第9話  賭

次の日、小雨が降ってはいたけど再び扉のあのコに会いに行った。

彼は私を何度も見て不安そうにしていた。

「本当に大丈夫か?やっぱり違う手段を…」

「大丈夫…大丈夫だよ!

彼女もあなたも側にいてくれるでしょ?」

引きつった笑顔をしながらも二人を心配させないようにしていた。

「あのコってクレって名前なんだっけ?名前で呼んだほうが良いかな?」

「いや、ヤツの本当の名前は誰も知らない。

ヤツが勝手に名乗ってるだけだから、名前で呼ばなくていいよ。

それより…本当におまえ行くのか?」

彼は何度も私に聞いていた。

内心、大丈夫なわけ無かった。得体のしれないのに会うなんて私の人生で有り得ない事だし、彼女の姿を見ただけで‘’自分も同じ目に遭ったら…‘’と思ってしまう。昨日、自分で決めたのにその決心は揺らいでいた。


扉の部屋に着くと彼と彼女は隣の部屋で見守ってくれる事になった。

私が震える手で扉をノックしようとすると

「やっと会いに来てくれたね。」

あのコは音を奏でるよう陽気に話し掛けて来た。

「話…聞いてくれる?…」

恐る恐る言いながら隣の部屋を気にしていた。

「今日こそ、君の願いが聞けるんだね~

ずっと待ってたよ~

待ちすぎて、その間に他の人の願いを叶えてあげてしのいでいたよ。

まさか、彼女と友達になるなんて意外だったけどね。」

何だか今日は聞きもしない事も良く喋っていて気持ちが悪かった。

「で、君の願いは何だい?」

「…彼女のシミは消せないの?」

私が問いかけると

「………。

消せないわけは無いけど…

彼女のシミを消して欲しいって言う願いなのかい?」

私は‘’願わない‘’で聞けるよう言葉を選んでいた。

「じゃ無くて…

あなたには出来ないの?」

そう聞くと扉がガタガタ鳴り、中からうめき声が響いていた。

私は怖くなり後退りしながら、隣の部屋に彼達が居るかを確認しようとすると

「君は願いをしに来たんだろう?

そうだよね??何で願わないの?」

その声と共に扉が開いていった。

中から、白くて丸いフワフワの綿の様な物体が私に向かって来た。

その姿は想像していた恐ろしいものではなく、むしろ愛らしさがある感じがして気が抜けていた。

‘’こんな可愛らしいコなら話しやすい‘’

そう思っていると

「…その姿はヤツの本当の姿じゃない。騙されるな…」

隣の部屋の彼が小声で語りかけて来た。

本当の姿を予想しながらも、今の姿なら話し易いと思い問いかけた。

「彼女のシミは、あなたなら消せるの?やって見せてよ。」

「だから…

それが君の願いなの?」

私が首を横に振ると家中が音をたて始めた。

扉のコは白から濁った色に変わり始めてきて体も段々と形を歪ませていた。

「君は彼女を助けたいなら、そう僕に願えば助けられるよ。

願いなよ。

彼女を助けてって。」

扉のコは急かすように私に詰め寄ってニヤけていた。

「私は彼女を助けたいけど……

本当にあなたが彼女のシミを消して助けられるか分からないじゃない!」

強気で放った私の言葉に怒りを爆発させ暴れ始めた。

「何だと! この僕に出来ない事があると言うのか! 」

古い家はホコリを立てながらグラグラ揺れ壊れそうだった。

可愛らしかった扉のコは怒りと共に大きく膨れ迫って来ていた。

「じゃ、やって見せてよ!そうしたら信じるわ。」

私はあのコがムキになってくれる事を賭けていた。

それはイチかバチかの賭けだった。

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