下には下。上には上。

授業が終わり、放課後になると、校舎内のロータリーに高級そうな車が一台止めてあって、

「お嬢様に聞かされていた方はあなたですね?私がお送りいたします。」

なぜ僕だとわかったのか。という疑問は、頬の刺激が教えてくれた。

「よろしくお願いします。」

促されるまま、車に乗って、行く先を任せる。

あぁ、そう言えばクラスメイトの反応とか、見忘れてたな。

ほら、目立った主人公は、羨望の目で見られたり、引かれたり、敵視されたり、いろんな感情の視線を受けることができるじゃないか。

勿体ないことしたなぁ。

なんて思っていると、本当にすぐに到着してしまった。

「お待たせいたしました。正面の扉を開いて、中でお待ちください。」

運転手さんがそう言いながら、ドアを遠隔で開いたので、促されるままの行動をする。

ちょっと大きめの両開き扉を、ノックもせずに押し広げる。

2次元でよく見るような内装で、正面には大きな階段があり、床全体にオシャレな赤のカーペットが敷いてある。

ドアの音も響いていたし、呼ばなくても誰か来るかな?

人任せなことを考えていたら、その通りに人が駆けてくる足音が聞こえた。

「あ!お待ちしておりました!」

息を切らしながら、クラスメイトの誰も言っていなさそうな言葉を使い始めた。


そのまま客間に通されたのだが、ソファーはふかふかすぎるし、目の前の机は膝より低いし・・・

高級なのはわかるが、高級って使いづらいのだろうか。

丁寧なノックと、「失礼します。」とさっき聞いた声が聞こえた。

「お待たせしました。お話が長くなるかもしれませんので、紅茶とお茶菓子を持ってきたんです。」

今朝、集団にいじめられたとは思えない様子だ。だけど、よく似た場所に付いた絆創膏が、本人であることを示している。

紅茶を互いの斜め前に置き、茶菓子を二人の間に置くと、座ることもなく感謝から始まった。

「今朝は、ありがとうございました。いじめられていたところを、助けていただいて。」

・・・なんだか、浦島太郎の亀みたいだな。

「助けたわけじゃないから、気にしないで。なにせ」

「それはよかった。」

不意に、様子が変わった。

「もとより感謝などしていませんが、親が形でも言っておけとうるさいので、仕方なく言っていただけ。私は少し残念にも思ってるんです。」

飾った敬語は、敵意か嫌悪の表れだったなんて、分からなかったな。

そんな僕の様子は気にせず、思い返すように、または試行錯誤するように、空を見ながら顎に手を当てている。

「本当はもっと彼らを追い立てて、彼らが味方を増やして、クラスが敵になる。それか、彼らを悪として、真実を知らないままにクラスで罰する。そのどちらになるかを見てみたかったんですけど・・・。全部台無しにされちゃいました。」

笑っている少女は、その笑いに悪意が無い。

ぽすんと座りながら、少女は続ける。

「でもまぁ、それも一つの答えだったし、なにより少し目立ちすぎたから、君が手を出さなくても前述のどちらかになってたはずなんだよね。そう考えるとそうだな・・・。明確な罰の対象は、サンドバックにされる。って結論が出るね。私が悪の場合もそうだったわけだし。」

一人でしゃべりながら、うんうん。と納得している。

つまり、クラスメイトで人の心理実験をしていた。という事だろうか。

心底どうでもいい。

「あ、つまらなかった?そりゃそっか。みんな興味ないよね。敵は欲しがるくせに。」

心臓が跳ねた。気がした。

「あぁ図星?それもそっか。君、悪を前に暴力をふるいながら笑ってたもんね。とっても楽しそうだったよ。」

ここだけ、興味のない。無機質な声だった。

「まいいや。そんなことよりもさ、君にお願いがあってきてもらったんだ。」

話の流れが変わって、空気も変わった。普段から読めないのではなく、読まないけれど、どうしてかここの密度は濃いように思える。もしくは、重圧がすごい。

「君の戸籍を私の所有物にしたい。」

「それはどういう意味?馬鹿にもわかるように言ってくれ。」

戸籍が欲しい。というなら、養子にする。婚姻する。などがあるはずだ。ここに奴隷制度が無いから。

「わかりやすくかぁ。具体的には、ボディーガード的な役割をしてほしいんだ。別に守らなくていいんだけどね。私が手を出された方が敵を作りやすいし。」

身を粉にする素敵な人間。ではないのだ。

「今回はよかったが、今後どのようなときに「あれ」が起きて、私のしたいことが崩壊するかわかったものじゃないからさ、君に首輪をつけたいのさ。」

例えば、生態系を壊しかねない異常種を飼いならしたい。ということか。

「別にいいよ。孤児だから。勝手に養子にでもすればいい。」

買われるなら、今後の苦労も減るかもしれない。尽くす人がいるなら、考える事も減らせるかもしれない。

「そう、じゃ、ご主人様からの一つ目のプレゼントだ。」

上機嫌にそんなことを言う少女は、とても気味が悪かった。

そして、僕はその言葉が、なぜかうれしくて口角が上がってしまった。

「婚姻と養子。どっちがいい?」

ご主人様は、頭がおかしいようだ。

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青春アニメは実現しない。 埴輪モナカ @macaron0925

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