第13話 黒歴史2
「はーいやだ」
帰りたい、まあここが家なんだけど。
「覚悟しろ、優斗」
「するなら早く公開処刑してくれ」
歯医者の待ち時間並みに嫌な時間だ。
「わかった、さくっと殺すぞ。それで優斗はあの時虫歯があったんだ」
「あの優斗くんが?」
「ああ、俺甘いお菓子そこそこ好きだったしな」
まあとはいえ食べ過ぎていたとは思わないが。
「でだ、俺が優斗に言ったんだ、カラオケ行こうって」
「カラオケって、歯医者じゃないんですか?」
「莉奈少しだけ待て」
「え?」
「父さんの話を聞け」
早とちりはいけない・
「いや、別に父さんはいいんだぞ、好きなだけ遮ってくれても」
「父さんそういうことじゃねえよ」
言った本人もわかっていなかったのかよ。
「は?」
「ちょっと二人とも話し進まないって」
「ああ、そうだな父さん続けてくれ」
「それでな、優斗はわーいと言って元気についてきたんだ」
「うんうん」
「それで車で歯医者まで向かったんだ」
「え? 歯医者にですか? カラオケじゃなくて」
「そうなんだよ、全て父さんの罠だったんだよ」
「罠とは失礼だな」
「事実じゃないか、あの時俺はワクワクしてたんだぞ」
当時の俺は本当にカラオケが好きだった。年に十回は行くぐらいにな。だが父さんはそのカラオケ愛を利用したんだ。許さねえと思ったなあの時は。
「それが絶望に変わったんですね」
「ああ、最悪だったわ」
「で、着いたその時に俺は優斗に言ったんだ、ほらついたぞ歯医者になと」
今でも思い出す、あの父さんのにやけ顔を。絶対あれは楽しんでいたわ。
「そして優斗は泣き出してな、俺はもう歯医者行くぐらいだったら死ぬって言いだしてな」
「莉奈ちょっと待っててくれ」
「え?」
「もが、優斗何をするんだ」
「この話を止める」
俺はどう言って父さんの口に無理やり手をかぶせようとする。
「今更恥ずかしくなったのか?」
「ああ、そうだ。だからさっさと口を閉じさせろ」
これ以上話させてたまるか。
「優斗くん!」
「なんだ?」
「口を放してあげてください」
「莉奈、お前もそっちの味方かよ」
「当然です」
「由依は?」
「お兄ちゃんの味方ってことある?」
「辛辣すぎないか?」
「当たり前でしょ、私もお兄ちゃんの恥ずかしいところ聞きたいし」
「お前はもう何回も聞いているだろ」
俺と由衣はこの話をすでに少なくとも二回は聞かされている。由衣は自分から聞きたがっているが。
「何回でも聴きたいの」
「母さんは?」
「私は中立の立場にいるわ。けれど優斗手を離しなさい、今は食事中でしょ」
「そんなぁ」
俺の味方は本当にいないらしい。
「優斗くん覚悟してください」
莉奈が俺の手を剥がしにかかる。
「だめだ、この話を聞かれるとダメなんだ」
「私も助太刀するー」
「由依もやめろ」
そしてとうとう俺の手は剥がされ、莉奈の手によって俺の手は後ろ手に拘束される。
「よし、続きを話すぞ」
「莉奈さん、手を離してもらえませんかね」
「ダメに決まっています」
「ご飯食べたいんですが」
「この話が終わるまで我慢してください」
「莉奈の鬼め」
まあ莉奈だけじゃなく、この場にいる全員が鬼だけど。
「さあ続きを話してください」
「ああ、優斗が歯医者行くぐらいなら死ぬって言ったってどこからだよな」
「そうです」
「俺は嫌がる優斗を無理矢理抱っこしたんだ」
俺が引き剥がさない程度の強さではなく、本気で締め付けるような強さでな。痛かったわあれは。
「優斗はそれでも嫌がったんだ」
「俺は今この話が嫌なんだが」
それに母さんは俺が口を塞ぐのはダメで莉奈が俺の手を拘束するのは何も言わないのか。理不尽だ。
「優斗は俺が受付に行く時に、受付のお姉さんに言ったんだ」
「俺の話は無視か! てかもうやめてくれお前ら!」
俺は叫ぶ。叫びまくる。喉が潰れるかと言うくらいの音量で。
「俺、誘拐されてきました、助けてください。この人にカラオケに連れて行くって言われてついて行ったらここだったんです。助けてください、殺されてしまうって」
俺の叫びは届かなかっようだった。ああ、本当にやめて欲しかった。俺の顔が心なしか赤くなっている気がする。この話は莉奈には聞いてほしくなかった。いわゆる黒歴史っていうやつだし。俺は恥ずかしさで死にたくなる。本当に死にたくなる。今すぐこの場から逃げ出したい。
「莉奈」
「え?」
俺は莉奈の手を振り解き、たしょう強引な手を使ってでもこの話を終わらせたいという一心で、莉奈を無理矢理2階の俺の部屋まで引っ張ろうとする。
「やめてください優斗くん」
「この場から莉奈を連れて避難するんだ、この地獄からな」
「優斗、莉奈ちゃんが嫌がってるでしょ」
よく言えたな母さん。俺に対する今日これまでの事を忘れたのか?
「嫌だ、ここまでの話でも嫌なのに、ここからの話は尚更聞かれたく無い!」
「優斗くん、本当にやめてください」
「俺は莉奈に俺の黒歴史を聞かれたく無いんだよ!」
「優斗、やめなさい」
父さんが言う
「じゃあ俺の黒歴史を話すなよ」
「それは莉奈が望んだことなのか?」
「私は話して欲しいです」
「なら話さないということは無理な話だ」
「誰か、誰か、まともな人はいないのか」
そもそも俺が嫌がってるっていうのに。莉奈の意思が俺の意思より優先なのは明らかにおかしい。
「お兄ちゃん、全員が聞きたがってるんだよ、もう諦めて」
「そうですよ、離してください!」
「全くもう優斗は莉奈さんを離しなさい、さもなければ来月のお小遣い無しですよ」
「は? 大人の権力使うのか? 卑怯だぞ」
ただでさえ貧乏なのに、お小遣い減らされてしまったら何もできなくなってしまう。
「当たり前でしょ、いいから離しなさい」
「はあ、わかったよ」
「わかればよろしい」
親の権力を使うなんて卑怯すぎるだろ。親の権力を使ってまで黒歴史を話したいのかよこの家族は。本当になぜこんなにもうちの家族はしつこいんだ。
「莉奈ごめんな」
俺は形だけの謝罪をする。
「まったくですよ、少し痛かったんですからね」
「すまんな」
痛かったのか。それだけは悪いことをしたな、それだけはだが。
「まあでも優斗くんの違う一面が見れて面白かったですけど」
「そうか、それは良かったな」
「そろそろ続き話していいか?」
「いいぞ、どうせ俺が何を言っても無駄だろうからな」
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