第5話

学校の帰りが、下校する生徒たちでいっぱいだったころ、私は学校の正門から美月が出てくるのを待っていた。今日、私の両親に挨拶をすると彼女と約束したからだった。それで、今、彼女と一緒に私の家に行く予定だ。


そうやって、美月が出てくるのを待っていると、学校の正門を抜け出した彼女が見えた。 私は、学校の正門を出た彼女に向かって、手を大きく振ってみせた。


美月も私を見たようで、彼女は大勢の人波をかき分けながら、笑顔で私に近づき、私の胸にすっぽり抱かれた。 周りから羨ましげに私たちを見つめる視線が感じられた。 私はそんな人々の視線をものともせず、私の胸に抱かれた彼女を見て言った。


「今日が約束の日だね。」


「うん、ちょっと緊張するけど、良太と一緒なら問題ないと思う。」


そう言って、ミヅキは彼女特有の明るい笑顔を私に見せてくれた。


私たちは、一週間前の約束通り、お互いの手を繋いで、私の家に向かって歩き始めた。


歩きながら、ふと首を横に回して見ると、そこには、私と手をつないで歩いている美月の横顔が見えた、彼女は、私が心配していたのとは違って、鼻歌を歌いながら歩いていた。私は、しばらくの間、そんな彼女の変わらない美しい横顔に、夢中で彼女を見つめた。


いつも見ながら思うことだが、私の彼女であるミヅキは、いつもきれいでかわいいと思う。 そのように思いながら、彼女の美貌に思わず長い間、目が奪われていると、彼女と目が合った。


私は、恥ずかしさで顔を赤くし、彼女の反対方向に首を向けた。 小林はそんな私を見て、少し笑った。


私たちは、そのように少し雑談もしながら、道に沿って、私の家に向かって歩いた。


道に沿って歩いた私たちは、しばらくして、私の家の前に到着した。


うちの家は小さな庭がある、そんなに広くない平凡な2階建ての一戸建て住宅だ。


家の2階が私の部屋だった。 私は一人っ子なので、今まで一人で2階を独占することができた。


美月と一緒に、手をつないで家の中に入ると、母は私を迎えに来るため、ドアを開けて居間から出てきた。


そして、居間から出てきた母は、私のそばにもう一人いるのを見て、母は驚いた表情を隠すことができず、私に近づいては、耳打ちで隣にいる女の子は誰かと聞いた。


「隣にいるきれいな子は誰? まさか良太の彼女??!」


母は口を大きく開けて、私の肩を両手でたたいた。これは私の母が興奮したときの特徴だ。


私は驚いた顔をしている母に、数ヶ月前から付き合うようになった彼女だと答えた。


その言葉を聞いた母親は、「どうしてこんなきれいな子を私に隠すことができるの!」と言って、明るい笑顔で美月を歓迎してくれた。


美月は、浮かれている私の母の激しい出迎えに、少し慌てて体がこわばっているように見えた。


「学校で勉強するのに大変だったと思うけど。 早く入ってきなさい。」


優しい表情の母は、玄関に立っている私たちを居間に案内しながら言った。


私は、隣で緊張感が顔ににじみ出ているミヅキと一緒に、母の後を追って居間の中に入った。


居間に入ってきた私と美月は、円形の木の机を囲んで座った。


母は食べるおやつを用意してくると言って、キッチンに入った。


母が厨房に入って姿を消すと、美月はやっと緊張した姿を見せ、絶対に逃さないというように私の片手を彼女の小さな両手でぎゅっと握った。すると、彼女の手から汗がにじみ出ているのが感じられた。私はそんな彼女を安心させるために、口を開いた。


「ミヅキ、そんなに緊張する必要はないよ。 お母さんも君のことが気に入ったみたいだし、うん?」


私は、うつむいて不安そうな美月に言った。


「そうなの…? 良太がそうだと言うのなら…」


美月は、私の言葉にそっと顔を上げて答えた。 顔を上げた彼女の瞳には不安が漂っていた。


幸いなことに、しばらくすると、美月はある程度落ち着きを取り戻したらしく、私の手をぎゅっと握るのをやめた。その代わり、指を入れて指を絡ました。


そのように、ミズキと二人で座っていると、母親は盆に丸いお菓子と飲み物が入ったコップ2つを乗せて、厨房から出て姿を現した。


厨房から出てきた母は、飲み物が入ったコップをテーブルの上に置き、美月と私の前に運びながら、美月に聞いてみた。


「失礼でなければ名前を聞いてもいいかしら。」


「小林美月です。」


美月は少し緊張した声で答えた。


「あら、きれいな名前だね~。どうしてうちの息子はこんなきれいなお嬢さんを私に隠すんだろう…」


母は、私のわき腹をひじで軽くたたきながら言った。わきばらが痛い。


母は、気になることが多かったのか、美月と私にいろいろ聞き始めた。


学校での生活とか、良太のどんなところが好きなのかとか、等々、お母さんがこんなに口数が多くなったのは初めだった。


そして、お母さんの話が続く中、ついに私が望まなかった質問が来てしまった。


「誰が先に告白したの? あ、それよりどうやって付き合うようになったの?」


私たちは首を回してお互いを見つめ合った。 そしてしばらくお互いの目を見つめた。 私たちは目を少しずつ動かし、お互いにしか分からないシグナルを送った。そして私が先に言った。


「学校で美月を見て、一目惚れしてしまって、つい私が彼女にデートの申し込みをしたんだ。」


私は、少し慌てた表情で、手を頭の後ろに乗せたまま、お義母さんに話した。まぁ、嘘ではなかった。あの時、デートの申し込みをしたのは確かに私だった。


母は、私のいうことを聞いて、驚いた表情を浮かべては、息子がこんなに大胆だったのか、私を見つめ直すような視線を送ってきた。


「それで告白は誰が?」


母は興奮したように、声が上がっていた。 母親は少女が恋の話を初めて聞くような表情で、身を乗り出し、顔を近づけてきた。


そして、私がそんな母の言葉に答えようとした時だった。


突然、美月は、私よりも先に口を開いた。


「私が先に告白しました。良太がとても気に入ったからです。」


美月はそういって、そっと笑った。彼女の顔には笑みがにじみ出ていた。

私は、全く予想外の状況で、首を横に回して、そんな美月の横顔を見るだけだった。彼女が、なぜ自分が先に告白したことをそんなに強調したいのか、私には全くわからなかった。でも、良く考えてみると、彼女の言うことは事実かも。私を誘惑してきたのは確か、彼女だったから。


母は、答えが自分の予想とは違ったらしく、首をかしげた。


「デートを申し込んだのは、うちの息子なのに、告白を先にしたのは小林さんだなんて.. 何があったのかは分からないけど、うちの息子すごいね!」


母は笑いながら私の頭を撫でた。髪の毛がばらけた。


幸いなことに、その後、お母さんとの会話は続いたが、母はそれ以来、私たちがどのように出会ったかについては、質問してこなかった。


私たちの出会いについて話してからは、美月とお母さんは、そろそろ口を開き始めたのか、いろいろなことについて話し始めた。


私の母と話している美月の顔には、笑みが絶えなかった。あんなに積極的で幸せそうに笑いながら会話する彼女の姿は、まるで母親の娘のように見えた。 私の母も、彼女を自分の娘だと思って話しているのかもしれない。


ミヅキがあんなに幸せそうな表情で、私の母と会話を交わしているのを見ていると、何か微笑ましい表情になってしまった。


もしかしたら、彼女は今までずっと、このようにほっとして、会話ができる相手を探していたのかもしれない。彼女は学校ではほとんど女神のような存在で、こんなに気楽に話せる相手はほとんどいなかっただろう。それに、幼い頃に、自分の母を亡くしただけでなく、彼女の父は家を出てしまったから。


美月とお母さんの話が続く途中、いつの間にか、物語の流れは美月の過去に流れていた。


母は、美月の母が、幼い頃、事故に遭って亡くなったのを聞き、ほとんど涙を流しながら聞いていた。


母が、涙を流しながら、気をつけて、何の事故で亡くなったのか、彼女に尋ねると、美月は頭を下げて、何も言わなかった。うつむいた彼女の顔は、何か昔のことを思い出しているように、ぼっとしていた。


そんな彼女の姿を見た母は、自分が彼女の悪い記憶でも呼び起こしたと思ったのか、すぐに彼女に謝り、言いたくなければ言わなくてもいいよと言った。


前に、私にもこのようなことがあった。


私がミヅキと交際してから、だいたい2週間しか経っていないとき。


私もあのとき話してた、彼女のお母さんの話が気になって美月に、母がどんな事故で亡くなったのか聞いてみたのだった。今まで、どんな理由で亡くなられたのかは教えてくれたことがなかったから。


すると、彼女は、私の質問にそれだけは答えられないと言った。 私の質問を聞いた彼女の表情は、はるかに暗かった。かなり悪い記憶でもあるように見えた。もしかしたら、交通事故のように普通の事故で亡くなったわけではないかもしれないという考えが、その時、私の頭の中に浮かんだ考えだった。


母は話題を変え、父は、今、何をしているのとミズキに尋ねた。


彼女は、お母さんの質問に少し悩んだ後、「今、父が何をしているのかは、実は、自分にもよく分かりません。」と話した。


また過去に戻って、私も、美月のお母さんについて聞いてから、今と同じような質問をしたことがある。


その時、彼女は、自分の父親は、母親が亡くなった後、家を出て、ほとんど家に帰ってこなかったと彼女は言っていた。そして、父親について話す彼女の表情は依然として暗かった。


あの時、そんな美月を見て私が感じたのは、彼女には、過去に何か大きなことがあったということだった。


しかし、私ができるだけ、気を付けながら、美月に彼女の過去について話そうとすれば、彼女はいつも避ける様子を見せた。


それで、私もそれからは、過去の話には触れないように努力しているところだった。


「今、父が何をしているのかは、実は、自分にもよく分かりません。」


また、現在に戻り、母が美月の返事を聞くと、さっきの和やかな雰囲気とは裏腹に、居間の雰囲気が急に冷たくなり、しばらく沈黙が流れた。


部屋を満たしていく沈黙に、首を回して母親の顔を見ると、母親の顔には黒い影がかかったように暗かった。


このような状況なら、母が私に今すぐミズキと別れるように言ってもおかしくはなかった。なぜなら、親がほとんどいないのと同じ子を好む親はいないから。もし、自分の子供がそんな子と付き合うようになったらなおさら。


しかし、もう終わりだと考えている私の考えとは反対に、母は、自分の前に座っている美月を抱きしめて泣き出した。


母の涙に、彼女の目からも涙が出そうになった。 そして、彼女もまた、すぐに涙を流した。彼女は今まであったことを全部流すように、鈴のような涙を彼女の大きな目から、何度も流した。


こんなに泣く美月の姿を見るのは、私も今が初めてだった。私は今の雰囲気を壊さないために、静かに席を外した。



***



約10分後、私は、今の扉をゆっくりと開き、母と美月のいる居間に戻った。


ドアを開けて入ってくると、母の膝を枕として、すやすや寝ている美月の姿が見えた。寝ている美月の目元には、今まで泣いた涙の跡がまるごと残っていた。


私はそんな彼女をみて、彼女が起きないように静かに、タンスから枕と布団を取り出した。


そして、彼女の隣にタンスからもってきた、布団を敷いた後、寝ている美月をそっと持ち上げて、その布団の上にそっと置いた。さらに、その上に布団をかけた。


母は、そんな私を見て言った。


「良太、君が彼女の心の安息所になりなさい。」


母の言葉に、私はうなずいた。


「私が、君を必ず幸せにしてみせる。」


と私は、寝ている彼女の顔を眺めながら、心の中で誓った。

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