最終話 山行引退

雪山に初めて挑戦して、経験を積もうと思って

赤岳雪山ツアーに参加した。


雪山装備を装備して望んだが、

雪山を初めて登って、狭い足場で足を滑らせて

危うく滑落しそうになってー。


雪の積もった急激な斜面があるに関わらず、

寝そうになってしまったりー。


生まれて初めて死の恐ろしさを経験した。


その恐ろしさが身に染みたせいか、

雪の積もった赤岳に登って以降、僕は山登りの世界を辞めた。


米原にある伊吹山、雲取山、鳥取の大山、

赤岳で僕の山行は終わった。


アルピニストとしての履歴は1年経たずで終わった。


どんなに経験値があったとしても

山行というのは死の危険と隣り合わせである。


実際僕が交流会で知り合った登山家の知人も、

山行の経験値が豊富であるのに関わらず

雪山山行で行方不明になってしまった人がいる。


僕が知り合った人で、行方不明になってしまった人がリアルでいたというのは

自然の恐ろしさというのを感じずにいられない。


山に登った時に関していっても、

プロセスを大事にしていく、そのつもりでいた。


いたのだけども、最後の最後で諦めたのが冬の赤岳だった。


身の程を知ったというべきか。

諦めるに至るまでのプロセスも大事だと思う。


人生において二度と同じ失敗を繰り返さぬためにも。


山行をやめたのは死の危険と隣り合わせだった経験があっただけでなく

山用品が高く、自分の安月給ではどうにもならないくらい

採算が取れない、というリアルな事情もあった。


これじゃ給料を上げてもらわないと先がないー。


山を登るのを一旦辞め、仕事の仕方を本格的に変える方向に持っていった。


昔から少しずつ週5日の出勤からの勤務スタイルに疑問を持っていたが

結局そのスタイルの改修には至らなかった。


だんだん矛盾にも気づいてくるが

「今までの働き方を辞める」


この足取りを着々と進めていったのが、山行を辞めた時期と合致している。


今でこそ登山を引退して山から距離をとったものの

山行が趣味の人たちは私の代わりに各地の山々を制覇し、


自分を表現し切って欲しいと思っている。


何かに挑戦するというのは試練を伴うと同時に、

何物にも変え難い喜びを見出すのと同義なのだからー。

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