4 聞いてないぞ

「ヒョロヒョロ男、そのニヤケ顔を引っ込めろ」

 ウェティブがそう言うと、その音声を聞いた笠原拓は声をあげて笑い出した。ウェティブ自身も困惑した。音声再生時のヘルツが思っていたより高く設定されている。


「もう動いて大丈夫だぞ」

 それを聞いて起き上がる。反動で作業台から転がり落ちた。呆れた声が聞こえてくる。

「笠原工業最新の家庭用モデルなんだから、いきなり壊すなよ? しかもプロトタイプだから唯一無二。ほかと被らない。だからどっからどう見ても、人間のティーンエイジャーだ」

「ティーンエイジャーだって?」

「そこに鏡あるぞ」


 立ち上がり、転送先の機体の姿を見た。正規品の証明である頭上の円環は掲げられていなかった。見たところ、15歳くらいの子供の機体だろうか。学生服を着ている。緑色の目はそのままだったが。


「リミッターも外してるから見た目以上の性能が出せるよ。新しいボディはどうだ。気に入ったか?」

「子供のモデルだなんて、聞いてないぞ」

「子供の姿の方が、相手の懐に入りやすいだろ。なんたって、AI至上主義の集会に行くんだからな」

「それも聞いてない」

「今、言った。それに正確にいえば、集会に参加するのは、おまえだよ」

「なんだって?」


 拓は椅子に座って、サングラスをかけた。視線が陰る。ニヤッと笑みを浮かべて続ける。

「俺たちはAI主義者の崇拝しているMについて調べるために来た。集会に参加して糸口を探す。指示は俺が出す」


「そもそもここは、どこなんだ」

「まだ中立地帯だよ」

 窓の外を見やる。建物の二階か三階ほどの高さだった。モダンな街並みが広がる。時刻は夕方だろうか。空のずっと向こうが暗がりに沈みつつある。


「そして、すぐ北側に、俺たちの目的地の狭間がある」

 ウェティブもつられて、拓の示した方角へ視線をやった。

「まずは、狭間にいる調達屋に会いに行くぞ。頼んだぜ、相棒」

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