ストレガトディ③

ストレガトディ③


 時刻は午後1時を少し回ったところ。


 理事長室での話しを終え、『外部講師』というネームタグをぶら下げた俺と瀬後さんは霧島先生の案内で校内を歩いていた。


 午後の授業が始まっている為 廊下に人の姿はなく閑散としている。


「そういや、霧島先生はこの学校に勤められて長いんすか?」


「あ、えっと……私は少し前から非常勤講師のスクールカウンセラーとして勤務してまして」


「あー、理事長も言ってましたねぇ。スクールカウンセラーってどんなことやるんすか?」


「ふ、普段は生徒たちの相談に乗ったり……あとは、ご両親から話しを聞いたり、して……ます」


 霧島先生は終始俺の質問にしどろもどろしながら答えていた。本当にこんな調子で生徒からの相談になど乗れるのだろうか、と考えていると横から瀬後さんに睨まれた。


 まるで俺が先生をいじめているとでも思ったのだろうか、どうにも俺は昔からこの手の生真面目そうなタイプとは相性が悪い。主に相手からビクビクと怖がられてしまう。


「それにしても4ヶ月で生徒五人が意識不明とはな、この学校は呪われてるんじゃないか」


「呪いねぇ。もしかしたら亡霊の仕業とか?ほら、学校の怪談的なよぉ」


「冗談じゃねぇ。俺は血の流れない奴の相手はごめんだ」


「瀬後さん幽霊とかすっげぇ怖がるもんな。ぷぷ、そんなゴッツイ見た目のくせに。こないだ幽霊船ゴーストシップに乗り込んだ時なんかーーー、」


「おい、それ以上 先は言葉に気をつけろよ。お前の死体を片す手間がかかる」


 などと軽口を言い合いながら話しているウチに目的地に到着した。


 場所は新校舎と渡り廊下によって繋がれた旧校舎の三階。


 現在は取り壊し予定のため生徒の立ち入りは禁止されているが、五人目の意識不明者 橘薫たちばな かおるはここで発見された。


 埃が積もってかび臭い教室の中は伽藍になっており、使われなくなった机や教材が適当に放置されている。


「あ、あの神裂さん……なんで橘さんの現場から見に来たんです……?新校舎から見てまわらなくても、い…いいんですか?」


「うーん、んー……まぁ、そうなんですけどね。他の四人は新校舎の中で倒れてたんでしょ?教室とかトイレとか」


 まず、一人目の生徒 飯島慎吾いいじま しんごは所属している部活動の部室で倒れていた。  


 二人目の生徒 松織綾野まつしき あやのはトイレの個室。


 三人目の生徒 石堂結衣いしどう ゆいは自分のクラス。


 四人目の生徒 柊亮太ひいらぎ りょうたは外階段の傍。


「4人の生徒は全員新校舎の中で見つかったのに、何で五人目の橘ちゃんだけ旧校舎なのかなって気になってたんすよ」


 加えて網野理事長や霧島先生から聞いたところによると、意識不明になった生徒たちには特に目立った問題などはなかったそうだ。


「あ、そういや霧島先生」


「は、はい……っ、なん、でしょうか」


 まずい、また怖がらせてしまったか。俺は努めて明るく優しく質問をした。


「意識不明で倒れてた五人の生徒って、先生のところに相談とかは来てたりしました?」


「いえ、その…意識不明になった生徒たちからは特に相談などは受けていませんでした…… 」


「なるほど、そうっすかぁ」


「お、お役に立てず、すみません」


 何故か平謝りする霧島先生をなだめつつ俺たちは橘薫が発見された教室の中を調べることにした。


「ざっと見た限り何もないな。橘っていう子はこんな所で何をしていたんだ」


「思春期真っ只中のJKが考えることなんざ分からねぇや。先生、そっちはどうです?」


「あ……つ、机も段ボールの中も、特に変わったものは、無さそうです」


「んーー、じゃあ次は他のガキ共が見つかった場所を調べてみますか」


 橘薫が見つかった旧校舎を調べ終えた俺たちはその足で新校舎へと戻り、他の発見現場を見て回った。


 しかしこれと言って目星いモノは見当たらず、授業の終了を待って他の生徒たちへの聞き込みをする流れとなった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る