血継と欠点
エーテスから魔術を学んでから半年の月日が経過した。
その半年はただただ魔術に対して知識を深めることに費やしていた。人生に対する目標が定まったとしても今のベネディクトゥスの身体では精力的に動くことは難しい。しかし、魔術に関しての理解はエーテスが認めるほどだ。すでに上級に指をかけている状態だ。それが終わればそれ以上はエーテスは教えることができないために魔術の授業は終了となり、あとは自分で研究し、鍛錬するのみだ。
色々な場所を歩き周るようになり、アルマは自身のこどもを見ることにかかりきりでベネディクトゥスのことを見ることができなくなっていた。アルマとしては自分の子供は可愛いが、ベネディクトゥスのほうが愛を注いでいると確信してしまっている。実の子供ではないけれど愛を注いだ初めての子供で手間がかからなかっただからだろう。アルマは心配性な気があり、自身のこどもが寝たらできるだけベネディクトゥスを見るようにしている。そこにはエーテスのような狂信はなく、ただ愛を持って接している。それをベネディクトゥスも感じているためにエーテスよりも気楽にアルマに接することができるのだ。
(ベネディクトゥス様も大きくなったし、そろそろ専属のメイドが就くわよね。外から来た女なんてどうせろくでもないことを考えているに決まってる。それなら私の娘のゾーイに任した方がまだましだわ。邪な想いなんて抱かせないように教育して完璧なメイドとして私のかわいい子に仕えさせる。そうすれば外から余計な手は出ないでしょう。後は婚約者を早く決めなければ、貴族様たちが蟲のように群がってくるに決まってる。それならいっそ早い段階で高い位の貴族様を見繕わなきゃ)
狂信者ではないが、愛が重い様子ではあった。全てはベネディクトゥスの健やかな生活のためだと心を鬼にして考えている策であり、ほんの少しゾーイがベネディクトゥスと結ばれて名実ともに義母となれることを夢見ているただ愛情深い女性なのだ。
そんなことを夢見たのは彼の初めての魔術の授業を自室から目撃した時だった。彼女にとってベネディクトゥスはただのかわいい義息子だと考えていたから、才能があると言っても王族と血のつながりのある貴族だけが継承し続けている特異属性が宿っているが、それを知られていない公爵家の嫡男というだけだ。それも今では後妻との間にできた子供が嫡女として貴族社会に公表されている。
ゆえにベネディクトゥスの今の立ち位置は側室の息子という利益のために他家の貴族に婿として結婚させる駒でしかない。乳母のアルマにとって貴族の汚さはほとんどわからないがそれでも人間の生き汚さは知っている。それから守るために後ろ盾となる結婚相手を早く見つけなければとアルマは娘のゾーイが寝ている時は貴族の事情を精査している。全てはベネディクトゥスの健やかな人生のため、それほどに彼に魅了されているのだ。
しかし、当の本人は一人ぽつんと裏庭でたたずんでいた。
(この半年であの
それにもともとまじゅつの才能はあったんだろうな。元々感じなかったものを身体から感じる違和感が生まれた頃からあったからし、今は慣れたが昔はだいぶこの些細な違和感にイライラしたな。まあそのおかげで魔力を作って溜める器官があることを知れたからいいけど。これも体の一部なんだからそりゃ使ったら成長して生成量も貯蔵量も増えるよな。で、外から取りこんでそこに負荷をかけてさらに成長させる。やっぱり魔素花から魔力を抽出して濃縮したものを取り込むのは訓練としてベストだ。それに魔力
ベネディクトゥスはこれから数年の計画について考えていた。魔力嚢とはベネディクトゥスが魔力視の魔眼で見える解剖されても見つかることがない不思議な臓器。魔力を生み出して溜める臓器であるため嚢という単語を使用している。今は彼しか見えないが、それを魔導具で見えるようにすることで貴族とのつながりを独自に手に入れ、権力を手に入れようと画策している。それはこの半年で魔力嚢が見えたときから考えていた計画だ。
けれど今日はその計画を進行することはない。今日は珍しくエーテスが自身のことを監視していないことをいいことに特異魔術を実験しようと裏庭に来たのだ。
特異属性を持つ家はベネディクトゥスが知っている家だけだと五大王国を建国した王族とエリュシオン王国の四大公爵のみ。他にも特異属性を持つ家は存在するだろうが、王族——詳細に言うならばネメスの血筋から遠くなればなるほど特異属性は失われるために年々発現する者が少なくなっている。公爵以上の家には必ず王族の血が流れているがそれも嫁として迎えるのは公爵未満の貴族の娘を嫁とするほどにしか権力がなく、王族の血を薄くしていった。しかし、機密ではあるが大公の地位を与えられている家だけあり、王族の血が濃いベネディクトゥスには問題なく特異属性が宿っている。
通常、特異魔術は極限状態で生命の危機に瀕した時に才能があれば発現するものだ。しかし魔力視の魔眼を持つベネディクトゥスはそんな状態にならなくとも得意魔術を使用することができる。彼自身が見えている適正属性のうちの一つである透明な色の属性が彼の持つ特異属性であると気が付いていた。今日はそれを確かめるためにただ一人、誰にも見られない時間を狙って裏庭に来たのだ。
(得意魔術って、
じゃあ
ベネディクトゥスにとってこの世界は生きているがゲームの中であるという認識は未だに消えていない。彼にとって自分が何もしなければこれからの数十年、ゲーム通りに進行して問題なくハッピーエンドになるのだと慢心している。
精神に引き寄せられてエゴイズムが強い状態の彼にはそこまでわからず、今は自分のしたいことを優先にしている。実に子供っぽく微笑ましいものだ。事実彼は誰もいないというが心からベネディクトゥスを愛しているアルマはメイドの一人を洗の‥‥‥説得して彼のことを影から見守るように命令している。
(じゃあとりあえずやっていくか!まずは透明な色の属性に意識を向ける。
その後、その属性に魔力を注ぎ込む。その時色が他の適正属性よりもはっきりする位に注ぎ込まなければ魔術は正しく発動しない。
……っわかってはいたけど、めちゃくちゃに魔力を食うな。上級魔術の数倍から十数倍は使うなこれ。まじで魔力量が多い貴族じゃないと使用できないわけだ。
やっぱそう考えるとニキアスというより【勇者】に選ばれる奴って突然変異なんだろうな。平民でも特異属性を手に入れてなおかつ扱えるようになるんだから。
魔力の総数が貴族なんかよりも全然少ないのに使えるんだから絶対生まれ変わりとかだ)
そんなことを考えながらベネディクトゥスは自身の魔力を高め続けた。そうして彼の体内にある魔力のほとんどを消費して、ようやく魔術が使用できるほどになった。
それをただ属性が付与された魔力として放出した。通常これだけでも火は出るし、風が吹く。しかし、ベネディクトゥスが放った魔力はただ透明で放ったか他人からではわからない物だった。それでも発動した本人氏はしっかりと魔術が発動したことがわかっていたし、それに伴う身体の負荷もしっかりと負っていた。
(やっば。一度発動するだけで体にある魔力ほとんど使うとか死ぬほど燃費悪いじゃん。こんなの一度に一回使えればいい位だ。けどせっかくの強力(?)な属性なはずなんだ。当たり前のように連発できるくらいに魔力を増やさなきゃな!
そう考えれば、当分は魔力の総量の増加だな。魔力嚢は体内器官だ。使用すれば大きくなるのは当然なんだからこれから毎日枯渇する位に消費して嚢を大きくするぞ。
それからもう少し大きくなったら剣術とかもしたいな。魔法剣士とか器用貧乏だけど極めれば万能な最強なキャラになれるだろ!)
「ふ、ふふ。あははは!……あー、やっぱりこのせかいはさいこうです。たのしいことがひろがっている。みちをあばき、きちをかいたくする。いまだみかくにんのことがおおいこんせではおおくのことがみち。たのしみですねぇ。いろいろなことがしれるのが」
未だ小さな箱にはでしか生きられないベネディクトゥスは順風満帆の人生を歩むための準備をゆっくりだが、着々と整えていた。
ベネディクトゥスの瞳は未知の世界を夢見てキラキラと輝いていた。
それはそれとしてすでに魔力が枯渇気味で気絶寸前の彼はおぼつかない足取りで屋敷の中へと消えていった。
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