青春アニメは実現しない。

埴輪モナカ

夢は夢、現は現

サブカルはとても好きだ。

普通に生きてたらほとんど得られないような考え方を得られるし、絶対に遭遇できないような「もし」を、とってもきれいに現実的に見せてくれる。


主人公になりたかったけれど、ヒロインも居なければ親友もいない。圧倒的な力も、頭も、特別な能力も、努力による成長もない。

そんな自分が主人公になるのに必要なのは、きっと敵だと思い続けてきたけれど、明確な敵なんて見つかったことないし、戦うような対立意見も存在しない。

とても平和だった。



だからね。

初めてきみを見つけたときは、とてもうれしかったんだ。

本当に本当にうれしくて、きみにいじめられていた彼女のことなんて忘れて、笑ってしまったんだ。

耐えられなくて、うれしすぎて、抑えられなくて、

誰にも試したことの無かった武術を、不意にぶつけられた。

何度も何度もぶつけた。

四肢には、壁や砂を叩く感触ではなく、肉を、生きている、動いている肉を叩きつける、その反作用の力を感じる。感じることができる。

サンドバックよりもよく動いて、壁よりも逃げるように引いて、空気よりも抵抗してくれるきみ

ずっと待ってた。ずっと切望していた。やっと出会えた!

ありがとう。クラスメイトの少女をいじめてくれて。

ありがとう。君一人じゃなくて、あと三人も連れてくれて。

ありがとう!ぼくを主人公にしてくれて!

それから僕は、人生で一番楽しい時間を過ごしたと思う。感謝をしながら、グループの主のような彼を、口と鼻から血を流して、動けなくなるまでたくさん試した。

そのあとは、呆然と見ていた三人を、一人づつ襲って、いいや、一人づつ倒したのだ。

紛れもない正義のために。たった一人の少女がいじめられていたから、それを助けるためだけに、いじめていた四人を、たくさんいじm・・・いいや、退けた。


教員にはちゃんと誤魔化した。いじめられていた少女を助けるためだと。

やりすぎじゃないか?とも言われたけれど、少女も少女で結構な怪我を負っていたらしく、

「ま、お前らの仲なら仕方ないか。」

と、不思議な納得のされ方をした。

どういうことかわからないけれど、まぁ、檻の中に入るよりはマシかな?

生徒指導室から出ると、待っていたかのように誰かに抱き着かれた。

「もうっ、無理してっ!」

親しい人を心配する声は震えていて、涙していることを容易に想像させるのだけれど、そうなる理由がわからないし、きっと嘘。

「あなたが私の娘を助けてくれたのですね。本当にありがとうございます。」

深々と、僕に向けて頭を下げているのは、この少女の母親という事なのだろう。

でも、少女が泣いていないと、僕は分かっている。なぜ?

不思議な感覚が絶えないけれど、一般人を装うのはもう慣れたものだ。

何より、「一方的になぶった」ではなく、「こちらも被害に遭った」という事実が、戦闘経験の足りていない僕の顔に残っているから、余計にやりやすい。

「いえいえ、そんな大したことは、私が勝手に横やりを入れただけですから。」

聖人を演じるのも、主人公を求めた結果だったりする。

「何かお礼をしたいとは思うのですけれど、善い案が浮かばず・・・」

少女の母親はそういうけれど、どうやら少女はそうではないようで

「お礼したいから。うちに来てほしいの。わたし、なんでもするから。だから、お願い。」

何でも、何でもか。

守るべきヒロインになってもらう?それとも、競い合うライバルは・・・無理かもだから、金とか権力とかで手伝ってくれる友達?この辺はお邪魔しながら考えるか。

僕は、優しい顔を作って、優しい声で言った。

「わかった。じゃあ少しだけお邪魔させてもらおうかな。正直、欲しい物とか思い浮かばないけど・・・」

少女は、震える声をそのままに返事をした。

「うん、うん。待ってるからね。」

うつむいたまま。僕に一度も顔を見せないまま。少女は親に連れられて自宅に帰って行った。

教師が見送って、戻ってきてから戻ろうと思っていたのだけれど、その教師が声をかけてきた。

「お前さん、あんまり個人に興味なさそうだったのに、もうそんな関係を作るなんて、すごいなー。」

何のことだろう。とは思ったけれど、「なんでもする。」という言葉の影響だろうと、すぐに気が付けた。

「いつもああなんですよ。そのくせ断るから、毎回言葉が意地悪なんですよ。無自覚に。」

まるで付き合っている彼女が、甘い言葉を意味も知らないまま使ってきて困る。的なニュアンスで答えて、流すことにした。



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