クラスの女子と関わったことの無い俺の机の中に手紙が入っていたのですが

有原優

第1話 手紙

 俺こと前川優斗まえかわゆうとは、女の子の幼馴染もいないし、女の子との関わりもほとんどなく、勉強も学年トップな訳でもなく、何か取り柄があるわけでもない、いわゆる普通の男子高校生である。


 そんな俺だが、今日はいつもよりも気分がいい。その訳とは簡単なことだ。朝学校に登校した際に机の中を見ると謎の手紙が入っていたからである。


 内容としては放課後に学校の校舎の裏側にきてほしいということらしい。俺はその時に確信した。この書き方は告白しかないと。ベタなやり方ではあるのだが、俺はもはやそうであるとしか考えられなくなっていた。


 それからというもの俺はいつも以上に真面目に授業を聴いていた。他の人だったら上の空になりそうなのだが、今日の俺の場合は違う。放課後に待ち受けるであろう告白を楽しみに待ちながら授業を受けていたのだ。


「お前今日ずっとニヤニヤしてないか、怖いんだけど」


 そう俺の友人である大貫寛人おおぬきひろとが笑いながらそういった、俺と寛人は高一の時に隣の席になり、そのまま流れで友達になったのである。それ以来ずっと一緒にいるのだ。


 俺としては別ににやけ顔をしている自覚はなかったが、寛人が言うのであれば間違いなくそうなのであろう。なにしろ寛人とは友達なのだ。今まで一番誰と学校で過ごしてきたのかという質問をされると、答えは間違いなくそうなるのである。


「別になにもないよ。そんなにやにやするような特別なことは」


 俺はその寛人の言葉を否定する。にやにやしていると思われるのは嫌だからだ。何か特別なことがあるとばれてしまうかもしれないし、それ以前にそのことを指摘されるのは嫌なのだ。


「本当にそうか? 授業中いつもちょっとだるそうにしてるのに、今日はめっちゃ先生の話聞いてたし。……ちょっとおかしいぞ。何かあったのか?」

「なにもないっていってるだろ」


 俺は少しキレ気味でそう言った。否定してるのに引き下がらないなんて、寛人しつこいな。


「本当かー? 怪しいなあ」

「本当だよ。しつこいな」


 否定する理由はもう一つある。それは俺が本当にあの手紙が告白の手紙なのかどうか自信がなかったということである。


 俺はこういうシチュエーションこそ告白だと思ってはいるのだが、そうだという証拠がない。恋愛漫画の読みすぎで、そう思ってしまっているという可能性もあるのだ。


 よくあるパターンとしては寛人と会わせて欲しいだとか、寛人に近づくきっかけが欲しいだとかそういう手紙である可能性がある。だからこそ俺は告白の件を寛人に言わないのだ。



 だから決して急に彼女を寛人に見せて驚かそうとする意図があるわけではい。繰り返す俺には決して驚かそうという意図はないと! しかし、そういう意図がないわけではない。俺にもそういう考えがあるのだ。だってそう思ってしまうのは人間のエゴなのだから。


「ならいいけどよ」


 寛人がそう言う、これは何かあるとばれてないのか? と俺は少しだけ考えた。寛人の場合空気を読むタイプなので、あえて必要以上に聞いてこなかったのかもしれないのだ。


「でもお前もうその顔やめとけ、みんなキモいと思っていると思うぞ」

「俺の顔そんなにキモくなってんのか」


 俺は少しだけ自分の顔を触って自分の顔を確かめる。


「ああ、結構キモイと思うぞ、いまもにやにやしてるしな」

「そうなのか?そんな自覚ないけどな」

「自覚ないのにそんなふうになるか?」

「なるよ知らんけど、てかなんかお前にそんな風に思われているなんてなんか嫌だな」

「なぜだ」

「友達にそう思われてるのっていやだろ」

「俺たち友達だったっけ?」


 そう寛人は顔をにやけさせながらそう言った。


「お前冗談でも傷つくからやめろ」

「えー冗談じゃないんだがな」


 寛人は笑いながらそう言った。やめて欲しい。


「お前な」


 俺は、寛人の制服の首元のところを引っ張る。

 寛人はそういう風なギリギリを攻めたことをよく言うが、本当にそういうことはやめてほしいと思っている。当然冗談でそういうことを言っているのはわかっているのだが。それを踏まえても本当にやめてほしいと思う。


「まあいいじゃねえか、それより授業始まるぞ」

「確かにな、て、あ!」

「どうしたんだ?」

「宿題のこと完全に忘れてたわ、あの問題を解いてくるってやつ」


 そう今日は教科書の問題を解いてくるように言われていたのだ。数学IIの担当である福原圭一フクワラケイイチ先生は厳しい人である。


 実際に前に毎回宿題を忘れていた人に対し「そんなんで大学行けると思ってるのか! 数学なめとんのか!」などと言っていたこともあるのだ。俺は普段から宿題を忘れているわけではないからないから大丈夫だとは思ってはいるが、心では少しだけビビってしまっている。


「ああ、あれ俺は当然もうやってるぜ。しかし、お前やっちまったなこれ絶対笑われるやつやろ」

「……笑われるというか怒られるほうが怖いんだが……」

「まああてられる確率なんてほんのわずかだろ、大丈夫だって」

「確かにそうだな、て、今日二十七日やん」

「……健闘を祈る」

「ああ」



 その後出欠確認やら様々なことが行われ、その後に先生が「前回の宿題の問題ちゃんと解いてきたか?」などと言う。


 ほぼみんなやっていたみたいだが、俺みたいにやっていなくて急いで問題を解いている子や、もう諦めている子もいる。


 ちなみに俺は今更やるのもかっこ悪いし、今更解くのも面倒くさいのでもうあきらめてしまっている。


「今日は積分をやっていくぞ、教科書二百十七ページを開いてくれ、そしてそうだな今日は四月二十七日だから出席番号二十七の前川に練習問題二五をやってもらおう」


 ああ、やっぱりかと俺は思った。運命なのだろうかとも思った。今日の朝手紙を受け取った時に決まってたことなのかな。


 運のいいことに今回の問題は単純な計算問題である。俺はクラスの中では勉強はできるほうなのでもしかしたらと思った。事実クラスで常に上位五位には入っているのだ。


 そして俺は黒板に向かって教科書の問題の答えを解きながら書く。正直言って合っている自信はないのだが、一縷の望みを託して、自分の答えを黒板に書く。


「えーとこうですか?」

「これは」


 もしかして合ってるのかと、奇跡を信じてみる。もし合っていたら俺は数学の天才かもしれない。


「全然違う、さては宿題のこと忘れてたな」


 違ったようだった、俺には神などはいなかったようだ。


「え?これ違うんですか?」


 無駄だと知りながらも俺は必死の抵抗を試みる。


「何を考えてこう書いたんだ、これが正解なわけないだろ」

「くっそー」


 クラス中で笑いが起きる、全員ではないと思うが、半分程度の生徒は笑っていると思う。明らかに宿題をしていなかったような生徒も笑っているのは気になるが、まあ仕方のないことである、俺が悪いのだから。


「もういい席に戻れ」

「はーい」

「全く、大村は解けるよな、この問題」

「はーい」


 俺のクラスメイトである大村理央オオムラリオが黒板に向かう。


 彼女はクラスの中でいつも中心にいる存在である。そこまでかかわったことはないのだが、結構クラスのほぼ全員と仲がいいイメージがあり、しかも彼女は勉強もかなりできる。


 そして俺は席に戻って寛人とこそこそと会話をする


「お前やっぱり答えられなかったのか」

「仕方ないだろ、忘れてたんだから」

「お前浮かれてたんじゃねえのか? そろそろ教えろよ」

「そんなわけねえだろ、冗談も大概にしろよ」


 まさかまたその問題が浮上して来るとは思わなかった。本当に困る。数時間前のにやけ顔をしていた俺を恨みたい。


「冗談じゃねえよ、絶対なんかあるだろ、お前が宿題を忘れるなんてさ」

「だから何もないって言ってるだろ!」


俺は怒鳴った。


「こら! そこ授業中だぞ」


 怒られた、まあ強く突っ込んでしまったから当たり前である。

 そんな俺を横目に寛人は笑っていた。


 授業終了後


「今日さ先に帰ってくんない?」

「なんで?」

「予定あるから」

「別にそれぐらい待つぞ」


 それを言われては困る、今日は例の告白が待っているし、その場面を寛人に見られるのが恥ずかしいのだ。


 そんなことを考えていたら、「おいおいどうしたんだよ」と寛人が言ってくるので「いや待たせるの悪いし」などと言い訳をした。


「別に今日なんもないし待つぞ」


 だからそういわれたら困るんだよと突っ込みたくなる。まさか今日、寛人の優しい性格にイラつくとは思っていなかった。


 本来は「ほな一人で帰るわ」などと言ってほしかったところだ。


「いや一時間ぐらいかかるから」


 なんとか俺は寛人を先に帰らせようと努力する。何しろ寛人を返さなければ何も始まらないのだ。



「怪しいなー何の用事だ?その用事がお前が浮かれている理由か?」


 そう寛人が優斗に向かってそう言った。図星ではある。しかし、俺にとってはその事実を認めるわけにはいかない。


「浮かれてないし、そういう楽しい用事でもないよ」

「ふーん、まあいいか。じゃあまた明日な」

「おう、急ですまんな」

「かまわねえよ」

「ありがとう親友」

「おう親友」


 寛人が引き下がってくれた、手紙の件は寛人にばれているかもしれないが、こんなところで時間を食うわけにもいかない。今は寛人に感謝して、靴を履き替えて、あいつには急に用事があると言って悪かったなと、呟いて、校舎裏に向かう。




 俺の学校の校舎裏は本当に狭く、秘密の話をするのによく使われていて、校舎裏には用事がないときには決して入ってはいけない秘密の場所なのである。


 しかし本当に入るのに躊躇する、まあそこがいいからここに呼び出したんだろうけど。


「さてとついたが、彼女はどこだ?」


 しかしまだ彼女は来ていなさそうだった、時間が経つにつれ少しずつ不安になっていく、もしかしたらあの手紙は寛人あたりが出した偽の手紙であり、俺は単に騙されているだけなのかもしれないなどと、よくない考えが頭に浮かんでくる。まだ来ないのかまだ来ないのか、そう心の中で何度も何度もつぶやく。





「ハアハアお待たせしました、待たせてすみません、急に先生に呼び出されてしまって」

「いやいやそんなに待って無いですよ」


 ようやく彼女がきたようだ。

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