第4話  夜

この家の扉のコが居るなんて私はまだ信じきれてはなかったけど、彼女のシミの原因が分かるのはこの家の中にあると感じていた。

ともかく、彼女にはキチンと始めから話を聞く必要があった。

「あの扉の事、お祖母ちゃんから何て聞いていたの?」

「お祖母ちゃんは…

‘’本当に困った時に扉を叩いてお願いしなさい‘’って…

‘’でも、叶えて貰ったら大事な物は無くなってしまうよ‘’って…

それから…

‘’一度お願いしたら、取り消せないから良く考えて覚悟をしなさい‘’って…」

泣きそうな彼女は今にも倒れ込んでしまいそうで、私は彼女の体を支えながら聞いていた。

「それでも、どうしてもお願いしたくて扉を開けたんだね。

扉のコは、何て言って願いを叶えてくれたの?」

「君の願いを叶えてあげるから、とりあえず左眼をちょうだいって…」

あの家に連れて来られた時から、なんちゃって話だろうと聞き流さないで、彼女の話をちゃんと真剣に聞いておけば、彼女が扉を開けるのを防げたかもしれないと思うと自分に腹が立っていた。

「行くよ」

彼女の手をギュッと握り中に入って行くと、庭にあるヘコみが大きくなって見えた。

取り敢えずあの扉の部屋へ向かい立ち止まり深呼吸をした。

「扉をノックすれば良いんだよね」

私の問に彼女は黙ったまま頷いた。

私は意を決して扉を2回ノックした。でも扉は開かないまま沈黙の時間が流れた。

‘’やっぱり、何にも居ないのか?‘’

そう思って力を抜いていると

「ねえ、居るんでしょ? 少し聞きたい事があるの。開けて…」

彼女がすがるように扉に話しかけた。

暫くすると、扉の向こうから声がした。

「君か…

何か用か?…

もう君の願は叶えてあげたよ。」

その声は木琴の様な不思議な声だった。

「お願い…聞きたい事があるの。

扉を開けて出てきて。」

彼女は扉に喰い付くようにして話しかけていた。

「ダメだよ。

眠いし…。

それに、一度会った人間とは会わないんだ。」

「そんなの聞いて無いよ…」

「君は僕の事、良く知らないで願ったんだね。

それは君がいけないよ。

でも、願ってしまったんだから仕方ないね。何が起こっても僕には関係ない話さ。

帰ってくれないかい?もう眠たくて…」

それからは何度ノックして声をかけても無反応で私達は困り果ていた。

「もう暗くなってきたから帰ろう」

彼女はか細い声でそう言った。

「でも、このままじゃ…」

私が渋っていると

「この家は今は夜には居ちゃいけないの」

「何で?お祖母ちゃんの家だったんでしょ?」

問いかけると

「お祖母ちゃんがいた頃は大丈夫だったんだけど、亡くなってから此処は夜になると普通じゃなくなってるの…

とにかく、夜はダメ。帰ろう。」

彼女に促され家を出た。

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