ブルーラグーン ⑤
俺はポケットから携帯電話を取り出すと、ボタンを押して電話帳を確認した。
「っぇーと、か・き・く・け・こんどうさん、近藤さんっと」
きっかり3コールのあと電話口から野太い男の声が聞こえた。
『もしもしこちら近藤ですが』
「あー、近藤さん。一々電話で名乗らんでもいいですよって言ってるじゃないっすかぁ」
『誰だ?』
「着信画面に名前表示されてるでしょうよ、俺ですよ、神裂ですよぉ」
ブチッ、と。そこで急に電話が切られた。
俺は迷わずリダイヤル。
『もしもしこちら近藤ですが』
「ひっでぇーなぁ、近藤さん。いきなり切るこたぁないでしょう」
『……ッち、お前と絡むとろくなことがねぇんだよ神裂』
どいつもこいつも俺を疫病神か害虫みたいに扱いやがる、しまいにゃ泣くぞ。
「ちょっとばかし力を貸してくださいよぉ。俺と近藤さんの仲じゃないっすか、ね?」
『……お前、こないだ貸した金はどうした?とっくに返済期限は過ぎてるぞ』
耳をそばだてていた瀬後さんが、お前こっちからも借りてたのか、と冷たい視線を向ける。
融資先が多いにこしたことはないだろ?
「……や、やだなぁ、しっかり返しますってぇ。ホントですよ」
はっはっはと笑って、また電話を切られそうになった俺は急いで用件を伝えた。
「柊海散って子の父親の住所を調べろだぁ?」
「親父の方は何回か警察にお世話になってるようで、近藤さんならちゃっちゃっと調べられるんじゃないかと」
「なぁにが、ちゃちゃっとだ、図々しい野郎だな」
「まぁまぁ、頼みますよ近藤さん。お礼はしっかりさせてもらいますから」
「……こないだ貸した金に続いて貸しは二つだぞ。返済もしっかり二倍にしろよ」
言って、近藤さんはもろもろの情報を調べあげてくれた。俺は短く礼を言って電話を切る。
「お前……警察をアゴで使うとか、本当にどうしようもねぇ奴だな」
「使えるもんは何でも使うのが俺の流儀だ」
再び車に乗り込むと、俺たちは先ほど近藤さんが調べてくれた柊家の住所へ向かった。
「で、ここがその住所か?」
「近藤さんはそう言ってたけどなぁ」
俺たちの目の前には廃墟と見紛うような平屋があった。
「まぁ……とりあえず中に入るか瀬後さん」
「……おぅ、そうだな」
中は予想通りの散らかり放題だった。
リビングと思しき部屋は食べかけで腐った食材や汚れた食器、ゴミ、滞納金の督促状などが散乱している。
「俺の部屋より汚ねぇなぁ」
「どんぐりの背比べだろう」
思う所はあるが特に反論せず、俺達は手分けして家の中を見て回る。
といっても部屋数自体が少ないためそこまでまで時間はかからない。ものの三十分程度で済んでしまった。
そして柊海散が生活していたらしい痕跡をいくつか見つけた。
ただし、それは浴室や廊下、便所など到底人が暮らす場所とは言えない箇所から。
この家のどこにも柊海散の居場所はない、そんな印象を覚えた俺は何度目かのため息を漏らして和室の襖を開ける。
「……ん?」
上段部分にはぎっちりと物が仕舞われているが下段には不自然な空間が出来ている。
そう、ちょうど細身の少女が膝を抱えて入れるくらいのスペースだった。
中を調べてみると積み重ねられたシーツや座布団の隙間に、まるで隠されるようにして仕舞われていたソレを見つけた。
「こいつぁ……」
ソレは奇妙なデザインをした、深海のような青い宝石の指輪だった。
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