第13話


学校が終わって、私と美月は正門で会った後、一緒に家に向かって歩いていた。 彼女との交際後、私たちは学校が終わると、いつもこうやって会って一緒に家に帰ったりしていた。 もやは、これが当たり前のことのようだ。


美月は家に帰る途中でも、私の両腕をぎゅっと握って離れようとしなかった。最近、執着がひどくなった彼女は、よくこのような行動を見せる。 今の私は、そんな彼女の行動にかなり慣れている。やはり人間は適応の動物か。


そのように、道に沿って我が家に向かって歩いていると、私と美月は、ちょうど彼女の自炊部屋の周辺を通っているところだった。


彼女の自炊室の前にある道は、私たちが下校する時によく愛用する道だった。まさに、この道が家に早く帰れる近道だったからだ。 何より、人があまり通らない道だった。


私たちは、彼女の自炊部屋の前にある道を歩きながら、彼女が家でクッキーを作ってくれるという話をしていた。美月が道を歩いている途中、突然、良いアイデアでも浮かんだ表情をしては、クッキーを作ってあげると私に言ったからだ。


もちろん、彼女の言うことを聞いたとたん、背中が冷たくなり、彼女が私にクッキーを作ってくれる意図が分かるような気がした。今の彼女が私にすることはただ一つではないか。クッキーをあげながら私を誘惑して襲ったり、クッキーに何かを仕掛けることだろう。


今度は、美月が私と交尾するためにバイ*グラのような媚薬を入れるかも知れないという考えが、ふと私の頭をよぎった。 今の彼女なら、十分そうする可能性があった。 しかし、そう思いながらも、エプロンをかけて、クッキーを作ってくれる美月の姿は期待していた。


そのように、私たちの会話は途絶えることなく、私たちは道を進み続けた。


かなり道に沿って歩いてきた頃。 突然、私と手を組んで、手を握っていた美月の手が、だんだん後ろに押し出され、しばらくすると、彼女と握っていた手が解かれた。


「美月どうした?」


私は首を後ろに向けて、突然、歩くのを止めた彼女に尋ねた。


しかし、美月は私を見ず、私たちが進むべき方向に立っている、ある中年男性を見て、体を震わせながら怯えた表情をしていた。そんな彼女の息は荒れて、呼吸困難を引き起こし,瞳孔は収縮して小さくなっていた。私は今まで、そんな彼女の表情を見たことがなかった。


「お…お父さん…」


美月は路上に立っている中年男性を見つめながら、小さくつぶやいた。彼女のピンク色の小さな唇は震えていた。


私も彼女に沿って、首をもう一度前に向け、彼女がじっと見つめているところに、視線を向けると、そこには、何を考えているのかさっぱりわからない落ち窪んだ目と、つんつん突き出たあごひげ、荒っぽい肌の険悪な印象、お腹はまるで、妊娠でもしたかのように膨らんでいて、それに比べて腕と上半身は、比較的痩せた中年男性の姿が見えた。よく見ると、彼の片手には飲みかけの酒瓶が握られていた。一度じっと見つめた結果、少なくとも普通の人のようには見えなかった。


「お父さん?美月…それは一体どういうこと?」


私は、慌てた表情で体がこわばったように道の上に立っている、美月に聞いた。しかし、彼女は私の言うことが聞こえないようで、私の言葉に何の返事もしてはくれなかった。


しばらくして、美月がぶる震えて眺めているその中年男性も、私たちの存在に気づいたらしく、彼はかなり速い足取りで、私たちのいる方にどんどん近づき始めた。


近づいてくるその男を見て、美月は素早く私の手を取って握り、そのまま、すぐそばにある彼女の自炊部屋に向かって走った。私はそんな彼女について、逃げる彼女の後を追った。


私は彼女の後を追って走りながら、首を後ろに回わし、彼女がお父さんだと言った人を見た。


すると、後ろには、眉をひそめて、怒った表情で、私たちを睨んでいるその中年男性の姿が目に入った。それと同時に、突然、背中に鳥肌が立ち、しばらく寒気を覚えた。


そうして、私たちは息を切らしながら、その男から遠く逃げるように、彼女の自炊室に走った。


逃げる私たちは、素早く階段を駆け上がり、彼女の自炊部屋204号のすぐ前まで来た。美月はドアを開けるために、彼女のバッグから鍵を取り出そうとしているようだったが、あわてたせいで、鍵を見つけるのに苦労し、バッグを探し続けた。


しばらくして、彼女はかばんから鍵を見つけたのか、鍵をかばんから取り出した後、ドアノブに向かって鍵を差し込むことを繰り返した。しかし、彼女は手を震わせながら、鍵穴に鍵を差し込むことに失敗し続けた。そんな彼女は、さっき見た彼がついてくるかどうかを、何度も後ろを見ながら確認した。


何度試みても、鍵にはまるで油でも塗られているかのように、鍵穴を滑って、入らなかった。 ドアを開けるのを失敗し続ける彼女の顔と額、首には冷や汗がぽつぽつと付いており、彼女は呼吸を落ち着かせず、息を切らしていた。


彼女は完全に恐怖に陥っていた。 私はそんな美月をじっと見ていられなくなり、彼女の手に握られた鍵を慎重に持っていった。すると、彼女から持ってきた鍵は、彼女の冷や汗でつるつると濡れていた。私はそんなことは気にせず、まず、彼女の部屋の鍵をゆっくりと鍵穴に入れて回し,取っ手を回してドアを開けた。


ドアが開くやいなや、美月は誰よりも素早く自炊室に入った。


そして、くたくたになったのか、ドアが閉まるとともに、ドアに身を寄り掛かって座り込む美月。 私も一応、息切れを落ち着かせるために、玄関の床に座り込んだ。すると、感じられる冷たい床。


「はあ、はあ、美月…一体どういうことなんだ.. お父さんだなんて。」


私は少し息を切らしながら、私のそばに汗だくで、魂が抜けたような表情をしている美月に、また聞いてみた。


「..........」


しかし、彼女はやはり私の言葉に口を固く閉ざし、答えてはくれなかった。


「ミヅキ、一体どうしてお父さんから逃げるんだ? お願いだから返事してくれる。 うん?」


「...............................」


再び頭を下げたまま何も言わない彼女。


「............」


私もそんな憂鬱な表情をしている彼女を見て、ただ言葉を失った。 もどかしさに、私は汗が流れている額に、手の甲を乗せてため息をついた。


そうして一旦、部屋の中に入るために、私がそろそろ冷たい床から、ゆっくり起き上がろうとした時だった。 すると、美月は立ち上がろうとしている私のズボンの襟をつかんだ。首を回して後ろを振り返ると、涙ぐみながら私のズボンの襟を掴んでいる彼女の姿が見えた。彼女はまるで行かないでというような哀れな表情で私を見つめていた。


「良太…···今日はお願いだから···どこにも行かないで私の家にいてくれる...?うん…?··· 私..と..とても怖いの..."


彼女は、ズボンの襟をつかんでいる手に力を入れた。そんな彼女の姿を見ていると、私の心が痛かった。私はそんな哀れな表情と声で話している美月に近づき、彼女を私の胸に抱きしめた。


「分かった、どこにも行かないから。 心配しないで。」


私は、自分の胸に抱かれた美月をなだめるように言った。すると、美月はまるで赤ちゃんのように私にくっついて強く抱きしめながら、同時に、涙を流し始めた。


ふぅっ。ふぅっ。ふぅっ、ふぅっ。ふぅっ。


彼女の目から小さな水滴が絶えず流れ出て床に落ちた。


「よし、よし。」


私は泣き出す彼女の背中をなでながら、彼女を落ち着かせた。


結局、二度と外出できないという彼女の言葉に、私たちは、今日、彼女の家で一緒に過ごすことにした。



***



だんだん空が暗くなり、いつの間に、夜になっていた。


先ほどまで泣いていた美月は、今はある程度、冷静を取り戻したのか、ソファに座って膝の間にクッションを入れて、抱き締めた姿勢で、テレビを見ていた。


私は、そんな彼女のために夕食の準備をしていた。 今日の夕飯は彼女の好きな「オムライス」だった。


そうやってオムライスを作るために野菜を切って、ニンジンを細かく半分くらい切った頃。


隣に置かれた電話が振動を起こして鳴り始めた。 画面を見ると、そこには「伊藤和馬」と書いてあった。 私は野菜を切っていた、ナイフをしばらく置いて、片手で電話を持って電話に出た。


「もしもし。」


「あ、良太。私だよ、かずま。 良太、もし、今すぐXXカフェに来られる?"


和馬の声には何か緊迫感が漂っていた。


「急にどうした?」


「小林の母の事故に関する内容を見つけたんだけど。 今日、図書館に行って記事をちょっと探してみたら、それと関連した事件を見つけた。 でも、その内容がちょっと衝撃的でな。 それで、これは必ず君に伝えなければならないと思って電話したわけ。とにかくXXカフェに早く来てほしい。」


和馬の話を聞いて驚いたせいで、私の体が少し動いた。やっぱり、彼女のお母さんの死には何か事件があったのかな?


「ところで、今、私が必ずそこに行かなければならないのか? 電話で話すはできないの?」


私は、電話機の向こうの和馬に聞いた。


「それが…話したいことも多いし。 資料も全部今俺が持っているから、それはちょっと難しいと思う。」


かずまの返事を聞いて、片手で電話機を持っていた私は、ソファに座ってテレビを見ている美月にしばらく視線を移してみた。やはり、私の予想通り、彼女は電話している私を不安そうな表情で見つめていた。


「うん、じゃあ、とりあえずそこにすぐ行くよ。」


「うん、待ってる。」


「うん。」


私は「うん」という言葉を最後に電話を切った。


そうして、和馬と急に約束ができた私は、エプロンを脱いで、まな板に包丁を縦に差した後、外に出るために急いで着替え始めた。


美月はソファーに座って心配そうな顔で、外に出る準備をしている私をじっと見つめた。


「良太、今どこ行くの...?私たちの約束は..?」


美月は心配そうな口調で私に聞いた。彼女の両眉は、犬の耳が垂れるように'ハ'の形をしていた。 今、彼女が言ったように、私は今日の午後頃に、彼女とここで、ずっと一緒にいることを約束していた。彼女があまりにも怖がっていたからだ。下校途中に、彼女のお父さんという人に会ってから。


しかし、私は、すでに和馬にそちらに行くと言ってしまったし、何より、私も彼女の母親の事故について知りたかった。もちろん、今、私の目の前にいる彼女は、自分の彼氏がこっそりと母親の過去を知るために外に出るという事実は、夢にも分からないだろうが。


「ちょっと、どこかに行ってくるよ。 すぐに戻って来るから。 心配しないで。」


私は一応、不安そうな彼女を安心させることにした。しかし。


「行かないのは…だめなの?」


美月はそれでも不安なのか、かわいそうな表情で、私に言った。 彼女のかわいそうな表情を見ていると、私の心が痛かった。


「そ…それは…ダメだと思う..ごめんね、美月。 本当にちょっとだけ、どこか行ってくるね。すぐまた帰って来るから。。うん。。?」


「............」


「.............」


しばらくの間、部屋の中で沈黙が流れた。彼女も私の話を聞いて、少し悩んでいるように見えた。しばらくして、美月は再び口を開いた。


「ほ..本当?本当に..本当に早くまた戻ってくるの..?"


「うん。そんなに心配しないで。 本当にすぐ戻ってすぐ来るよ。」


私はそう言って、不安そうな美月に近づき、彼女の額にそっと口づけをした。そして、優しく彼女の頭を前後になでた。すると、それとともに、美月の表情が徐々に、ほぐれていくのが目に見えた。だんだんほぐれていく表情の彼女を見ていると、自然に私の口元が上がった。


しばらくして、着替え終わった私は、玄関に歩いて行き、靴を履き替えてから、ドアの取っ手を回してドアを開けた。


私がドアを90度開けて外に出ると、美月が突然、私を呼び、部屋の中から彼女の声が聞こえてきた。彼女の呼びかけに、私は部屋の中の彼女に首を向けた。


「私、今、お腹すいたから早く来てね…分かった?」


美月はかわいそうな猫の表情を浮かべながら、横髪を後ろに向けながら言った。彼女の大きな瞳孔は、満月のように丸く輝いていた。彼女の目がきらめくのは多分、涙のせいだろう。


「うん、早く行ってくるよ。 また家に帰ったら、その時、一緒にオムライス食べよう。」


彼女にそう言ってしばらくして、私は家を出た。


美月は、私が外に出た姿を、しばらくの間、見を離すことができず、ドアの方を見つめ続けた。


そして、家を出た私は、素早くカズマが言ったカフェに向かって走り始めた。家で待っている美月を思いながら全速力で走った。



.

.

.

.

.

.



しかし。


そのように外に出た私は、一つの重要な事実を見落としていた。いや、油断していた。


それはまさに今日、下校時に見た美月の父親が、彼女の自炊部屋周辺で、私たちを監視していたことを。


私が部屋を出てから、門が完全に閉まる直前、門と壁の隙間に何かが引っ掛かった。

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