第7.5話 配信記録【2月15日/10時10分始~15時46分終】
【仲良し初心者現役
~~~ 5階層初チャレンジ! ~~~】
『えーっとぉ、今回で6回――』
『なな! 7回目の配信だよ!! タイトルにもそう書いてたよね!?』
『あれぇそうだっけー? じゃあ7回目の配信、始めまーす』
『いぇーいみんな観てるぅー? 今からこのダンジョンの5階層にいる中ボスをみんなで攻略したいと思いまーす!』
『みなさま本日もどうぞよろしくお願い致します』
『ようちゃん笑顔が固いよ! むにむにー!! あ、それともエナジーバー齧るー?』
『市希、ほっぺを弄るのはやめていただけませんか。それとダンジョン内では間食を控えるようにと散々――』
:初っ端から間違えてて草
:いぇーい待ってました!
:ようやく初心者の看板を下ろす時が来たな
:がんばって!
:どこのダンジョンかな?
:俺も今日は迷宮型5階層周回するからワンチャンあるでこれは
:上層迷宮型ダンジョンって情報だけじゃ全国で百を超えるんですがそれは
:周回兄貴は自分の配信やってろよ
:無理しないでね!
『ほら冥もカメラにピースしよピース』
『毎回それやっててよく飽きないもんね。女の園ってだけで釣られてきたようなユニコーンに媚び売ったって今時そんな数字取れないのに』
『ちょストップ! いったんカメラ止めてマイク遠ざけて!!』
『めーちゃんはリスナーちゃんに手厳しいねー。もうちょっと優しい言葉を選べばいいのに』
:ピースピースたすかる
:こいついっつもド直球の放送事故してんな
:うるせぇはよ衣装破損しろ筋肉達磨
:事実陳列罪は重罪ですよ!?
:どうして5人は華やかなのに1人だけフルプレートメイルなんですかねぇ……
:タンクが薄着とかありえないでしょ
:冥ちゃんだけ本当に女なのか怪しいレベルでデカくてゴツいのほんと草生える
:実はボイチェンつけた男なのでは?
:他が装甲薄すぎるだけ。でももっと肌見せて、役目でしょ
:下手な事言ってるとまたタマ潰す映像を至近で流されるゾ
:あれマジでヒュンってするからやめてクレメンス
:たのもしい!
:これが中ボス戦前ってマ? 緊張感なさすぎだろ
:いつも通りだな
:上層配信なんてこういうのでいいんだよこういうので
女性のみで構成された6人組が石造りの通路を歩いている。
年の頃は二十を過ぎたあたりだろうか。
その周りを何機もの浮遊装置が様々な角度からレンズを向けて彼女たちの様子を映している。
『……もう進んでいい? 道中余裕だからってふざけないでね』
――身軽そうな革鎧に身を包み、腰にククリナイフとマチェットを吊るした中肉中背の
『わかってるっての。文句は向こうの三バカに言って』
――周囲より頭一つ分以上高い背丈で全身を重厚な装甲に覆われた鎧と、同じ素材で作られた大盾を両手で構える
『ほらぁ言われてるよー、三バ……三羽烏?』
――先端に赤く煌めく宝石が付いた杖と複雑な紋様が回路のように描かれているローブを着た
『三羽烏では意味が逆転してしまいますよ。……それと、言われているのは貴女もです』
――自身の背丈ほどもある大弓を携え、和を感じさせる着物と関節部に簡素な防具を足した大和撫子然とした
『なんであたしまで馬鹿にされてるの!? おかしいよねあたしこんなに真面目にやってるのに!』
――清潔感溢れる純白の衣装に見合わぬ無骨な手槌と小型の円形盾をそれぞれの手に持つ
『めーちゃんもしかしてその三って私も入ってる!?』
――学生服を元に皮や布地を一から縫い合わせて改造したような、他と比べても断トツに露出度が高く頼りない恰好の
:いいからはよ行けや
:ふざけた会話しかしていないがこれでも期待の新人である
:戦闘中は真面目だからね
:仲の良い面子で役割のバランスも良いとか羨ましいよな
:ボケとツッコミのバランスもいいぞ
:いいのかな……いいのかも……
:今日こそ被弾脱衣シーンを全裸待機
:ポロリもあるよ!
:ポロリするのは首かもしれないんだよなぁ
:不謹慎コメ死ねや
:いのちだいじにね!
:ゆーて上層やろ。よゆーよゆー
:初見5階層での死亡率をご存じでない……?
:単発ガチャSSRより低いゾ
:例え小数点以下の確率だろうが自らそこに命をベットできるのは異常者だけだって
迷宮型と名付けられた、一世紀近く前に流行っていたロールプレイングゲームの舞台のような薄暗いダンジョンを進む一行。
道中現れるモンスターや狡猾に仕掛けられたトラップも難なく処理し、その手慣れた様子から彼女たちがどれだけの鍛錬を積んできたのかが窺える。
500を超える視聴者も7回目ともなれば慣れたもので、初見や冷やかしなども多くいるがコメント欄は概ね応援と称賛と期待と雑談で埋め尽くされていた。
『コード[505]、階層進行申請を……はい、確認ありがとうございます』
そうして辿り着いた5階層。
狭くて息が詰まりそうな長い階段を下りた先に広がっているのは野外――のような広々とした平坦な空間。
どんよりとした暗雲が立ち込めており、草一本存在しない腐った大地は柔らかく足を絡み取る。
そこには一面見渡す限りの墓標があった。
いずれも墓石に名前は刻まれておらず、しかしそれが死者の不在を意味しないことはダンジョンの性質を考えれば明らかだろう。
『このフィールドならたぶんアンデッドね。何が来ると思う?』
『妖精種じゃない方のデュラハンか、ゾンビかスケルトンの上位種、レイス……ネクロマンサー。ストーリー性がないから見てみないことには……』
『ま、アンデッド相手ならイイ感じに焼けるっしょ? ウチの出番多そうじゃん』
『油断なさらぬように。破魔矢の数は限られていますのでわたくしは大物を優先しますね』
『中央まで行ったら現れるんだよね! ってことはみぃちゃんに釣ってもらうのは危なそうかも?』
『こんな場所だし全周警戒ねー』
『うん、みんなで行くよ』
:屋内迷宮から野外に!?
:稀によく見る光景。なんで階段があるんだよってツッコミは野暮
:固定ボスじゃないんか
:5階層でランダム……妙だな
:数は少ないが初っ端から変化しまくる厄介なダンジョンはあるぞ。どれも初見だとメタ張れないからクソめんどいが稼ぎも良いらしい
:雑魚いの出るといいなー
:程々に苦戦して熱い大勝利してほしい
:きをつけてね!
:アンデッドって見てるだけでもキツいのに実際に戦ったら臭いもキツいんだよな
:でも俺の方がもっと臭いぜ
:歩く環境兵器兄貴はさっさと風呂入ってもろて
:誰も突っ込まないが破魔矢って安いのでも1本何万もする消耗品だよな?
:だってお金持ちオーラ出してるし今更……
:これ絶対墓から出てくるホラー展開じゃん
:ドキドキしてきた
後衛を中心に前衛で囲む古典的な陣形を保ちつつ6人は歩を進める。
不気味なほど一切の物音が経たない空間に6人分の足音だけが響く。
『……祭壇だ』
『そろそろね。みんな準備はいい?』
『おっけー!』
『バッチコーイ!』
『問題ありません』
『よし、やろう!』
彼女たちの決意と戦意を嘲笑うかのように人ならざるモノの声が聞こえてくる。
――それは半透明な身体を持ち、過ごした年月の重さを物語る襤褸切れを纏った人骨。
胸には光を吸い込む黒々とした宝珠が心臓の代わりに存在し、生者に仇なす瘴気を発する迷宮の怪物。
不死の王、その成り損ない。
:なんだこいつ!?
:リッチー!?
:中層でも出現報告ほぼ出てないレアボスやんけ!
:初ボスがこれとか冗談きついぜ
:いやあれはレイス状態のデミリッチだね。つまりは中途半端な不完全体
:上層であんなん見たの初めてだぞ
:下層にはあーいう混ぜもんゴロゴロいるぞ
:ここ5階層なんだよなあ
:なんで中層すっ飛ばして下層に出るようなタイプがいるんだよ!?
:まぁ上層の濃度をフルスペックで活動できるタイプではないし性能面は調整されてるだろ……たぶん。きっと。めいびー。
:デミってことはリッチより弱いはず……よゆーだな!
:半々ってのは力も半分って意味じゃないんだよなぁ
:勝てそう?
:勝つさ
:まけないで!
:いやーきついっしょ
:単体ならまぁ……
:オイオイオイなんかいっぱい出てきたぞ
:大量の雑魚敵と格上ボスのアンハッピーセットはルールで禁止スよね
:ダンジョンはルール無用だろ
:ま、俺なら余裕で勝てるけどな
:
:通常武器と毒と呪いと闇属性を無効化する上に凶悪な魔法連発できて前衛アタッカー並みのパワー持ってるモンスターに勝てる熟練探索者って実は化物なのでは?
:みんなの勇姿はワイがずっと覚えてるで……バイバイ
:死んだな(確信)
:まだわからんて
:こっちも攻撃手段多いし戦線維持さえできればワンチャン……
:生きてぇぇぇ!!!
:すまんが観てると心が耐えられない。抜けるわ
:頼むからこのチャンネル終わらんでくれ! 生き甲斐なんだ!!
:あ、これちょっとまず……
誰も彼もが死を覚悟する戦いが始まり――
『はぁっ……ふぅ………………コード[011]、救助要請を……はい、5階層です。はい、撃破済みです……その場で待機、了解しました。――よろしくお願いします』
『らんちゃんしっかりして! もう終わったから! 大丈夫だから、落ち着いて!! らんちゃんっ!! のんちゃんも息をして!! 呼吸をやめないで!!』
『あ”ぁぁぁぁぁぁ――――――!!! っぅあぁぁー! はぁっ、はっ、は……うぁ……ぁ……ぁぁぁぁぁぁあああ!!』
『……ヒュー、ごふっ……っう…………ひゅ……』
――その攻略は5階層ボス撃破という成果の対価に、2名の死者と2名の離脱者を出して終わりを迎えた。
Tips:ダンジョンは5階層ごとにボスと呼ばれる強敵との戦闘が様々なシチュエーションで強制され、突破した者には10階層ごとに隣接する10層先への転移機能が解放される。一般的に10階層ごとに
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