第2話 手紙2
「ハアハアお待たせしました、待たせてすみません。急に先生に呼び出されて」
「いやいやそんなに待って無いですよ」
ようやく彼女がきたようだ。現在時刻は午後四時七分、手紙に書いてあった時刻より七分の遅刻であり、激しく息を切らしている様子だった。
おそらく彼女の様子から察するに急いでここまで来たのであろう。そして彼女の顔をちらっと見る。その顔を見ると、彼女はクラスメイトの
あまり彼女とは話したことはないが、前からかわいい子だなとは思っていた。しかし本当に手紙を出したのが彼女だったとは思ってもみなかった。
彼女の見かけは黒髪の長髪の女の子であり、そしていつもクラスの隅で小説を読んでいる、いわば文系女子である。俺としては小説など読むと五分で眠たくなるので、正直小説の良さは分からないが、ずっと読んでいるどころを見るとただの暇つぶし以上の意味があるのだろう。
「えっとこんな所に呼んだ理由は、えっと……」
そんなことを考えていると、彼女が声を発した。しかし、緊張しているのだろうか、なかなか次の一言を発さない。俺を呼んだのはそれぐらい重要な用事なのだろう。例えば告白とか? 告白とか? そういう妄想が広がっていく。
しかし浮かれてはいけない、用事というものが告白ではない可能性もまだあるのだ。
沈黙が続いており、一見地獄のような空気である。しかし、粘り強く彼女の顔を見つめ彼女の次の言葉を待つ。彼女は必死に次の言葉を発そうと今努力しているのだ。
このまま見つめていると少しだけデレてしまいそうだという感じがする。なにしろ妹以外の女子の顔を見つめることなど人生でほとんどないのだ。それにその見つめている子がかわいくて、考えていることが告白かもしれない、どの事実だけでデレるななどというのがもう無茶な話であり、顔に出さないようにするのが精いっぱいである。
心臓の鼓動が聞こえる、この音を聞くと俺も緊張しているんだなということが分かってくる。
「好きです、付き合ってください!」
彼女がようやく言葉を発した。
分かってはいたのだ。彼女がそういうセリフを言うのを分かってはいたのだが、その言葉を聞くと、心の底から安心した。告白というのは俺の勘違いなどではなかったのだ。しかし、実際に言われるとその言葉には重みがある。思うにその発言をするのには勇気がいたと思う。なにしろ彼女と俺はほとんど話したことがない、もしかしたら全く無いかもしれない。
彼女は顔を赤くしながらこちらをまっすぐ見つめている、そのかわいい顔を見ているとこっちまで赤くなってしてしまいそうになる。
俺が思うに彼女は心の底から俺に向かってお願いしますと言っているんだと思う。しかし本当にどうしようか、この子可愛すぎるんだが。
俺はこういう時に何の言葉を返したらいいのか分からない。こういう経験は人生初なのだ。少なくとも告白を受けいれる事は俺の中で確定しているのだが、どうゆう風に言って承諾すればいいのか分からないのだ。しかし、彼女にこんな不安定な状態にとどめておくのも申し訳ないので、とりあえず返事をする。
「いいですよ」
「え?」
「付き合ってみましょう」
俺としては冷静に言ったつもりだが、平常心で答えられているのか、それともこの返し方でいいのか、それを思うと少し不安になってしまう。今思うと少し平時とは性格が変わってしまっていたかもしれない、それに今の瞬間に少し顔を赤くしているかもしれない。今の顔を寛人に見られたらおそらく笑われてしまうことだろう。それぐらい冷静なふりをしているのが大変なのだ。
おそらく彼女は俺が普段寛人と話しているところを知っているだろうから今の俺のことを少し変だと思っているかもしれない、だが今はこれでいい。ここから仲良くなればいいのだ。少なくとも俺はそう思う。
「ありがとうございます、本当にありがとうございます、告白したのが初めてで受け入れてもらえるか心配でした、告白を受け入れてくれて本当にありがとうございます」
莉奈は何回も何回も俺に頭を下げて感謝した。俺はそんな感謝することもないのになと思うが、それぐらい彼女にとっては、俺が告白を受け入れたということは感謝することなのだろう。
「前からあなたのことをかわいいとは思っていましたし、別に感謝する必要はないですよ、むしろ俺が告白してくれてありがとうと言いたいぐらいです」
俺はそう力強く言う。莉奈はその言葉を聞くと顔をさらに赤らめた。
感謝する必要はないというのは気を使わせないために言ったことではなく、本当にそう思っているのだ。もし彼女に告白を承諾したことを感謝されてしまうと、そのことで彼女が俺に借りを作ってしまうかもしれない。それは俺的には少し嫌だった。それは俺が付き合うのなら同等の関係というのが好ましいと思っているからである。
「そのかわいいと思っていたというその言葉だけでもうれしいです、最高の気分です」
莉奈に感謝された、どうやら最高の気分にさせたらしい。確かに莉奈がかわいいというのは事実ではあるのだが、これ以上感謝されても困るんだが。
「それはよかったです」
「ところで私の自己紹介してなかったですね、自己紹介してもいいですか?」
莉奈はそう問う。そんなことを言ったら俺も自己紹介してないんだがなと思うが。だがその前に一つ問題がある。ここは長時間会話するには狭いと言うことだ。
なので、「その前に移動しませんか?」と俺は莉奈に問う。莉奈も「確かにそうですね、気配りができてなくてすみません、移動しましょう」と答え、二人で校舎裏を抜けて移動する。
「それでどこ行きます?」
「そうだな、俺の家とかどう?」
「えっと……優斗さんの家ですか?」
「ダメだったのか?」
確かにいきなり家はやりすぎたか、それに莉奈の家がどこにあるのかも知らないし、家は逆方向の可能性もある。もしかしたらカフェとかの方が良かったのかもしれない。
「いえ、急でびっくりしただけです。行けるんなら、ぜひ行きたいです!」
「そうか、ならいきましょうか」
「はい」
そして俺たちは歩き始め、少しずつ少しずつ歩いていく。
「あ、母親に電話してないわ」
そういい、俺は近くの路地裏に入り、俺の母親の百合子に電話する。
「ごめん母さん今日女連れていく」
俺は少し、ふざけた言い方で言う。こんなセリフに憧れがあったのだ。
「女って誰よ女友達なんていたっけ?」
当たり前の話だが、彼女という可能性はないらしい。まあ、俺も昨日までないと思っていたんだけどな。
「今日付き合うことになった子」
「え? どういうこと、まさか彼女隠してたの?」
母さんは驚いたことだろう。俺でさえ学校に行く前はそうなるなど思ってなかったのだ。
「いや、今日告白されて、急ですまん」
「それはいいけど、ちょっと待って……」
「お兄ちゃん彼女できたの?」
母さんが呼んだのか、妹の由衣が来たらしい。どうやらめんどうくさいことになりそうだ。
「ああ告白された」
「え!? 急すぎない」
由衣も驚いたようだ。無理もない。俺に、彼女が出来るなんて、俺でさえ思っていなかった。
「ああ、俺もびっくりしたよ、朝来たら机の中に手紙が入ってたから」
「え、それってベタすぎない?」
「まあ俺もそう思ったけど、まあとりあえずOKした感じだ。おっと、そろそろ電話切っていいか、待たせてしまってるから」
「えーもうちょっと話そうよー」
いつものように由衣が駄々をこねる。
「それは後でな」
「はーい、仕方ないなー。ま、ここはできる妹が我慢してあげましょうか」
「なにを偉そうに。由依の癖に」
「ふふ、また家でねー」
「おう」
そして俺は莉奈のところに戻る。
「おまたせ、さあ行きましょうか」
「はい!」
莉奈は元気よく答えた。
「そういえばそちらの親には連絡した?」
「はい、家出る前に今日告白してくるということは伝えてあるので」
「なるほど、しかしうちの家族驚いていたわ、まさか俺に彼女ができるなんて! ていう感じで」
「どういう感じに言ったの?」
「今日女連れてくる! みたいな感じで」
「それは驚くと思うよ」
「それに俺今まで女の子とかかわったことあんまないからな」
おそらく小学生の時以来だろう。俺にはそれから女の子と関わったこともほとんど無いのだ。
「じゃあ私が第一号という感じですか?」
「まあそうだな」
「うれしいです」
「そうか、でもまあ妹にいびられるのは確定だな、さっき電話した時も色々聞かれたし」
「妹さんがいたのですか?」
「ああ、本当に面倒くさい妹だよ」
「ひどくないですか?」
「まあ会ったらわかると思うよ」
「ふふ」
「そういえば結局私の自己紹介してませんでしたね」
そういえばそうだったなと思った。
「たしかにな」
「じゃあ、してもいいですか?」
「もちろんいいぞ」
「えっと私は松崎梨奈で、知ってると思いますけど、高校2年生で、誕生日は6月8日です。あと趣味は小説を読むこととか、遊んだりすることです。それとネコを飼っています。あれ、自己紹介するって自分から言い出しといてなんですけど、自己紹介って難しいですね。思ったより全然思いつきません」
「まあそういうものですよ、自己紹介なんて、思いつく方がおかしいんです」
俺は少し硬い言葉で莉奈を励ます。
「そうですよね! じゃあ次はなぜ優斗さんがいいのかを話したいと思います」
「なんか緊張するな」
俺の自己紹介は飛ばして自分の話をするそうだ。
まあ莉奈にとって俺のことはよく知っていると思うし、別に構わないだが。
俺にとっても莉奈がなぜ俺のことを好きになったのかは聞いておきたいとこである。なにしろ俺は女子にモテないタイプだと思っていたのだ。
俺は他人にモテる努力など一切していないし、彼女など幻想の存在だと思っていた。彼女など陽キャどもが作ればいい、俺には関係ないと。
それがなぜか今彼女ができた、しかも俺のことが好きな彼女が。
それが俺にはなぜなのか全くもってわからなかったのだ。
「優斗さんに一年生の時に一目ぼれをして以来ずっと見ていました、顔もかっこよくて、目つきもよくて、仕草とかもかっこいいし、優しいし、頼りになりそうだし、勉強も結構できるし、楽しそうに友達と話されてるし、言葉にするのは難しいんですけど、好きです」
ちょっと待ってくれと言いたくなる、急にこんな褒められるなんて思わなかったし、俺にとっても初耳なことばかりである。俺自身、俺が頼りになる人間だとはあまり思ってないのだ。
「なんか、まあ、色々褒めてくれてありがとう」
とりあえずお礼を言う。
「どういたしまして」
「そういや話変わるけど、俺の家がどこにあるか知らないよね」
「うん、会話聞いてる感じだったら学校の近くとは思ってたんだけど、あってた?」
「ああ徒歩で十五分ていったところだな、というかどれぐらい俺と寛人の会話聞いてるんだ?」
少しだけ気になった。というのも莉奈は前から俺のことを気になっていたと言っていたからだ。
「えーと、聞こえる程度は。もしかして聞かないようにしていたほうが良かったのですか?」
「いや、まあ聞いていたとしても別にいいけど、どのくらい聞いていたのかなって」
「もしかして私ストーカーだと思われてます?」
「いやいやそんなことはないよ」
「まあ多少意図的に聞いていたのは否定しませんけど」
「否定しないのかよ」
「だって気になるんですから」
やっぱりかわいいな、この子、俺には彼女なんて無関係だと思っていたがまさか俺にこんなかわいい彼女ができるとは、手紙を受け取っていたほんの数時間前ですら思っていなかった
「ところで、話戻ってしまうんですけど十五分って近いですよね」
「そうでもないよ、、毎日歩くのだるいし」
近いとかそういうこと考えたことが無かった、毎日坂を上るのは大変だし、みんな高校は家に近いかどうかで決めていると思っていたからだ。
「そんなこと言っても私なんて学校に行くのに電車で二回も乗り換えなければいけないのに」
「何分かかるの?」
「四十分です」
普通に遠いな、よくその距離を毎日休まずに行けるな。俺だったらたぶん無理だ。
「遠いな、それは」
「うん」
「毎日何時に起きてるの?」
「六時五十分」
「早くね、それで寝不足にならないのか?」
俺が起きる時間よりも二十分早いのだ、俺でさえ寝不足に毎日なっているのに、それよりも二十分早いとなったら考えるだけで恐ろしくなる。
「毎日眠い、毎日後一時間ぐらい寝たい感じ」
「わかるわそれ、毎日始業時間三十分遅くならないかな」
「ふふ、そうですね」
「あ、俺の家だ、話しながらだと近いな」
まあ下り道ということもあると思うし、いつも寛人と話しながら帰ってはいるが、莉奈と、新彼女と歩くと新鮮だと思う。
「確かに、誰かと話しながら帰るなんてほぼ無いですしね」
俺の家はどこにでもあるような家だ。壁が白く塗装してあり家の前には小さな花壇があるどこにでもあるような家だが、俺はこの家が正直誇りである、俺が生まれ育った俺の唯一の家なのだから。
「ん? どうかしたか?」
俺は莉奈に聞く、莉奈を見ていると少し緊張しているように見えた。まあ仕方ないと思う、俺が誘っておいてなんだが、付き合って初日で彼氏の家だ、緊張するなというほうが変だと思う。
「大丈夫です、緊張しているだけです」
「そうか、まあとりあえず中入ろうぜ」
「はい!」
そうして俺たちは家の中に入っていった。
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