第4話
「高いもんか。私からしちゃ安いもんだよ。
滞納してる一月分の家賃の三万ディールに退去後の清掃費用、私への慰謝料諸々合わせて五万ディールーーーーどこが高いってんだい!」
「五万の内訳は?」
「そんなのぜーんぶひっくるめてに決まってるだろ」
「書面で請求書もらえますか?」
「めんどくさいねぇ。やだね」
「それと賃貸契約書も見せてもらわないと」
「ぁあ!?そんなこと言う暇があるならさつまさと金をーーーーん?誰だい」
老婆はそこでやっと会話の相手がミリーでないことに気づいた。
「こんにちはおばあちゃん、恐喝は立派な犯罪だからしちゃダメでしょ」
「あぁー!
なんで役人なんかがいるんだい!」
みるみる老婆の顔から血の気が失せる。わなわなと肩を揺らして後退りした。しかしナサニエルにはこの老婆を逃す気はない。どんと距離を詰め老婆が逃げないように退路を塞ぐ。三毛猫はさっさと老婆から逃げてとっくの昔に避難済みだ。店奥の暗がりから目だけ光らし楽しげに尾が揺れていた。
「ここあたりの平均家賃を考えると家賃は高いし慰謝料諸々ってのも違反。それを支払う義務はこの人にはないし、まずはきちんと書面で提示して手続きしないと取り立てはできないの知ってるでしょうに‥‥‥。
ばあさん、こういうの初めてじゃないでしょ?」
ナサニエルは老婆の骨ばった両肩を掴んだ。万人受けする害のない笑顔で、
「はい、詳しくお話聞かせてねー」
ナサニエルとミリーはさっきの老婆を連れ詰所へ引き返した。老婆はなんども逃れようとするが枯れ木のような体では到底無理だ。
「あれ?ナサニエル先輩戻って来たんですか?」
「パルフィ、土産をやろう」
「お仕事のお土産は遠慮したいんですけどぉーしょうがないですねー。有り難くないけどいただきますよ
その今にも先輩に噛みつきそうなおばあちゃんがお土産ですか?
やっぱりいらないかなー!
その様子じゃミリーさんのご用事は上手くいかなかったようですね。残念!」
「そうなんです。このおばあちゃんのところに住んでるはずだったのが‥‥‥いなくて‥‥‥そうしたらこの人からお金払って脅されて」
「このばあさん、口は悪い態度悪いわだから噛まれないよう気をつけとけよ。お前ちっこいから頭からガブーッで骨の髄まで丸かじりされそう」
「失礼ですね。こんな行き倒れの犬みたいなおばあちゃんごときに負けるパルフィちゃんではえりません!
さあさあ、とっとと悪事を白状してください。じゃないと定時で上がれません!」
パルフィはその小柄な体に似合わない力で暴れる老婆を奥へ連れて行った。長く老婆のがなり声と絶えない罵声がずっと聞こえる。が「ぎゃっ」と声がしてぴたりと止んだ。
「ありゃ一発どついたな」
「えぇ!?あんなタチの悪いおばあちゃんでも一般市民じゃないですか。そんな暴力ふるって後から問題になったり」
「しないしない。自分の悪事を取りつくろう方が忙しいだろうよ」
アッシュレイクの兵隊さん(仮タイトル) 友人その1 @96siba
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