第11話 戦いは数だよ
「ほんっっっとうに! 申し訳ありませんでしたぁ!!」
「……いえ。別に」
「そうは言うけどれいちゃん結構ショック受けてなかった? 本当にいいの?」
「良いも悪いもない」
つまりはどうでもいい。
これくらい慣れてるし……最近ちょっとこういう機会が無かっただけで。
:粗相をしたあと正気に戻って最初にするのが土下座なの日本人あるあるだよな
:ちゃんと謝れてえらい
:いくら闇魔法受けたからってあんだけ怯えられたら良い気はしないでしょ
:そもそも初心者がソロで2階層とか自信過剰だろ
:そこらへんはどうでもええねん向こうの配信のコメで言うべきことやし
:助けた側が諭すんならともかくね
:たすかってよかった!
:でもれいちゃんがかわいそうだとは思わないんすか
:闇魔法くらってから同じこと言ってみ?
:助けてもらった恩を忘れるほどじゃないだろあんなん
:れいちゃんかわいいのに
:可愛いやつほどホラーに反転した時怖いものはないよ。ぬいぐるみペニスショックみたいなもの
:かわ……いい……?
:れいちゃんかわいいダルォ!?
:いや怖いが
;お前ら揃いも揃って節穴か? エロいだろ
;発言の意図が不明です
「んー……んんんー……れいちゃんがそう言うならそれでいっか! 次からは気をつけようね、寛大で寛容なれいちゃんだからよかったけど!!」
「ありがとうございます! マジで死ぬかと思いました!!」
死を覚悟したのがいつ何度あったのかという質問はそっと飲み込み。
話は主に市希に任せて聴きに徹すると、どうやら講習を終えて最初の頃は同期と組んでいたがなんやかんやあって解散して、ソロでも1階層で余裕だったからそのまま2階層に足を踏み入れたらホブゴブリン――ゴブリンが小学生並みの身体能力ならホブゴブリンは高校生並み――と遭遇し、長剣と腕を犠牲に辛くも勝利を収めたが後からやって来たおかわりのゴブリン集団に追われてやむを得ず救援要請を出したのだとか。
自分や市希よりも少しだけ年若そうな少年が立ち上がり、こちらに向かって何度も腰を直角に折って頭を下げる。
謝る必要はないと言っているのにやめない。
彼の反応が悪いのではない、きっと巡合わせが悪かったのだ。
助けに来たのが自分でなければこうも過剰な反応はなかっただろう。
「腕は大丈夫? 折れてると動かさなくてもずきんずきんってなって痛いよね!」
「あー、はい……たぶん罅入っててかなり痛いです。なのでお二人にはこのまま1階層を抜けて上に戻るまで一緒に連れていって頂けると……その……」
「1階層だけなら走れば一人でも帰れるよね?」
「か、片腕で……?」
「十数分走るだけだよ? それとも腕以外も痛めてるの?」
足や背骨だったらそんなご無体な、と突っ込むところだが腕だけなら確かにそうだ。
1階層のモンスターであれば走る速度で負ける恐れもないだろうし、戦いさえ避ければ怪我のひとつやふたつ大した障害にはならないだろう。
痛いから走れないなどの甘えた言葉はダンジョンの外で発すべき。
最初に救援要請を受けた3対1の時は命の危機と呼ぶのに相応しい緊迫した状況だったから助けることに異を唱えはしなかった。
これは慈善事業ではないし、危機を脱したと判断したのであればダンジョン内で介護を続ける義理も義務もない。
そうでないと捨て駒人海戦術で他のパーティーの攻略を妨害できてしまうから仕方ない。実際そんな例もあったそうだし。
「痛み止めは持ってる? タブレットでいいなら1個あげよっか?」
「あ、すいません、いただきます……じゃあ、俺、帰ります……」
「うん、気を付けてね! 次も助けてもらえるまで生きてるとは限らないからね!!」
「……お気をつけて」
:ちと情に欠けるんじゃないかと思うのは探索者じゃないから?
:助け合い精神は善いモノだけど他人の善意に甘えておんぶにだっこは探索者のやることじゃないよね
:死にかけてるとかならまだしも自走できるくらい元気なら大丈夫だべ
:
:向こうも動けるのにこれ以上出費はしたくないだろうしお互い幸せにならん
:俺なら追加料金求めてから連れて帰るね。浅瀬の救援は適度に吹っ掛けりゃタイパの良いビジネスや
:でももし彼が可愛い女の子だったら?
:もちろん紳士的に抱き上げて地上で連絡先の交換を……
:もしもしダンジョンポリスメン?
……気を取り直して、まずはゴブリンの解体作業を済ませる。
死因は頭部へのパチンコ玉直撃による脳破壊(物理)。
『指弾』という技術がある。
指で小石や玉を弾いて相手に撃ち出す武術の一種で、大昔から創作の中でも度々出てきている。
市希のはそれの技能による強化版だ。
彼女の技能は【
指で玉を弾く瞬間に斥力でさらに強く撃ち出すことによって人間銃器と化す、かなり強力な戦法だ。そして斥力は普通に殴る時にも加算できる。
日本に弾丸は(一般的に)ないが、そこいらの国の弾丸以上にパチンコ玉がありふれている。しかも出来がよくて安い。武器にできればこれほど優秀な物も中々ないだろう。
探索者用に安価なスリングショットが人気なのも頷ける。
投擲も人類の狩猟生態から進化した立派な武器だが……いかんせん練習しないと扱いがかなり難しい上に、前衛の背中にでも飛んでいったら大惨事になるのであまり使い手がいないらしい。すっぽ抜けるのを気にしない前衛のサブウェポンとしてはそこそこ見るのだが。
3体分の解体を済ませて、これだけのことをして数百円かとげんなりするがそれを承知の上でここに来ているのだからやらないわけにはいかない。これも解体技術向上の為……あと極稀に出るらしいレア枠――通常の魔石より少し高品質――があるかもしれないという夢の為。
同じような運任せの収入源に宝箱というのもあるが上層での期待値はあまり高くない。
作業中ずっと周囲の警戒をしていた市希に声をかけ、出発を促す。
「行こう」
「んっ、それじゃあしゅっぱーつ!」
そうして歩くこと1時間弱。
出会ったモンスターはこれまたゴブリンのみ。
2体から5体ほどの集団で固まっているのが1階層との大きな違いだが、群れたところで所詮はゴブリン。一人で戦う、技能無し、そんな不利な条件を付けない限りは苦戦する要素がない。
「ホブ全然いないねー」
「……だね」
出現率自体はそう低くないはずなのだが、他にも探索者がいるのでそちらに狩られているのかもしれない。
そういう日もある。それでこそダンジョンだ。
なんでもかんでも思い通りにはいかず、時給換算にしてみれば千円にもならない赤字コースまっしぐらの一日だったが、これも着実かつ堅実な一歩目を踏み出す土台作りの一環。互いの動きや息の合わせ方を少しでも理解し合えたのならばそれはお金に換算できない貴重な財産と言える。
怪我と武具の損耗にさえ気を付ければ走り始めとしては悪くない状態だろう。
ダンジョンオペレーターこと
「んー、このままゴブリン狩りをしててもつまんないよねぇ。帰ろっか!」
「……うん」
二人パーティーとしてはよくやれている。ならば次に考えるべきは――
Tips:ダンジョン内での武器の制限は無いに等しいが、地上では変わらず銃刀法が存在している。刃物はカバーを着けた上で武器全体を布などで包んでケースに収める必要があり、銃火器に関しては一般に出回らず専ら自衛隊と警察が組織内でダンジョンへ赴く際に使用される程度。ダンジョンに入ってから工作や錬金によって自作銃をその都度用意するという手もあるがコストパフォーマンスが最悪なのは言うまでもない。都市部では金属鎧や大剣など、装備によっては格安の輸送サービスを行っているギルドも多い。
なお国外では上層に限れば銃火器で大抵の相手に無双できるので
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