第12話 黒歴史1
「君が莉奈ちゃんか、初めまして優斗の父の博一だ」
「は、初めまして」
「ところで一つ言いたいことがある」
「なんですか?」
「こんな息子と、優斗と付き合ってくれてありがとう」
「おい父さん、そんなこと言ったら俺がダメなやつみたいだろ」
「でもお前実際女友達なんていないじゃ無いか」
「それはそうだけどよ」
居ないからダメなやつなわけでも無いと思うが。それに小学校に遡ったらいる訳だし。
「ところでこいつが変なことしてきたら殴ってもいいからな」
「どういうことだよ」
「女に慣れていないお前なんだ、なんか変なことするかもしれないだろ」
「するわけねえだろ」
父さんはなにを考えているんだが。むしろ俺のほうが変なことされてるわ。少なくとも絶対に俺にいうセリフじゃ無いから。
「でだ、なんでこいつと付き合おうと思ったんだ?」
「優斗さんが神みたいな人ですから」
「そうか、こいつが神か」
「莉奈、あんまりそういうことを言うのはやめてくれ、俺が恥ずかしい」
なんでこんなことを恥ずかしげに言えるんだよ。それに莉奈がヤバいやつみたいになってしまう。実際少しだけヤバい所はあるが。
「恥ずかしくて結構だ、青春はそうでなくてはな、ところでだ、付き合って二日目で家にご飯食べに来るなんて、もう結婚するのか?」
「まだ早いわ!」
思わず突っ込んでしまった。こいつの結婚に対する価値観ばぐってんのか。
「早いってことは将来的に結婚するのか?」
「分かんねえよそんなの」
その質問されたらこう答えるしか無かっただけだし。
「ところでだ」
「まって、私が話したい」
由依が会話に割入ってきた。
「由依、今は俺が話しているところだろ」
父さんが由衣を叱る。
「でも、暇になったんだもん」
「莉奈、前言ってたのはこういうところだ」
こいつは人の会話などどうでもいいのだ。自分の会話がしたいその一心で生きてきているのだ。つまり自己中……それが由依だ。
「お兄ちゃん莉奈ちゃんに何か言ったの?」
「ああ、由依がわがままだぞってな」
「私そんなわがままじゃないし」
「どこかだよ」
よく今の感じで言えたな。
「えー、お兄ちゃんがひどいよ」
「お前な」
「まあでもいいじゃないですか、かわいいですよ」
そう言って莉奈は由依をよしよしする。
「莉奈ちゃんありがとう」
「あんま甘やかさなくてもいいからな」
甘やかしたらつけ上がってくるかもしれない。
「私の扱い酷い気がする」
「お前の普段の俺に対する態度に比べたらましだと思うぞ」
人を自分の召し使いのように扱う由依に比べたらな。
「いや、今回に関しては私悪く無くない?」
「いやお前話に割入ってただろ」
「いいじゃん別に」
「よくないわ」
「許してお兄ちゃん」
「俺に対してじゃねえだろ」
「まあまあ優斗いいじゃないか」
「父さんは由衣に甘すぎるんだよ」
由衣のわがままはいつも大体許される。俺が文句を言ったら怒られるのにだ。
「で、私が話したいことはね」
「前置きはいいから」
「お兄ちゃん黙って。それで私が話したいことは、お兄ちゃんの過去について莉奈ちゃんに聞いてほしいの」
「由衣お前父さんの話遮ってする話がそれか」
思っていたよりも大したことのない話だった。
「それかって何よ、まさかお兄ちゃんがもう話したの?」
「いや、そんなには」
「じゃあいいじゃない」
「父さんはどうなんだ?」
「かまわないぞ、というか俺が話したいところだ」
「まったくこの家は」
みんな由衣にいつも甘すぎはしないか?
「いいじゃないですか」
「お前はただ聞きたいだけだろ」
「ばれました?」
「それがお前の行動原理だろ」
「はい、そうです!」
やはりか。
「じゃあやろー」
莉奈が元気よく叫ぶ。
「俺は嫌なんだけど」
「お兄ちゃんには拒否権はないから」
「俺の人権は?」
「無いな」
「父さんまで言うなよ、これだから二人は。そうだ母さんはこんな真似許さないだろ」
「いや、ごめんなさいね。母さんはこっち側なの」
そう言って母さんは父さんの肩に手をかける。
「おい! こいつらを止めるのが母さんの役目だろ」
「私こういうシチュエーションに顎かれていたし」
「そうか、俺の味方は誰一人としていないわけだな」
本当にこの家族嫌だ。なんなんだよこの団結力は。他の所で使え。
「そうですよ、優斗くん覚悟してください」
「お前は俺のエピソード持っていないはずだろ」
「私は私で持ってますから」
「おい、それはさすがに付き合ってからのだよな」
「それはどうでしょう」
「おい!」
なんか含みのある言い方するな。
「ねえもう話していい?」
「いいぞ」
「えーとね、お兄ちゃんが小六の時の話をするね」
俺が小六ということは由衣が小一の時のことか。
「お兄ちゃんが小六の時に私とお兄ちゃんが一緒にスーパーに買い物をしに行ったときにね」
「ああ、あれか」
「わかった?」
「ああ、あんまり聞きたくないから別の部屋に行ってていいか?」
少しだけ恥ずかしい話だし、あんまりこの話は聞きたくはない。
「優斗、食事中は席を立ったらだめでしょ」
「母さんわざとやっているよな」
「何のことかしら?」
「白々しいな」
「別にいいじゃないですか、二人で聞きましょうよ」
そう言って莉奈は優斗の腕をぎゅっと握る。
「莉奈、離してくれよ」
「優斗くんには聞くしかないんですよ」
「そうかよ」
「で、そこでお兄ちゃんと私はお母さんにお使いを頼まれててね」
「うん、うん」
「たしかなんだったかな?卵と」
「鶏肉とサラダ用のキャベツだ」
「そうそう。それで私たちはそれらをちゃんと買ったんだけど、お兄ちゃんがおつりをごまかそうと提案してきたの」
俺はたしかその時にこう考えたんだ、お使いするんだったらご褒美も必要だとな。
「それでお兄ちゃんが一四十円のアイスを買って二人で食べたの」
「ああ、あれはおいしかったな」
悪いことをして手に入れたものはおいしいかおいしくないかのどちらかだと俺は思っているが、昔の俺にとってはおいしかった。
「うん、おいしかった、でそのあと帰ったの」
「ちゃんとレシートは捨ててな」
「うん、でもすべてお母さん知ってたの」
「そうだな、お母さんに即効ばれたんだったな」
そうだ、隠し通せるほど俺たちは賢くはなかった。母さんは卵と鶏肉の値段を覚えていたのだ。
「そうね、私にはすぐにはわかってたわ、優斗と由衣が詐欺をしていたことなんてね」
「あの時の母さん怖かったよな」
「そうなんですか?」
「ああ、鬼のようだった」
「優斗、鬼とはなんですか!」
「ほんまにそんぐらい怖かったからな母さん」
殺されるかと思ったくらいだ。
「まあ、再犯を防ぐ意味でね」
「じゃあ私の話は終わり!」
「唐突だな! そして莉奈に感想を聞かなくてもいいのか?」
「確かに、莉奈ちゃん感想は?」
「えーと、優斗君もなかなかの悪ですね」
「まあ四年前の話だしな」
まあ当時の俺にはそんな悪いことをしているという実感はなかったけど。
「それはわかってますけど、でもそれって小さな詐欺ですよね。私にはそんな度胸ないからうらやましいです」
「莉奈、これは見習ったら駄目な方の度胸だからな」
「もちろんわかってますよ、もしかして優斗君私のことを馬鹿にしていませんか?」
「いや、うらやましいなんて言うから」
「もちろん度胸だけを羨ましがってるんですよ」
「ふーん」
「じゃあ次にしゃべりたい人?」
「ちょっといいか?」
「優斗君自ら話されるのですか?」
「いや、違うんだ、それにさあ、俺が自分から話すわけがないだろ。俺が言いたいのは父さんがさっきから全然話に加わっていないだろということ」
「仕方ないじゃないか、俺だけだぞこの家族でその話にかかわってないの。そりゃあ口数も減るだろ」
「じゃあ父さんに話してもらおうかな」
「優斗くん嫌だったんじゃないんですか?」
「いや、どうせ話されるんだったら一番ましそうな父さんに話してもらおうかなと思って」
一番優しいのだ。由依だったら平気でエグい話するし、母さんだったら少し盛って話すし、父さん以外の選択肢が無い。
「優斗俺のことをなめてるな?」
「いや、一番大丈夫そうな人が倒産だっただけの話だし」
「まあとりあえず俺も話すわ、優斗が十歳の時の話だ」
「十歳の時ってもしかしてあの話をするんじゃねえだろうな」
「ああ、歯医者の話だ」
あーやっぱりかー。
「恥ずかしいわその話は、それに何より莉奈に知られたくない」
そもそも莉奈だからとか言う話じゃなく、誰にも知られたく無い。
「何ですか?私知りたくなってきちゃいましたよ」
「やめてくれ、マジで逃げていいか?」
「だめです」
莉奈の手の締め付けがさらに強くなる
「逃げられると思っているんですか?」
「なぜ憩いのはずの食事の場がこんな地獄になったんだ」
そう俺はつぶやいてハンバーグをかじる、莉奈はそれを察したのかつかんでいた手を放し俺は空いた左手を皿に添える。
「逃げようとしたらまた手をつかみますからね」
「わかったよ、なんて恐ろしいやつらだよお前らは」
こいつらはどこまで俺に俺の黒歴史を聞かせたいんだ。
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