第8話  願

外は土砂降りになっていた。

私達は無我夢中であのコから逃げ、早足でこの場から離れて雨宿り出来そうな所を探していた。

「どうして私が居るって気がついたんだろう?」

「ヤツは始めから、おまえ狙いだからな。」

「えっ?」

やっと街灯が見えてきてホッとしていたが、でも彼女は立ち止まって歩こうとしなくなってしまった。

「どうしたの? もう少しだよ頑張ろう。」

私は彼女の肩に手を掛け連れて行こうとした。

「私…人前に出たくない…

見られたくないよ…」

彼女の気持ちが痛い程分かったって私も足を止めた。

「少しでも人がいる明るい所に行こう。今は…ね。」

なだめるように彼は言ったが彼女は歩こうとはしなかった。

私は雨にうたれながら、今起こってる事が夢なら良いのにと考えていた。

「あのさ、扉のあのコは何で私の事知ってるの?」

「おまえは前にヤツに会った事があるからな…」

私があのコに会った事があるなんて意外な答えに戸惑っていると

「本当に色々忘れてんだな。俺の事もヤツの事も…

おまえ今楽しくなくて何かを求めてんだろ? 

そこにつけ込まれたんだな。きっと…

昔と違って、ユルユルだからな〜」

そう言いニヤけ顔をしている彼に腹がたったが、昔会った事があるなんて私の記憶には無かった。彼を思い出せない事と何か関係あるのかと気になった。

「しかし、困ったな…

天気が良い日を待ってる時間も無さそうだな…」

「私ならあのコは会ってくれるんでしょ? 

なら…

私が行ってみるよ。」

「おまえは馬鹿か!!

ヤツはおまえを狙ってるんだぞ!それこそヤツの思うツボじゃねえか!」

凄い剣幕で怒鳴る彼の顔は真っ赤になっていた。

‘’この顔、見たことがある‘’

一瞬何かを思い出した。でもそれは一瞬でそれ以上には思い出せなかった。

「もう…いいよ…

ありがとうね…あたしなんかの為に…」

泣きながら謝っている彼女の姿を見て、私は助けてあげたいと強く思った。

彼女の事はあんまり知らないけど…面倒で厄介な事は嫌だけど…そうは思っていても、今私に出来る事をしてあげたかった。

「願わずに彼女を助けるには、どうしたら良いの?

何か良い作戦は無いのかな?…」

「本気か?… おまえ、ヤツが怖くないのか?…」

私が頷くと彼は困った顔をしていた。

「…じゃ、絶対にヤツに願うなよ!何を言われても願いを言わない事、それだけは約束しろ…」

雨は振り続き、私達はずぶ濡れになっていた。


昔、私は彼にもあのコにも会っている…

気になりすぎて、思い出そうとしても思い出せなかった。

私の忘れている記憶には何があったんだろう?

それに、本当にあのコに願わずに彼女を助けて貰えるか不安だった。内心、自信は全く無かった。

でも、そんな素振りを見せてしまうと彼女が増々諦めてしまい、あのコに消されてしまう…

だから無理に強気を装っていた。

彼はそんな心を見抜いたのか、私の手を強く握ってくれていた。

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