第10話 強さとは積み重ねた過去の上にあるもの
見つけたモンスターはすべて殺して回った。
武器の種類が違う、無駄にバリエーションに富んだゴブリン種との遭遇が最も多くてそろそろ見飽きてきたが1階層なんてそんなものだろう。
まともな武器があるからこそ一撃で危なげなく倒せているが、これが素手かつ防具無しの普段着で殺れと言われたら例え勝てるとしても消耗することは間違いない。肉体的にもそうだし、傷ひとつが致命傷となり得る状況では精神的にも疲れが出てしまう。
「だから、使いやすいのを買ってくれて……ありがとう」
「どういたしましてっ!! えへへ……れいちゃんはなんでも使えるから安いのでいいって言ってたけどやっぱりそれくらいの質は無いと物足りなかったでしょ? リーチもあるしわたしと交代するのもスムーズにできたし!」
「うん」
:特別なんかすごいわけじゃないけど今まで全部ワンパンなの技量高くね?
:でもゴブリンだしなぁ……
:俺でも勝てるしなぁ
:小学生殺すのに殺意以外必要なもんあるか? 身体強化して殴れば死ぬだろ
:言い方ァ!!!
:ところがぎっちょんマウント取って連打で撲殺はできても一撃で殺し切るのは案外難しいゾ
:相手だって武器持って殺す気で来るんだもん普通に考えて怖いよ
:ワシならデコピンで殺せるが?
:年の功を考えろよジジイ何十年探索者やってんだ化物が
:武器の性能だけじゃないっていう良い証明になってるな
:槍はいいぞぉ、切ってヨシ叩いてヨシ突いてヨシの三拍子が揃っている
:やりすき!
:なお新人講習アンケートによる人気武器ランキングトップは刀の模様
:だってかっこいいじゃん……
:槍ってなんか地味じゃん
:力任せに叩くだけの棍棒よりマシダルォ!?
:なんだァてめェ……?(棍棒使い)
:命中固定値がいらないとかさては貴様素人だな?
:また武器の使い手による戦争が始まった……殺せりゃ何使ってもいいじゃん
:短槍だけで片付くから小盾が一切出番無いの物足りないな
:片手と両手の切り替えできるってのが利点だから使う必要が無きゃな
地味で結構、それでいいじゃないかと自分の命を託す武器を握り直して軽く素振りを行う。型は特にない。
武道や武術などを習ったことはないが、親が我流で身に着けた『あらゆる武器を扱い、あらゆるモノを武器として活用する』自己生存の為の他者殺害技術を叩きこまれた幼少期を思い起こす。
親も虐待をしたいわけではないので直接的な殴る蹴るといった暴力はあまりなく、とにかく転がされた。そしてすぐに起き上がらないと顔の間近の地面に穴を空けてくるのだ。実戦だったらこうなるのはお前だ、と。
未就学児にやって良い行いではない。
――学生になってからなら良いというわけでもない。
短剣、長剣、薙刀、手斧、短槍、棒、杖、投擲、小盾あたりは一通り――人並みに扱えるようスパルタ教育を受けたので武器選択の柔軟性に関しては親への感謝も若干は存在する。それがあまりいい思い出ではなかったとしてもだ。
ちなみに妹は倍以上の武具の扱いを学び、なおかつ有効に活用できるほど才能と体格に恵まれているのでほんの少しだけ嫉妬していた過去もあった。比べたところで無意味だと気付いてからはあまり気にならなくなったが。
親からの(物理的に痛いほどの)愛の鞭が嫌じゃなかったと言えば嘘になるが、強くならなければいざという時に生き残れないのも事実。
ダンジョンに関わらずに一生を過ごすことなんてまず不可能だ。
こちらが望まなくてもなにかの拍子に向こうからやってくるのだから。
この世に生きるのであれば備えるべきなのだ。理不尽に死にたくなければ。
「あ、もう階段かぁ。れいちゃんどうする? 今日はもう帰ってもいいと思うけど……でもゴブリンじゃ全然運動にならないよねー」
「ん……」
平原にポツンと存在する人工物にしか見えない異物こと下り階段――1階層と2階層を繋ぐダンジョン特有の移動経路――を前にしばし考える。
集中力は自己診断の内ではまだ切れておらず、油断しているつもりもないし、体調も悪くない。
新品の短槍を使った動きにも慣れてきた頃合いだ。
そろそろ一撃必殺の弱い者いじめからもう少しまともな攻防を行った戦闘の経験を積みたいところ。
2階層の情報と安全性も事前に確認したし、イレギュラーな事態が発生する可能性は限りなく低い――その確率を恐れるくらいならそもそもダンジョンになど行かなければいいと言える程に。
ただ強くなるのに命を懸ける必要はないが、命の危険無しに強くなろうなどという甘い考えはダンジョンでは通用しない。
「……行こう」
「わかった! それじゃあ2階層へ出発しんこーっ!!」
「……コード[502]」
ダンジョン専用の携帯端末からダンジョン内の安全運行管理を行っているオペレーターに連絡を取る。
これはひとつの階層であまりにも多くの人間が存在するとそれに応じたモンスターの出現が行われる――いわばダンジョンによる過剰な防衛反応を抑制する為の処置である。
ちなみにダンジョン
ダンジョンが敏感すぎるのも悪い。
『階層進行申請を受理しました。現在の第2階層には7名の
ちなみに階段を上がって戻る時も同じように毎回申請する必要があるが、対処できないモンスターから逃げている時など非常時は駆け込みが許される。
階層と階層を繋ぐ階段エリアに長時間居座るとそれもダンジョンの琴線に触れるのか両隣の階層が大変なことになり、ギルドから一発免停レッドカードを宣告されるので真っ当な
ダンジョン内で怪我などにより自力で動けなくなった場合は救援要請を義務付けられている。
助けに来るのは常駐しているギルドの職員だったり付近の
下手に放置すると当事者が数人死ぬどころでは済まない大災害へと繋がりかねないのでこのあたりはかなり厳重に注意されている。
『――該当区域にて生存者1名による救援要請が発信されました。付近の
『あなた方のパーティーが最も近く――対象は2階層の階段エリア外にて敵対状態のモンスター3体との交戦中です。至急救援へ向かってください』
「行くよれいちゃん!」
「わかった」
元よりそのつもりだ。
無条件の人助けなど進んでやりたいとは思わないがダンジョン内での救援活動は
一種の監視装置でもある配信がついている以上とぼけて見なかったふりをすることもできない。
救助時の謝礼金の相場は『階層数×階層数×1万円』となっている。
2階層なら4万円で、これが例えば10階層なら100万円、25階層なら625万円となる。
上層では中々に大きな出費だが中層や下層の
上位は上位で大変そうだ。
階段を跳び降りるように駆け下り、長いような短いような奇妙な体感時間の後に次の階層――2階層へと飛び出す。
オペレーターが言っていた通り、視界が広がった先で一人の
たかがゴブリン、されどゴブリン。いくら個が弱かろうと数は単純な強さとなる。
連携するほどの知能は持ち合わせていないが囲まれて次々に武器を振るわれたら多数への対処に慣れてなければすべて捌くのも難しいだろう。しかも傷を負えば簡単に動きが鈍るのが人間だ。一度押し込まれてしまうと中々反撃に移れない。
一息で距離を詰め、声が届く距離まで近寄る。
「助けに来たよ! いいねっ!?」
「お、おねが……いしますっ!」
「【ディストラクション】」
窮地ではあっても一応まだ余裕のありそうな救援対象からの許可を確認。
まずはゴブリンの注意をこちらに引き付ける。
意識させるのは殺気。こっちを向け。目を逸らすな。これがお前の死を齎すものなのだと恐れろ。
……八つの目が同時にこちらへ向くのは他人の視線を好まない自分にもきついところがあるが、我慢だ。
「ヒッ!」
細かい範囲の指定ができず救援対象まで巻き込んでしまったが殺傷性はないので許してほしい。
それはいわゆるコラテラルダメージというものに過ぎない。はいはいコラテラルコラテラル。
「【
隣を駆ける市希の手元から銀色の鋼が射出され、最も奥にいたゴブリンの顔半分が真っ赤な飛沫となって弾ける。
「も一発【
憐れな犠牲者がさらにもう1体。
同族が殺されたのを認識していながらも視線はこちらを捉えて離さず、のたのたと短い脚を必死に動かして近付こうとしていた。
当然、一直線に向かってくる敵など格好の的に過ぎない。
「そしてトドメにぃ! 【
市希渾身の右ストレート。相手は死ぬ。
頭蓋骨が砕け、頭部が凹んだ状態でも生きていられる生物は上層に存在しない。
彼女がいくら体格に見合わぬ筋力の持ち主だったとしてもあれほどの破壊力は通常出せないだろう。
その理由は彼女の技能に関係するが――まずは救助を優先しよう。
「……だいじょ――」
「ひぃっ! ごめんなさいころさないでやめておねがいたすけて!!」
魔法、もう解除されているのに……。
Tips:国の行政機関であるダンジョン庁は
――当然それは現代技術では実現不可能なはずのオーパーツであり、その存在は謎に満ちている。
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