第12話  同

家中があのコの狂気に包まれていた。

「私には……

願い事なんて無いわ!

だから、あなたに願いをする事が無いわ!!」

勇気を振り絞って叫ぶとあのコは目を大きく見開き私を睨んだ。

「嘘だ!!

願い事が無い人間なんかいないだろう!!

これまでだって誰もかれも俺様にすがるように願って来たんだ!!

人間なんて自分の事ばかり考えて強欲じゃないか!!

おまえもそうだろう?

欲にまみれた愚かな人間だろ!?」

そう言われ、我に返った。

確かに、毎日つまらなくて何時も‘’何か‘’を求め願っていたのかもしれないけど、こんな異様な状況なんて望んでいないし、もちろん求めてもいない。

誰かに叶えてもらう願いなんて欲しくなんか無かった。


「あなたが会って来た人達はそうだったのかも知れないけど、私はあなたには願う事は何にも無い!

願い事は自分で叶えるわ!!」

そう言った私を見て、あのコは小刻みに震えながら少しずつ変化し始めた。淀んだ色が薄い白になり気迫も弱くなっていった。

「今のおまえなら願いを言うと思ったのに…

どうして楽に願いを手に入れないのだ…

……

ならば、仕方ない…」

弱まったかの様に見えた筈のあのコは、また威力を増し始め違う姿に変化しながら真っ黒なイビツな形になっていった。

「ヤバいな…

おまえ達は外に逃げろ!!」

盾になっていた彼は私達を玄関へと押し出した。

「何をしている!

おまえに邪魔をする理由なんか無いだろ!?

ちょっと待て…

そうだ!あの時もおまえが現れたな!

何故また邪魔をする!

まさか、おまえもあの娘が欲しいのか?

おまえ、さては俺と同じだな!

おまえには渡さないぞ!

あの娘は俺のモノだ!」

「おまえとは違う!同じじゃない!

俺は彼女をおまえなんかに渡さないだけだ!」

彼女と玄関から外へと逃げ出すと中の彼らの声は響きわたり迫力が伝わっていた。

‘’彼があのコと同じって??‘’

その会話に動揺しながらも犠牲になってくれている彼が無事に出て来るのを祈りながら待っていた。


暫くすると、あんなに降っていた雨は止み雲の隙間から日射しが出てきていた。

静かな時間が流れ、物音すらしなく中の様子が全く分からなくて不安になりながら私の心臓はバクバクと音をたてていた。

彼女と繋いだ手は汗ばみ震えていた。

日が暮れるまで待っていたけれど、彼は中から出て来てはくれなかった。

「暗くなちゃうね…

もう帰らないと…」

あのコと彼はどうなったのか気がかりだったけど、仕方なく帰宅する事にした。

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