第3話 初訪問

 家に入る前に莉奈に「ちょっと待ってくれ」と言って、ポケットの中から鍵を取り出し、家のドアを開けて家の中に入り、「どうぞ」と言って莉奈を家の中に招き入れる。


「お、お邪魔します」


 莉奈がそう言って俺の家に入る。すると玄関の前には待ち構えていたかのように由衣が立っていた。


「おかえりお兄ちゃん、で、こっちの人がお兄ちゃんの彼女?」


 由依は俺と莉奈に近寄って聞く。


「はい、松崎利奈と申します」

「へー、美人だね、私はお兄ちゃんの妹の由衣、これからよろしくね」

「よ、よろしくお願いします」


 莉奈は図々しい由依とは違い丁寧に挨拶をする。由衣は莉奈とは当たり前だが初対面である。なぜこんなに自分勝手に話すのだろうか。


「ところでさ、ひとつ聞いて良い?」

「はいなんですか?」

「電話で聞いた時もさ、え? と思ったけど、なんで急に告白したの? それに手紙で呼び出すってベタすぎない?」

「ベタなんですか?」

「うん、今の時代そんなの漫画ぐらいでしか見なくない?」

「おい由衣」


 俺もベタだとはは思っていたのだが、流石に本人に言うのは違うのだ。前か空気が読めないとは思ってはいたが、まさかここまでに空気を読めないやつとは思っていなかった。


「そうなんですか」


 莉奈は明らかにその言葉に落ち込む。


「はぁ、由依お前はもっと空気を読め」

「ごめん」


 由衣は俺に向かって謝罪をする。


「俺にじゃないだろ、人にはそれぞれ告白の自由があるんだ、人の告白をバカにするな」


 俺はしっかりと説教をした、これはさすがに見逃せない行為だと思うからである。


「莉奈ちゃんごめんなさい」

「もういいよ、別に、ところで優斗さん」

「ん?」

「ベタだということは否定しないということは、優斗さんはベタだと思っていたということですか?」


 痛いところを突かれた。俺は実際思っていたのだからベタではないと嘘をつくわけにはいかない。どう説明をすれば丸く収まるのだろうか。


「まあそれは否定しないよ、ベタすぎてだまされていないか少し考えてたし」


 少しだけ考えて本当に思っていたことを話すことにした。


「そう思われていたなんて普通に恥ずかしいです。ずっと告白の仕方を考えていて、それであの方法を思いついて、私としては良い方法だと思っていたので。まさか優斗さんにベタだと思われているとは」


 莉奈は少し涙目になる。俺はベタだととは思ってはいたが、別に人の告白の方法をバカにしたいわけじゃないのだ、困ったことである。


「まあでもうれしかったよ。手紙来てから一日中落ち着かなかったですし、ずっと何で告白するか考えてくれていたのも嬉しかったです」


 俺は莉奈を励ます。そう思っていたことは事実なのだ、嘘などでは決してない。


「それは、うれしいです」

「それに一日中興奮できたんで、普通に告白されるよりはよかったです」


 興奮と言ったらうそになってしまうかもしれないが事実楽しみにしていたのだ、宿題を忘れるほどには。



「ありがとう」

「ちょっとお二人さん、こんなところで話してないでお兄ちゃんの部屋言ったらどう?」

「確かにずっと莉奈を立たせてるのも悪いし、俺の部屋に行くか」

「はい!」


 由衣に言われるのはなんか腹立つが、確かにここでいつまでも話すわけにもいかない。もともとこの家に来た理由は莉奈と二人きりでゆっくりと話すためなのだ。





「しかしあのお兄ちゃんが彼女とはねー」


 リビングで百合子と由衣が話している。


「本当に驚いたわよあんな女気なかった優斗に彼女ができるなんて」

「うん、でもどこに惹かれたんだろう、あんなお兄ちゃんに」


 由依は少し兄に対して辛辣なことを言う。


「実の兄に対して酷過ぎないかしら? 優斗にもいいところいっぱいあるじゃない」


 百合子は否定する。親だからじゃない、彼女は実際に息子の良いところを一番知っているのだ。


「たとえば?」

「率先して家事を手伝ってくれるところとか?」


 優斗は実際に何回も母親の家事を助けてもらっている。


「それお母さんにとってじゃない?」

「ほかにも優しいところあるわよ、由衣だって何回もわがまま聞いてもらってたじゃない」


 実際由衣は何回も優斗にわがままを聞いてもらったことがある。例えばゲームの貸し借り、漫画の貸し借りなど様々なことである。


「まあそこは認めるけどさ、でもどうして急に彼女なんか」

「優斗だって年頃の男子よ、そんな浮ついた話がないほうがおかしいわ」

「でも、あのお兄ちゃんだよ、そんな浮ついた話ないと思うじゃん」

「由衣?」

「何?」

「もしかして寂しい?」

「え?」

「自分の兄に彼女ができて嫉妬してるんでしょ、実際にさっき話を途中で止めたのもそういうことでしょ?」


 百合子は由依が恐れているように見えたのだ。


「何?急に。全然違うけど」


 由依は否定する。


「由衣の感情を知りたいの、今の由衣は強がっているように見えるから。それに今のままだといけないと思う、それでどうなの?」


 そう言って由衣のそばに寄る。


「まあ寂しくないといえばうそになるし、確かにさっきは2 二人が話しているところを見たくなかったのかもしれないけど、そんな嫉妬とかはたぶんしてないと思う」

「それを嫉妬って言うんじゃないの?」


 そう言って、由依を撫でる。


「いや正確に言ったら違うと思うけど、それはわかんない」

「そっか、まあでも今は嫉妬しててもいいんじゃない?私も最初お兄ちゃんが付き合い始めてた時には嫉妬してたし」

「それって正仁おじさんのこと?」

「うん、これでもうかまってもらえなくなるんじゃと思ったわ、でも不思議なことに、その彼女さんと仲良くなって嫉妬とかいう感情はなくなったけどね」


 百合子にも似たような経験があるのだ。


「へー、でも正仁おじさん未婚でしょ、そのあと別れたの?」

「うん、まあ三ヵ月しか持たなかった、理由はわかんなかったけど、結構仲良くなってきてたからちょっとショックだった」



「なんで分かれたの?」

「知らない、理由を聞くのも怖かったから」

「じゃあ三ヵ月たったら私の元に戻ってくるっていうこと?」

「破局を望むんじゃありません」


 百合子は由衣の頭を軽く叩く。


「ちぇ」

「まあ、とりあえず言いたいのは由衣が莉奈ちゃんと仲良くなったら治ると思うってこと」

「そっか、わかんない」

「まあ今は別にいいわ、そんな感情なくなると思うから」

「うん」

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