終焉
まもなく日が昇る頃だろう。私は病院から少し離れた河川敷の橋の麓に倒れ込んだ。体全身に苦痛が走る。呼吸をするのも困難に感じる。不意にスマホが振動するのが分かった。ポケットからスマホを取り出す。画面には病院の名前が映し出されていた。
「もうバレたのか…。もっと遠くまで逃げないと」
スマホの電源を切ってから、私は全身に力を込めて立ち上がる。しかし、痛みに耐えきれず橋の壁に寄りかかってしまう。なんとか地面に這いつくばりながら人目につかなさそうな橋の下の影になっているところまで行く。そして私はそっと目を閉じた。
「さらさらさらさら…」
今まで気にしていなかったはずの川の流れる音がやけに耳につく。
「魚だ。」
川の中をよく見ると小さな魚が1匹川の下流の方に泳いでいた。私は近くに落ちていた太い木の棒を手に取って、杖の代わりに使いながら川沿いを歩き始める。ところどころ、石で躓きそうになったりもしたが必死に踏ん張って何とかあの魚の後を従いていった。しばらくして着いたのはある海岸だ。ちょうど朝日が昇り始めるタイミングで、海面には太陽からの一本のオレンジ色の線があった。
「綺麗…」
私は腰掛けてその風景を眺める。天国なのではないかと錯覚してしまうほどどこか神秘的で美しい。スマホの電源をつけると不在通知の表示がいくつもあった。カメラのアプリを開いて写真を撮る。
「そういえば私、今までどんな写真撮ったっけ?」
フォルダの中を漁ると懐かしい思い出が頭の中に蘇る。ほとんどが風景や物の写真だ。そりゃそうだ。だって誰かと一緒にいることなんてほとんどなかったのだから。でも、少しだけ私が写っているものがあった。その顔を見ると心の底から笑えていないんだろうと感じる。誰からみても明白なほどの作り笑いだ。いつから上手く笑えなくなってしまったのだろう、なんて感じた。私はスマホを海に落とす。
「もうこんなものに価値なんてない。思い出なんて誰かが言った戯言だ。」
大きく深呼吸をする。私はある場所へと向かった。
「久しぶりだな」
懐かしさを感じるほどではないにしろ少しの間入院していた私にとって自分の家に入るのは少し新鮮さを覚える。
「どこにあるかな?」
私は昔使っていた勉強机の中を探す。
「あった」
それは、高校生の時に書いた遺書だ。あの時から何も変わっていない。改めてそう感じる。そこそこの距離を歩いてきて、疲れ切ってしまったのでベットで一休みしよう。そうしてからあの時のことをもう一度体験してみてもいいかもしれない。私は最後の睡眠を取った。
気づいたら夜になっていた。私は遺書を勉強机の棚にしまって駅に向かって歩き始める。木の棒をつきながら歩いている私をみて怪訝な顔で見てくる人も少なくは無かった。駅に着いた時、私は交通系ICカードを持っていないことに気がつく。
「もうどうでもいいか」
誰も見ていないタイミングを見計らって改札を潜り抜ける。しばらくして電車の通過する合図が鳴り始めた。私は飛び込んだ。すぐに勢いよく電車がホームに入ってきた。私の体にぶつかる。
「今までありがとう。来世はもう少しマシな人生を送れるといいな」
ホームでは混乱が起こった。飛び込み自殺の影響で電車が2時間ほど遅れた。でも、次の日からは何事もなかったかのように、元からその人なんかいなかったかのように、いつもと何も変わらない生活が送られていた。
死に方探し 10まんぼると @10manvoruto
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