第30話 「ロボット」と「人間」

会社にいる時は本当に地獄でしかない。

この世界が本当に地獄だと実感したのはブラック企業にいた時だった。


地獄から抜け出せるまで、あまりにも時間がかかりすぎている。

僕と違って、すでに会社から抜け出した人間はいるのにな。


ここが地獄だと気付いた時にはもう遅い。

ここから出る手立ても見当たらなければ、その勇気も湧かないからだ。

地獄から抜け出すための研鑽をしようにも

物質的な価値観に追われてそこまで至らないのだ。


「俺は精一杯やってるんです!」

が通用しないんだよな、会社って。

それが嫌なところだと思うよ。


そう、思い出した。もうすでに「地獄」にいるのだった。

だから地獄に落ちるだとかそういう心配はもう一切いらない。

この物質世界にいることそのものが「悪」なのだから。


会社にはロボット連中しかいない。

挨拶も適当だし毎日話す内容も同じで、中身がないし

人間味というのも全くない。


Botである。ロボットである。

感情のないロボットが黙々と働き続けるのが会社なのだ。


僕自身もロボットとして働き続けていた。


唯一土日祝日だけが、ロボット状態から解放されるタイミングだった。


会社、平日で感じられない人間味というのを感じた印象深い出来事を覚えている。


11月の連休に鳥取、広島の旅に出たこと。


百名山の一角である大山に登りながら、

広島のコミックマーケットに突撃するという

これまた電撃ツアーを自らに画策していた。


ゲゲゲの鬼太郎のゆかりの地と言われる鳥取。

それは電車で立ち寄って、

鬼太郎に出てくる妖怪たちのオブジェクトが迎えてくれることで明らかになった。


鳥取という土地に初めて行った時の印象だが

とにかく人が少ない。


建物が並んでいても人の気配をあまり感じない。

多くの人が都心に行ってしまっていて

残るは観光資源くらいというものだろうか。


僕がよく足を運ぶ都心とは全く毛色が違う世界に驚いた。


鳥取の駅からバスを使って、大山近くの民宿まで向かった。


民宿というのはビジネスホテルと違って懇切丁寧に客人を迎えてくれる、

あのアットホームな感覚が良い。


民宿の人には大山で日の出が拝めるように

早朝に出立すると伝えていた。


山頂に向かう僕に朝ごはんの握り飯と、手書きの手紙を

民宿の人が差し出してくれた。

この心ばかりのサービスがなんともうれしいものだ。



そうして単独で大山山頂に向かって、日の出を拝み、

速攻で山を降りて広島行きの電車に乗る。


2泊3日の弾丸ツアーで一箇所一箇所を丁寧に回ることなかったが

いずれも民宿に宿泊して、それぞれの土地で

心温まるサービスを提供してもらった。


今までの会社人間たちとの機械的なやりとりと

まったく違った温かみがそこにあったのだ。


そうか、人間って、ロボットばっかりじゃなかったんだなー。

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