第14話 黒歴史3
俺の言葉を聞いた父さんがそのまま話し始める。
「そのあとはな、受付のお姉さんも優斗が嘘をついているのはお見通しだったようで、すぐ優斗をあやしたんだ。麻酔かけるからあんまり痛くありませんよって。だが優斗は相変わらず泣き叫んで、この鬼とかこのくそじじいとか、このろくでなしとかさんざん罵声を俺に浴びさせたんだ」
「それでそれで?」
「ああ、俺は死にたい」
黒歴史中の黒歴史だ。子供の時の話だからいいという話ではない、俺にとってはちゃんと黒歴史なんだ。
「ついに優斗がさんざん悪口を言うもんだから、周りの人たちが優斗と俺のことをじろじろ見始めたんだ。俺はそれを察知して受付が終わった後すぐに病院の外に出たんだ。迷惑になったらいけないと思ってな」
俺はそこからのことはあんまり覚えていない。だって怖かったんだから。しかし、その話は二回以上も聞かされているのだ。まるで父さんの持ちネタのように。それで記憶から抹消はできていない。
「外に連れ出したはいいものの優斗は全然泣き止む気配はなかった。よほど怖かったんだろう、しかしあの時の優斗の歯の状態を考えたら歯医者に行く以外の選択肢はなかった。だから俺は近くの店で周りの人にじろじろ見られながらポテチを買ってきたんだ。その後ポテチを食べて優斗は少し落ち着いたんだけど。俺はその間怖かった。いつまた優斗の発作が出るかも知れないからな。ただただ待ち続けたんだ。その、呼ばれる時までな。そして少しだって携帯が鳴ったんだ、そして優斗を病院に連れ込んだ。そしたら優斗は相変わらず泣き出して、もう手の付けられないほど泣き出したんだ」
ああ、あの時はまたこの時が来たのかと思っていたからな。誰だってその時が来たら怖い。
「優斗は泣いて泣いて泣きまくって、俺は看護婦の方に任せたんだ、だからその後のことは知らん。ただ、結構駄々こねて、治療するための椅子に座らされるのを無理矢理拒否しようとして、看護婦のことを殴ったとは聞いたな」
「本当なんですか? 優斗くん」
「ノーコメントで頼む」
全部話すじゃんもう父さん。
「そのあと帰ってきた優斗は思ったより痛くなかったって言って元気で帰ってきたな」
「ああ、もうやめてくれ」
「でな、あいつは謝らなかったんだ、俺にも看護婦にもな、被害者つらしてたのに、一切謝罪は無しだ。どう思う?」
「子どもだから仕方ないんじゃないんですかね」
「まあそうなんだがな。優斗のあまりもの変貌ぶりに驚いたわ」
「父さんお前な」
「まあそんなところで俺の話は終了だ」
オーバーキルも良い所だ。並の精神だったら三回は死んでるだろう。
「優斗くん、別にこんな話だったら逃げなくても良かったじゃないですか」
「俺にとっては黒歴史すぎるんだよ、この話は」
「子供がしたと思ったらかわいいですけどね。何なら今の優斗くんがしていてもかわいいです」
「それは違うだろ」
体は大人、心は子供じゃねえかそれ。しかしやっとこの地獄が終わった。
「でもありがとうございます、こんな貴重なお話を聞かせてもらえて」
「いえ、かまわん。優斗の彼女だからな」
「ところで私が次に話してもいいですか?」
「おい、莉奈お前二日でそんなネタないだろ」
「付き合う前のならあります、なぜなら一年の時も同じクラスだったんですからね」
「勘弁してくれよ」
「まあでも皆さんが知っている可能性もあるので知っていたら教えてくださいね」
「わかったー」
由衣が元気よく返事をする。
「それでこれは昨日の話で、数学の授業中の話なんですけど」
いや、その話かよ。たしかにその時はまだ付き合ってはなかったな。まあこの話は黒歴史でも何でもないし好きなだけ話してくれて構わない。
そんなこんなでこの俺の暴露会は一時間続いた。
「はーいっぱいしゃべったわね、て優斗あんまりご飯減ってないじゃない」
「仕方ねえじゃねえか、食べる時間なんてあるかよ、ずっと莉奈に手を拘束されてたんだぜ」
「優斗くんがすぐに逃げようとするからじゃないですか」
「その逃げさせるような話をしていたのはお前らだけどな」
「そんなのはいいから、早く食べて」
「わかったよ」
「あ、そうだ、私があーんしましょうか?」
「いや、いいよ」
「いやお兄ちゃんしてもらったらいいんじゃない?」
「いや恥ずかしいから」
「でももうしたんでしょ」
莉奈が俺たちが今日あーんのしあいをしたことをさっき話したのだ。
「そうだがな、でも家族の前であーんのしあいはしなくていいじゃねえか」
「優斗、あーんしなかったらもうご飯を作ってあげない」
「母さん?」
「それが嫌だったらあーんを受けなさい」
「公開あーんかよ」
本当にこの親は権力をすぐに使う。こういうのを言うのかな毒親というのは。
「いいじゃないですか、しましょうよあーん」
「なんかこの会話するの2回目な気がするんだけど」
「そういえばこの前二人の時にしましょうって言いましたよね」
「いや、今は二人っきりじゃないんだわ」
「でも今あーんをするのは決定事項ですからね」
「はいはい」
そして莉奈は俺の口の中にハンバークをぶち込む。
「どうですか?」
「まあ普通においしいよ」
「普通にって何ですか、あーんしてくれたから100倍おいしくなったよとか言ってくださいよ」
「別にあーんでそんなおいしさ変わらねえだろ」
「相変わらず夢がないですね」
「そうかよ」
「しかし二人とももうラブラブだな」
父さんが会話に割り込んできた。
「前川家の将来は任せてください!」
「気が早くねえか?」
結婚する気かよ。もう。
「そのくらいのほうがいいんです」
「そうだぞ優斗はもう将来の嫁には困らないな」
「父さんもかよ」
「私もそう思うよ」
「由衣お前まで入ってくんな」
「いいじゃん、それで二人ともエッチなことはいつするの?」
「莉奈許せ、こいつはまだ子供なんだ」
本当にうちの妹はそうおいう話が好きだな。
「私は前に言った通りいつでもいいですよ」
「俺はまだ準備ができてないんだ」
「そういえばお兄ちゃん手が止まっているよ」
「そうだな」
俺はご飯の残りを食べていく。
「ごちそうさまでした」
そう言って俺は食器を出いところに運ぶ。そこでは母さんが洗い物をしていたので「お願いします」とだけ言って母さんに渡した。
「そういえば私そろそろ帰らないと」
「えーもうちょっと話そうよー」
「もう何時間話してると思っているんだよ由衣、それにもう九時だしな」
「え?ちょっと待って」
莉奈がスマホを見ながらそう言う
「ん?どうした」
「人身事故が起きてる」
「え?」
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