ストレガトディ②
カダスの前に停められていたリムジンに乗って御津門学園まで連れて来られた俺たちは、そのまま理事長室に通された。
重厚な来客用ソファに腰掛けて室内を見渡すと歴代理事長らしい額縁に収められたお歴々と目が合った。
こういう部屋に来るとどうにも落ち着かない心地になる。まるで先生から呼び出しを食らった学生みたいだ。
「そわそわすんな、みっともない」
「つぅか、よ……何で瀬後さんまで着いて来たんだよ。依頼されたのは俺だぜ?」
「お前こないだ俺の車勝手に回して駐禁切られただろ。その分の支払い、未だ受け取ってねぇぞ」
そう言えば、隣駅のパチンコ屋が新台を入れるので朝から並ぶ為に瀬後さんの車を使わせて貰ったのだった。
俺は肩をすくめて口をつぐんだ。
みんな俺から借金を取り立てる為に必死なようだ。その勤労精神は別の所に向けた方が良い気がするんだが。
「お待たせしてしまい、申し訳ない」
そう言いながら理事長室に入って来た網野理事長の傍には見知らぬ女性が立っていた。
年は二十代半ばから後半。化粧っ気のない顔にびん底のような眼鏡、長い黒髪を無難に纏めている。
如何にも学校の先生と言う感じだ。
「こちらは我が校でスクールカウンセリングをしてもらっている
紹介された霧島先生はオドオドした様子で「……よ、よろしくお願いします」と頭を下げた。
「今回 依頼するにあたって霧島先生にも同席いただいた方が話しがスムーズかと思いまして」
「んで、その依頼内容ってのは?」
「……実は、今 御津門学園で起きている不可解な事件の調査をお願いしたいのです」
網野老人によると、数ヶ月前から御津門学園に通う生徒たち四人が立て続けに意識不明の昏睡状態に陥っているらしい。
医療機関や警察にも調査を依頼したが原因は分からず、つい先日も新たに五人目の生徒が意識不明の状態で倒れているところを校内で発見された。
解決の糸口を見つける為 知り合いの伝を頼り俺に依頼をして来たのだと言う。
「ガキ共が意識不明に、ねぇ……どう思う、瀬後さん?」
「どうもこうも、まずは調べてみないことには何とも言えないな」
「ふぅむ。ガキ……失礼、生徒さん達が意識を失っていた場所は全員学校の中なんですかぃ?」
「はい。なので、霧島先生にもお手伝いしてもらいながら校内の案内や他の生徒たちからの聞き取りをして頂ければと」
「……あ、あのぅ……よろしく、お願いします」
普段 注目されることに慣れていないのか、霧島先生は俺たちの視線を受けて若干 緊張しているようだった。
「神裂さん、どうかよろしくお願いします。この不可解な状況を解決してください」
「いやぁ、はっはっは。そんなに期待してもらうと逆に恐縮ですなぁ」
「失礼ですが、この男に期待しても便所のデッキブラシ程度にしか役に立ちませんよ」
普段 人から唾を飛ばされることはあっても、何故か褒められる機会が少ない俺だが、さすがに便所のデッキブラシと比べられたことはない。
もしかして瀬後さんは俺の評価を下げることで相対的に自分を上げようとでもしてるんだろうか。
「んで、網野理事長。依頼を受けるにあたって報酬の方はいかほど貰えるんですかね?」
「今回は事態が事態ですから、成功報酬という形で無事に解決いただければ200万円をお渡しいたします」
「うひょぉ!太っ腹ですねぇ!」
「生徒たちが無事に意識を取り戻すのなら安いものですよ」
「いやぁ、教育者の鑑ってやつですなぁ。俺もガキん頃に理事長のようなお人と出会えてら、こうはならなかったろうなあ」
「誰と出会ったところでお前は道を踏み外しそうなもんだがな」
瀬後さんの小言を華麗に
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