第5話 オセロ

「優斗さんはオセロ、強いんですか?」

「いやうーん、わからんけどたぶん人並ぐらいかな、下手でもないけど、うまくもない感じだと思う」


 そんなことを言っているが、俺はうちの中では一番弱い。いや、正確に言えばそれは嘘になる。父親はオセロをほとんどやらないからだ。よって最弱ではない。しかし、オセロをやっている人の中では最弱なのは変わらない事実なのだ。


「同じぐらいですね!」

「いやそれはやってみないとわからないんじゃないか」

「まあそれはそうですけど」

「まあとりあえず指していくか」

「はい!」


 そういい俺たちはオセロを一手ずつさしていく。オセロの駒の色は俺が黒で莉奈が白だ。俺は莉奈の実力など一切知らないが、オセロをしようと自分から言ってきたほどである。おそらくある程度は強いのだろう。


 俺は緊張しながら一手ずつ指していく。オセロというものは、いつ均衡が崩れるものかわからない。いつの間にか自分の置けるところがなくなっていたなんてことになるかわからないのだ。慎重に、慎重にだ。


「なんか私の駒の斜めばっかり駒おいてませんか?」

「まあな、こうするほうがいいってオセロ漫画で見たからな」

「どんな漫画なんですか?」

「んーシンプルにオセロ強い子がオセロの大会に挑むみたいな感じだな、最初ぐらいしか読んではないけど、確か名前はオセロ大戦だったはず」


 正確に言えば二巻ぐらい小学生の時に学校にあったから読んだだけである。しかし、漫画にしてはオセロのやり方を詳しく教えてくれたなと思う。本当に漫画にしては賢い参考書だ。


「へー今度その漫画を貸してください」

「いや小学校にあっただけだから持ってるわけではないよ」

「そうですか。ところで、私の置くところ少なくなってきてません? ここにおいても取り返されるだけだし。これ、私不利になってません」


 駒の数では白の駒ほうが多いが白の駒の置ける場所は六つぐらいしかない。


「そりゃあ、そうなるようにおいているし」


 当たり前である、俺はそうなるほうにさしているのだからな。オセロの必勝法とはいかに自分がうまい手を指すかではなく、いかに相手にダメな手を指させるかが大事だと思っている。


 相手にダメな手を指させるにはどうすればいいのかと考えると相手にダメな手しかさせない状況にすればいい。俺はこれを由衣や母さんにオセロが嫌いになりかけるほど、やられたからよく身に染みているのだ。



「大人げないですよ」

「大人げないだと」

「ええ、全然強いじゃないですか」

「弱いとは言ってないし、それにうち家族のほうが強いぞ」

「え? さらに強い人が?」

「ああ」


 うちの家族のほうが大人げないのだ。このぐらいで文句を言われるほうが困る。


「あ、角が取れる!」

「悪いけど計算のうちだ」

「え?」

「今の場面になったらもう角とってもでかいメリットはないからな」


 俺は莉奈の喜ぶ顔を見てにやりとする。今の状況で角をとっても黒を三つしかひっくり返せないし、終盤の今、メリットが薄れてしまっている状態だ。だから角を捨てたのだ。今の価値のなくなった角を無理に守るよりは角を捨ててでもさらにいい手を打つほうがいいはずなのだ。


「いやそれはわかりませんよ」

「それはどうかな」

「え?」


 気が付けば盤面は黒でいっぱいになった。俺が置いた一手がとどめの手となり、一手で白が十二枚もひっくり返ったのだ。


「負けました」


 まださせる手はあったのだが莉奈は降参した、おそらくもう勝つことはできないと思ったからだろう。実際もう効果的な手は白の側に無いしな。


「強すぎますよ。優斗さんは」

「まあな、うちで三番目の実力だし」

「そういわれるとすごくはなく見えますけど」

「まあでもうちの家族が異常なだけで俺も強いのかもな」


 莉奈が思っていた以上に弱かったというのはあるけど、俺も思ったより強いのかもしれない。


 まあ俺もあの化け物みたいにオセロの強いやつらにもまれているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。ちなみに言うとだが、寛人はオセロをほとんどやらないので実力はわからない。前にやろうと言われたが拒否された。


「うん、私もそこそこ強いと思っていたのに、ぼろ負けは自信なくなっちゃいますよ」

「まあでも楽しかったよ」

「私は一方的にやられただけなんですが」

「それはすまん」

「まあいいですよ」


 そういい莉奈は笑う。その顔を見て俺もまた笑う。


「もう一戦するか?」

「いえ、やりたくないです。一方的にやられてしまうだけなんで」

「そうか?」

「優斗さんが強すぎるんですよ」


 流石にやりすぎたのだろうか。せめて手加減してやるべきだったのかと少し反省をしかけてしまうが、手加減をするのは勝負事では良くない気がするし、これでよかったのかと思った。そもそもの話、俺は莉奈の実力を知らなかったわけだから手加減のしようもないしな。


「ところで次なにしますか?」


 俺は提案する。ある程度実力差があっても楽しめて、二人でできて、なおかつ盛り上がるものを見つけるのは少し難しいだろう。とりあえずは莉奈が得意なやつを見つけ出したいところだ。


「どうしましょうか」


 莉奈が質問に質問で返す。


「まあ私が楽しめるやつだったらなんでもいいですよ」

「俺の楽しみはどうでもいいのか?」

「もちろん優斗さんの楽しみもですよ」

「それは良かった。でだ、何がしたい?」


 話を最初に戻す。


「どうしましょうか、私ここに何があるのかわからないので優斗さんが決めてくださいよ」

「俺だって莉奈が何が出来るのか分からないし」


 莉奈が得意なものが分からなかったらさっきの二の舞になる可能性があるのだ。まあもちろん逆に俺がぼろ負けする可能性もあるのだが。


「簡単なやつだったら大体出来ますよ」

「俺にボロ負けしてたのに?」


 俺は少し馬鹿にした口調でそう言う。


「それは優斗さんが強かっただけじゃないですか」

「俺はそこまで強いわけじゃあないぞ」

「じゃあわたしはどうなるんですか?」

「俺よりはるかに弱い?」

「はるかには余計じゃないですか?」

「でも莉奈ぼろ負けしていたしな」

「もう言わないでください」

「わりい、でどうする?」


 俺は話を再び元に戻す。


「とりあえず私としては優斗さんが選んでくれたらいいんですけど」

「じゃあオセロしようか」

「それ以外で」

「なんでもじゃないじゃねえか」


 俺はまた小馬鹿にしたような言い方をする。


「うるさいです」

「まあとりあえずポーカーでもしようか、ルール知っているか?」

「えー、ポーカーですか?」

「いやなのか?」

「嫌じゃないですけど、まさかの発言だったので」

「なんでだ?」

「ボードゲームをするみたいな空気だったし、ポーカーってなんか地味なイメージがあるじゃないですか」

「そうか?」


 地味ではないと思うが。


「運ゲーじゃないですか」

「まあ、それはそうだけど、運ゲーは嫌か?」

「ええ」

「じゃあ別のやつに変えるか」

「いえ、ポーカーをしましょう。せっかく優斗さんが勧めてれましたし」

「別に俺は勧めたわけじゃないんだがな」

「でも優斗さんの選択がだめになることはないですし」

「だめになるわけがないって、莉奈はどれだけ俺のことを買いかぶっているんだ」

「神みたいな感じだと思ってますから」

「お前の場合それが冗談かどうかわからないから怖いんだけど」

「さあどっちでしょうか」

「クイズにするな、というかやるぞ」

「はい!」


 本当に莉奈は困った人である。まさか莉奈の俺への信仰をネタにしてくるとは。

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