ストレガトディ⑧

「何が……ッ⁉︎」


 銃撃によって霧島の詠唱が一瞬 中断した。


 彈彈ダンダン———ッッ‼︎‼︎


 更に二発。俺の手首を貯水槽に繋げていた手錠の鎖が火花を散らして弾け飛ぶ。


 こんなハリの穴を通すような精密射撃が出来る奴を俺は一人しか知らない。


「………ぉ、せぇんだよ瀬後さんッッ!!」


 勢いのまま立ち上がり千切れた触手の群れを踏み越えて前へ。


 横目に見た新校舎の屋上で発射燃焼マズルフラッシュが煌めき、眼前に伸びていた触手を薙ぎ払う。


「ッッ‼︎」


 焦った様子の霧島が再び本を開き詠唱を再開しようと試みるが、それは余りにも遅い。俺は既に一呼吸で距離を詰め、間合いの内側に入り込んでいた。


「——————フゥ、ッッ‼︎」


 肺に溜めていた酸素を吐き出すと同時に身を捻り、無防備に晒された霧島の喉元に鋭い抜き手を突き刺した。


「……ッ、ァ…⁉︎ ガ…ッ」


 対魔術師戦闘における基本、喉を潰し詠唱を封じる。


 抜き放った拳の勢いをそのままに、俺は上体を大きく逸らし半月を描くように蹴りを放つ。


 ゴウ———ッッ‼︎‼︎


 胸骨を砕き内臓にまで達する鈍い衝撃音が響く。


 霧島は抱えていた本を投げ出し、そのまま屋上 端に備えられたフェンスまで吹き飛んだ。


「……ァ、…ぁ、りえ、ない……どうやって、仲間を……、…」


 胸を押さえながらしゃがれた声で霧島が呻く。その口元からは少なくない量の血が迫り上がっていた。


 俺は左手に握っていたPHSを見せた。


「携帯電話以外にも、ちゃんと調べるべきだったな」


 霧島を挑発して無駄話を長引かせている間に俺はPHSから瀬後さんのポケベルに送信していたのだ。


「09108《オクジョウ》……咄嗟に考えたけど、さっさすが瀬後さんだぜ。やっぱ通じ合ってるなぁ、俺ら」


 瞬間 俺の足元が弾け飛んだ。


 おいおい、さすがにこの距離だ、今の戯言が聞こえたわけねぇよな。普通に流れ弾だよな。


「……ソ、ん…な……下ら、ない…方法で…」


「喉も肺も潰した。魔導書を手放したお前に出来ることはねぇ、もう諦めろ」


「………ハ、ハハ…まだ、ですよ……ここで、貴方に…捕ま、る……くらい、なら」


「——————、は?」


 霧島はフェンスにもたれかかるとそのままバランスを崩し、大きく身体を仰け反らせた。


「おま……っ、!?」


 慌てて手を伸ばしたが紙一重の差で霧島の全身が虚空へと躍り出る。落下する寸前 奴は俺の方を見て笑っていた。


 直後、数十メートル下の暗闇から何かが潰れるような鈍い音が聞こえた。

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