第31話 会社との戦い

鳥取・大山から戻って数週間後。

かつて山行でチームを組んだメンバーと一緒に

東京某所で飲み会をした。


SNSでは皆「登山家」としてのペルソナを見せているが

こうしてフタを開けてみると、当たり前かもしれないが

皆手に職つけて働いて苦労している人たちだった。


ある人は整備し、ある人はIT業界の講師、

ある人はデパートの受付員。


そこで山の話ばかりをするか、と思いきやだ。

多くのメンバーが酒の勢いのままに

普段の仕事の不平不満をこぼしていた。


大変な場所に来てしまったと思うが、今思えば無理もない。

なんせ平日の方が長ったらしいし

「登山家」としてのペルソナを発揮できるのは休祝日しかないんだ。


酒の席での皆の話を聞いていると、

不平不満を抱えながら働いていたのが思い返される。


皆、思い思いの重いものを背負っているのだ。


特にリーダーに関しては話が重かった。

仕事での愚痴だけでなく、離婚した時の心の傷の話。


山登り大好きな明るい人たちだとばかり思っていたが

中身は結構濃ゆい悩みを抱えているのだ。


皆が皆、良い人たちばかりだったが

持っているものは重たすぎた。


僕にしてみれば少々他人事のようにその場で話を聞いていたが

今思えばそれは間違いだった。


僕も彼らのように、煮え切らない思いを抱えながら仕事してるじゃないか。

今だってそうだ。現実と理想に葛藤しながら、

この飲み会の場所に来たんじゃないか。


仕事においてはめんどくせい話ばっかりなのだ。

どこまで拳を振り上げずに我慢できるか、これとの勝負だ。


僕自身IT従事者として、まるでゴミみたいな

オンボロシステムの面倒を後何年も見なきゃならんのだ、

やってられんわ、と思いながら働いているんだ。


それと、本気でつまんねーなと思ってることやってると本当に眠くなる。


あれもこれも「やります」っていって手が回らない、

会社に対しての不満ばかりで煮え切らない思いを抱えているのは

僕も一緒だったのだ。


皆の話を聞いてみて改めて思った。

本当に会社の存在が邪魔だ。


汚点でしかない。


社会人新人の時に「お前の汚点は上司連中に酒を注がなかったこと」だと言われたが

そんなこたぁ知ったこっちゃねぇ。

こちとら、てめーらのために戦ってんじゃねーんだよ。


甘ったれたクソガキの愚痴でしかないが、

そんな上下関係、主従関係に関するわだかまりを抱えたまま

ずーっと働いていたのだ。


「やりたくない仕事」ではあったのだが


それを認識していたくせに、会社辞める度胸もなかったし、

安定した仕事を捨ててでも希望部署に行くっていう気概もなかった。


僕が希望していた部署に配属された同期みたいに、

会社を辞めてしまうという結末になりかねなかったからだ。


同期入社した連中は、僕の鏡みたいなものだと思って見ていた。


会社でずっと抱えていた煮え切らない気持ちを、

ぶつけられなかった気持ちを山行にぶつけてやっただけに過ぎぬのだ。


僕は、山行メンバーと一緒で、普段の仕事に対して嫌気がさしていたのだ。


みんなの悩みは僕の悩みでもある。それに気づくのが遅かったー。

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