ストレガトディ⑥
時刻は夕暮れ刻に差し掛かろうかと言うところ。
橘薫のノートを受け取った俺は旧校舎裏に回るとラッキーストライクの包みからタバコを一本取り出していた。
こちとらガキ共の相手をしていたせいで半日以上ニコチンを吸えていないのだ、一本くらい多目に見てくれるだろう。
タバコを吹かしながら橘薫のノートを改めて確認しする。A4サイズの大学ノートには几帳面な文字が書き連ねられており、めくっていくと、気になるページに目が止まった。
「どういうこった、こいつぁ」
そこには意識不明になった生徒達についての詳細な情報が記されていた。
まず、一人目の生徒
二人目の生徒
三人目の生徒
四人目の生徒
「全員、何かしらの悩みを抱えていた……のか?」
それにしても橘薫がよほど優秀なのか、探偵の俺でさえ舌を巻くほどよく調べ上げられている。
そしてページの最後に『黒ミサ様の呪いについて』という見出しでいくつかの注釈が添えられていた。
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・黒ミサ様の呪文について、石堂さんから話しを聞く事が出来た。
・『Eidora. Mater dea, ego servus tuus sum. Qui se ut famulum prosternit. Preces vestrae respondeant. Voluntas mea est oblatio fieri Deo Matri.』
・ヌグ=ソスの文字(初めて見る文字、何かの記号?)にて陣を刻み、その中心にて祈りを捧げる。
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おそらく知識のない人間が読んだところでこのメモの意味を理解する事は出来ないだろう。ただし、理解する事が出来なくても実践する事は出来る。
それがどれほど恐ろしく、悍ましい行いなのかを分からないままに。
「……クソったれ、これがマジだとしたらこの学校にいるのは——————、」
そこで尻ポケットに仕舞っていた俺の携帯電話に着信が入った。
「もしもし瀬後さんか?今どこだ?」
『生徒たちが入院している病院に行って、カダスに帰ってきたところだ。それより神裂、入院している橘薫の両親から気になる話しが聞けたぞ」
どうやら瀬後さんが病院を訪れたタイミングで偶然 橘薫の両親と会う事が出来たらしい。
あの口下手の大男が、どうにかして両親から話しを聞き出そうとしている様を想像するとおかしいが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「瀬後さん、こっちもかなりマズい状況だ。早いとこカダスに戻らねぇと」
『神裂、橘薫が調べていたのは黒ミサ様の事だけじゃなかったんだよ』
「あ?そりゃ一体どういう意味だ」
『いいか、橘薫は意識を失って倒れた四人の生徒の共通点を探っていたんだ』
それについては橘薫本人が記したノートを読んで俺も把握していた。四人の共通点は何かしらの悩みを抱えていた事の筈。
『意識不明になった生徒たちはそうなる前 全員がスクールカウンセラーの霧島に相談に行ってた。今回の事件の黒幕はあの女かもしれねぇんだよ』
電話口の向こうから瀬後さんの焦っている気配が感じられる。しかし俺にはそれ以上 何も話す事が出来なかった。
校舎裏の端、真っ赤な西陽を背にして立つ霧島桐子がこちらを見ながら笑っていた。
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