ストレガトディ⑤

 新聞部で橘薫が書いた記事を見つけた俺たちはその後 一度別れて行動する事になった。


 俺は学校に残っている生徒たちに橘薫と黒ミサ様のお呪いについて聞き込みを行い、瀬後さんは入院している生徒たちの様子を確認してからカダスで落ち合うという流れだ。


「んじゃ、瀬後さん。何か分かったら携帯にかけてくれよ」


「あ?何言ってんだ、俺はポケベルしか持ってねぇぞ」


 そうだった。この時代遅れのおじさんは最近普及している携帯電話を持っていないのだった。


「いい加減 携帯買っとけって言ったろぉ」


「あんなガチャガチャするモンいらねぇだろ。お前こそ二台も持ち歩いて意味あんのか?」


「今 俺が右手に持ってるのは携帯電話、左手に持ってるのはPHS。もう殆ど使ってねぇけど違うモンなの、分かる?」


 何をおかしな事を言ってるんだ?みたいに小首を傾げている瀬後さん。そう言えば別のおじさん近藤さんも同じような反応だったな。


「……わーったよ、じゃあ何か分かったら俺の方から電話すっから」


 人はこうして時流に乗り遅れ、過ぎ去った栄光に縋りながら寂しい余生を送る化石になっていくのだろう。


 瀬後さんと別れてから暫く待っていると新聞部扉を開けて男子生徒達が入ってきた。

 

 初めは部室内のテーブルに座り、勝手に取り出した茶菓子を食べていた俺を見て大層驚いていたが、理事長の依頼で学校に来た外部教師だと説明すると一応 納得してくれた。


「橘さんと黒ミサ様のこと、ですか?」


「そうそう。お兄さん今 理事長先生から生徒たちの事お願いされててさ。君ら同じ新聞部だろ、何か知らないな?」


 ガキは苦手だが子供心をくすぐるのは簡単だ。尺度を曖昧に合わせて少しの好奇心を与えてやればいい。


 新聞部の同級生という間柄か、或いはこの生徒達の性格なのかは分からないが俺が尋ねる前に色々と喋ってくれた。


 まず橘薫ついて。彼女は学校で生徒が頻繁に倒れてしまう事件について独自に調べていたらしい。


 そもそも三人目の石堂結衣いしどう ゆいとはクラスメイトであり、数少ない友人として相談に乗っていたそうだ。


「橘さん、あんまり詳しくは話さなかったけど石堂さんのこと結構 心配してたみたいで。多分 石堂さん、クラスでイジメに遭ってたんじゃないですかね」


「イジメねぇ」


 そこで彼女が学園で流行っている黒ミサ様というお呪いを試そうとしていることを聞き、実際 その数日後 石堂結衣は意識を無くした状態で倒れているのを発見された。


 そして調べを進めていくうちに他の意識を失くした生徒達が黒ミサ様を実践していた、ということを突き止めたらしい。


「ただ黒ミサ様については、正直よく分からないことが多いんですよ」


「分からない?」


「はい……多分、流行り始めたのは数ヶ月前からなんですけど。やり方がまちまちと言うか、みんなが知ってる黒ミサ様のお呪いのやり方がバラバラなんですよ」


 曰く、黒ミサ様と話すには英数字の書かれた紙と10セント硬貨が必要。


 曰く、深夜の校舎で呪文を唱えることで黒ミサ様のお告げを聞くことが出来る。


 曰く、魔法陣を準備しそこに生贄のぬいぐるみを置くことで黒ミサ様を呼び出すことが出来る。


 などなど、新聞部が集めた黒ミサ様の噂話しには様々な種類があったらしく、どれが正しいのかは分からなかったようだ。


「あの、あとコレ。橘さんが黒ミサ様の噂につあて調べてたノートです。部室に置きっぱなしになってたんですけど」


 新聞部の生徒たちに礼を言って廊下に出ると下校時刻が近いせいか、帰り支度を済ませた生徒たちがぽつぽつと廊下を歩いている。


 俺はその中に混ざりながら校内を後にした。


 

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