第8話 学校

 

 学校


「おい寛人、おい寛人聞けよ」

「なんだ?彰人そんな焦って」

「優斗の件知ってるか?」

「知らないが、あいつに何かあったのか?」

「あいつ今朝か」


 それを言い終わるか言い終わらないかどうかという時に莉奈を連れた優斗が部屋に入って来た。


「寛人、彰人もおはよ」

「お、おうおはよう、ところでなんで松崎さんが隣にいるんだ?」


 寛人が聞いてきた。それを聞いて俺は少しニヤリとした。


「俺の彼女だ」


 俺はカッコつけながらそう言った。人生で一度は言いたいセリフだ。


「は?」

「私の彼氏です」


 莉奈が付け加えるように言った。


「ああ、そういうことか」

「どういうことか分かった?」

「ああ、彰人がさっき言っていたのはそういうことか」

「そうなんだよ、まさかあの優斗がだろ」


 上原彰人うえはらあきとが笑いながらそう言う、彼は寛人が中学生の時の友達だったらしく、そのまま友達の友達として友達になった。しかし、あの優斗という言い方が気になる。


「あの優斗がとはどういうことだよ」

「お前女友達なんていなかっただろ」

「そんなことを言ったらお前らもだろ」

「俺は本気出してないだけだ」


 彰人がそう言う。俺はそれを聞いて嘘つけと言いたくなる。


「しかし、お前が彼女を連れてくるとは、俺も友達として誇らしいわ」

「そうか、そうか、誇らしいか」

「優斗くんも大貫さんも私に感謝してくださいね」

「ああ、感謝するよ。おかげでいい気分だ」

「優斗、悪役みたいなセリフを言うな」

「うるせえ寛人」

「しかし、俺みたいな彼女いない人に見せつけてくるなよ」

「お前ぐらいやったら作ろうと思ったら作れるだろ」

「無理だろ、お前は彼女ができたからそう思うだけだろ」

「そうだな、寛人もその気になれば告白の手紙十枚ぐらい届くんじゃねえか?」


 実際話上手いし、顔も悪くないと思う。


「告白の手紙って?松崎さん告白の手紙を送ったの?」


 彰人が興奮した様子で聞く。


「えーと、そういえば私二人のことよく知らないんですよね。教えていただけませんか?」


 莉奈が不都合な事実をもみ消すようにして、会話を無理やり転換させた。


「いや、話を変えないでくれ、手紙ってなんだ?」


 寛人が話をもとに戻す。


「ああ、それはさ、ラブレターぐらい彰人にも来るだろってことだよ」


 莉奈をフォローする。もともと俺が失言したことが原因だしな。


「まあ、それはそうだけど今松崎さん話変えたよな」


 寛人が痛いところをついてくる。


「い、いえそれは」

「もしかして、ラブレターを出したってことですか?」


 彰人が追い打ちをかけてくる、莉奈は痛いところを突かれて少しだけ泣きかけている。正確に言えばラブレターではないのだが。


「ちょっとその話ストップな、莉奈が泣きそうになってんじゃねえか」

「そうですよ、もう追及するのはやめてください」

「莉奈もこう言っていることだし、もうやめろ」

「わかった、わかったよ」


 寛人がおとなしく引き下がる。


「ありがとな」

「しかし、どういう感じで付き合ったんだ?」


 寛人のやつ全然引き下がってねえじゃねえかよと心の中でつぶやく。


「私が告白したんです、昨日の放課後に」


 莉奈は普通に答える。


「だから用事があるって言ってたわけか」

「ああ、そういうことだ、昨日の放課後に莉奈に呼び出されてな」

「ふーん、校舎裏に?」

「まあな」

「しかし、こんな漫画みたいなことが実際に起きるんだな、まさかお前が告白されるなんて」

「おい、そんなこと言うなよ」

「そうですよ、優斗君はかっこいいし、優しいし、面白いんですから」

「良かったな優斗。こんなかわいい彼女ができるなんてな、こんなかわいいと俺が惚れてしまうかもしれねえな」


 寛人は何を言っているんだ。


「おい寛人、寝取りしちゃうのか?」


 彰人が話に乗っかってきた。


「無駄ですよ、私はすでに優斗さんのことが好きなんですから」

「なるほど、俺のことは眼中にないってことか」

「いや、寛人もう少し粘ってみようぜ」

「彰人お前はなんで寝取らせようとしてんだよ」


 二日目で彼女消滅とか悲しすぎる。


「いいじゃねえか」

「お前は人の心無いんか?」

「優斗くん、別に私はどんなに言いよられても優斗くんを捨てるつもりはありせんよ」

「おう、それはありがたい」


 まあ別に俺は莉奈を奪われることが怖いわけじゃないんだけどな。莉奈が俺から離れるわけがないし。


「お前ら、別に俺は松崎さんを莉奈から奪おうという気はねえよ」

「え、そう言うわけじゃないんですか?」


 まあ俺は寛人が完全に冗談で言っていたことは最初からわかっていたけどな。


「この馬鹿があおっているだけだろ」


 そう言って寛人は彰人の髪の毛を引っ張る。


「なんだよ、お前が最初に言い出したんだろ」

「あんなの冗談に決まっているだろ」

「冗談かよ、俺は本気で言っていたと思ってたぜ」

「そうだったら俺はどんなくそ野郎なんだよ」

「まあそれもそうか」

「てかもえそろそろホームルーム始めるぞ」


 話が盛り上がってる二人に向かって言った。


「あ、もうそんな時間か」

「優斗君またあとでね」

「またあとでな」

「うん」

「彰人もまたな」

「ああ」


 ちなみに俺と寛人は隣同士の席なので移動する必要はない。


 ホームルーム後


「寛人少し良いか?」

「ん、なんだ?」

「さっきの冗談はねえだろ、俺は最初からわかっていたからいいものの」

「コミュ力が高いと言ってくれ、それに彰人が話をややこしくしただけだしな」

「まあそれはそうだけどよ」

「俺は元々そんな引っ張るつもりは無かったしな」

「言い訳か?」

「本当だよ。それより松崎さん結構話しかけられてるぞ。お前と付き合ったおかげやな。あの子あんまりクラスメイトと話して無かっただろ」


 莉奈たちの方を向く。確かにそこそこ話しかけられている。莉奈が少し困惑してるように見えるが、まあボッチって言ってたから良いことだろう。


「まあな。そんだけ女子にとって大事な話ということなのかな、恋バナは」

「男子にとっても大事だろ」

「まあそうだけどよ」

「そしてその彼氏がお前と言うな」

「まじで一週間前、いや二日前には考えてすらいなかったわ。本当に」

「そりゃそうだよお前、お前がモテるなんて考えて無かったもん」

「失礼なやつだな、俺だって毎日髪の毛には気を使ってるよ」


 セットはそこそこちゃんとやってるし。


「髪の毛だけか?」

「うるさいな」

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