」
「ルーベルケレス家から、招待を受けました」
ラウディは眉をひそめた。
「ルーベルケレス家って、侯爵家だね。それもサファリナの……。彼女に何かあったの?」
騎士学校の休みで帰郷し、そのまま戻ってきていないサファリナである。彼女の身に何かあったのでは、と思ったのだろう。
ジュダが神妙な顔をしているから、特に悪い予感がしたに違いない。
「特に何かあったという手紙ではなかったのですが……。いや、まあ一応あるのか、これは」
何と説明したものか。自分もどちらかと言えば被害者サイドなのに、何故緊張して説明しなくてはいけないのか。そう思ったら馬鹿らしくなったので、ジュダは例の書簡を差し出した。
「こういうことです」
「見てもいいの?」
「どうぞ」
でなければ出さない、とジュダは言葉を飲み込んだ。手紙に目を通したラウディの目が大きく見開かれる。
「サファリナ・ルーベルケレス侯爵令嬢との婚約……! それもジュダと!?」
すっと、ジュダは目線を外した。ラウディは言った。
「これは、どういうこと?」
「見ての通りですよ」
「私の騎士なのにっ!」
ラウディが声を荒らげた。
「ジュダ! 君はこの話を受けるのか!?」
「まさか。まずは先方の話を聞くために、出向く必要があるだけです。侯爵家のご招待ですから、理由もなく突っぱねるわけにもいかないでしょう」
「私の騎士を……!」
騎士という言い方に置換しているが、ラウディを見ていると、私の『男』という意味にも聞こえる。
王と騎士という表面の関係はそれだが、心の中では彼氏彼女な、恋愛的感情を抱いている。
それがいけなかった。表面上は、どちらもフリーと周囲は受け取っているから、ラウディが騎士学校で女子貴族生たちにモテモテで追い回されようが、ジュダに貴族の家から婚約話を持ち掛けられても、それは自然なことであり、誰も、何も悪くないのだ。
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