第9話 昼ごはん

 昼休み


「すまんな寛人、1人で食べてくれ」

「理由は?」

「言わなくてもわかるだろ」


 そうだ、今日は初めて女子と、いや莉奈と昼ご飯を食べる日だ。


「そうだな、二人でイチャイチャしてこい」

「言い方考えろよ、仲良くぐらいで良くないか?」

「付き合ってるんだろ、事実じゃねえか」

「いや、ハードル上げないでくれよ」


 俺にそんな勇気があるわけがない。


「いやカップルなんだろ、イチャイチャぐらいしてこい」

「まあそうだけどよ、じゃああっち行ってくる」

「おう、行ってこい」

「おう」





「ねえ、あれって彼氏さん」

「あ、はいそうです、昨日告白して」


  莉奈は驚いて答えた。相手はクラスの中心と言っても過言では無い、大村莉央さんだからだ。他の女子はともかく彼女に話しかけられるとは思っていなかった。


「よく告白したね」

「彼のことは前から見てて、かっこいいと思ったいたので」


 莉奈はビビりながら答える。優斗の前ではガンガン物言いする彼女だが、目の前にいる理央とも今まで一緒に会話をしたことがないし、人と普段喋らないので、緊張してしまう。そもそも莉奈はクラスメイトとはほとんど公的な会話しかしていないのだ。


「へー、確かに彼イケメンだよねー」

「はい、自慢の彼氏です!」


 莉奈は自信満々に答える。莉奈は他人から優斗のことを褒められるのは単にうれしいのだ、もしかしたら自分が褒められるよりもうれしいかもしれない。


「でも今まであんまり喋らない子だと思ってたから、急に男子と登校していて驚いたよ」

「まあ我ながらよく行動に移せたなと思います」


 我ながらということを言ったが、事実何度も告白しようと努力していたのだ。寛人が学校を休んでいるときや、寛人が席を離れているときなどに。


 しかし、過去の事もあり、何回も逃げてしまったのだ。だから昨日行動に移せたことや、優斗と話せたこと、優斗の家に行けたことは彼女にとって大きな意味を持つものであった。


「まあ告白って勇気あるからねー、私も今まで七回ぐらい告白したことあるけど、それでも勇気いるもんね」

「はい、緊張しました」

「そうだよねー」



「お待たせ」


 弁当箱を持って莉奈の前に来た。会話の最中に近づいたものだから、なんとなく気まずい。


「あ、彼氏さんの登場?」

「はい、私の彼氏の優斗さんです」

「じゃあ邪魔者は消えるとしましょうかねー」


 そう言って俺が近づくと、理央は消えていった、俺としては莉奈が学校でほかの人と話しているのを見て少しだけほほえましくなった。彼女はいわゆるクラスの中心だ、莉奈もその彼女と友達になれればクラスに友達が増えると思う。


「どうだったんだ?今まであの人と話してるところなんて見たことないから」


 俺は聞く、遠目から見ていた感じではいい感じだったようには見えるが。


「緊張しました」

「そりゃな」

「でもいい人でした」

「それは良かった」

「ところでどこで食べます?」

「そうだなー、まあ空いてるしここでいいんじゃねえか」


 そこには二つ空き席があった。おそらく食堂とかに行った人の席だろう。


「はい!」

「とはいえ、何を話したらいいんかわからないんだよな、彼女なんて出来たことないからさ」


 席に座り、弁当箱を広げると緊張してきた。


「まあ、友達みたいな会話でいいんじゃないですか?」

「まあ、そうなんだけど、なんかこうカップルらしいことをした方がいいのかっていうことなんだよな」

「あーんします?」

「え!?」


 莉奈が大胆な提案をしてきた。その提案に対してびっくりした。そういうことは俺にとっちゃ漫画の話だ。


「いや恋人らしいことってこう言うことなのかなって」

「まあそうだけどよ、早すぎないか」

「早すぎるんですか?」

「そりゃそうだろ、まだ照れて無理だわ」

「そうですか、なら」


 そういい莉奈は俺の口に卵焼きを無理やりぶち込む。


「にゃにをするんだ」


 びっくりした。


「だってしたかったんですもん、優斗君とこういうこと」

「段階があるだろ段階が」

「じゃあこれいやですか?」

「いやじゃないけどよ、恥ずかしいんだよ」

「朝手をつないだのに?」

「それとこれは違うんだよ」


 流石にあーんと手を繋ぐではハードルが違いすぎる。


「そうですか」

「だからもうちょっと仲良くなってからな」

「仲良くって何ですか?一応恋人でしょ」

「まあそうだけどよ」

「じゃあいいじゃないですか」

「なあ」

「ん?」

「莉奈って思ってたよりも積極的だな」


 一昨日までは休み時間ところが、一日中人とは話していなかったのに。


「当たり前じゃないですか、せっかく好きな人に告白をOKしてもらえたのにやりたいことをやっていかないと」

「そうか」

「だからあーんをしましょう」

「わかったよ、ならするか、あーんを」

「はい!」

「じゃあまずは俺から、あーん」


 莉奈はぱくっとウインナーを口にくわえた。


「おいしいけれど恥ずかしいですねこれは」

「だろ、俺の気持ちを思い知ったか」

「思い知りましたよ、じゃあ今度は私があーんしますね」

「お、おう」

「あーん」


 そして莉奈は二つ目の卵焼きを俺の口に運び、俺がその卵焼きを食べた。


「おいしいな」

「反応なしですか?」

「なんか言ったら恥ずかしいし」


 そもそも照れて、反応するしないの問題じゃない。照れを隠すのが精一杯だ。


「そうですか。なんか楽しいですね」

「そうかな、なんか普通に食べた方が美味しくないか?」

「空気を読めないんですか?」

「え?」

「こういうのはするのがいいんですよ、それに美味しいと考えたら美味しいはずですし」

「でもこんな大勢の人がいる中でしたら絶対恥ずかしさの方が勝つわ」

「まあそうですよね、あとで再チャレンジしましょう」

「またするのか」


 俺軽いため息をつく。


「嫌なんですか?」

「それはわからん」


 まあ本音は嫌なんだけど、恥ずかしいし。


「じゃあどうなんですか?」

「恥ずかしいだけだよ」

「じゃあ今度は二人きりでしましょう」

「お、おう」

「なんですか、その反応は」

「悪かったな、乗り気じゃなくて」


 そして二人で笑った。

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