3 兄弟
兄弟分といえども、ウェティブと伊野田の関係性は悪かった。はじまりこそ同じ場所だが、境遇や立場は真逆だった。方や違法機を先導し、方や違法機を破壊して回っていたのだから。
同じ顔、同じ姿をしているというだけで、むしろ互いにそれが癪だった。同じ場所で危機に遭遇した時でさえも、協力し合うこともなかった。何の義理もないのだから、当然と言えば当然だったが。
だから伊野田が事務局を退いた時も、ウェティブは自分でもそうするなと思ったし、伊野田の方も、ウェティブに干渉をしてこなかった。互いに、必要以上に関わりたくない、と思っていたのが本音だろう。
だが、自分でやりたいようにしろ。という考え方だけは共通しているようで、もっと簡潔にいえば、互いの決断に興味はなかった。違法機製造が中断されたおかげで伊野田は事務局を退き、ウェティブは笠原工業のトップの言うことを聞く義理もなくなった。代わりの身体を求めて伊野田を追い回す必要もなくなった。
それ以上に厄介な事柄が迫っているからだ。自分自身だけでなくオートマタ全体の存続に関わる恐れがある。そうなれば黙っているわけにはいかなかった。いくら自分のデータを自由に転送できるといっても、本体が全壊すれば成す術はない。無論、この事柄に対して伊野田がどう動こうが知ったことではなかった。向こうも同じだろう。
それで自分の本体の安全と保管を引き換えに、ある男からの依頼を引き受けた。もっとも、どこにも属していないウェティブに契約も何もなく、保証はされない。しかし、笠原工業本社に保存されている自分の本体に干渉できるのは限られた人間だけだ。
その人間の一人は、厄介だが裏切ることはしない。それは知っていた。
男は元事務局の人間、琴平という名の人物で、かつては伊野田をつれて各地を転々とし、違法機体を破壊して回っていた。
オートマタ関連のエキスパートともいえるが、伊野田が退くと同時に琴平自身も事務局から離れた。理由は”厄介な事柄”が関連しているようだが、ウェティブは詳細を知らなかった。どちらにせよ、事務局も笠原工業と同じくらい後ろめたい機関ということは想像がついた。
だから琴平の話を聞く気になったし、こうしてデータ転送をして、特定の機体に意識を植え付けている。自分の目で、手足で、その真髄を覗きたいからだ。
すると、目の前のニヤケ顔をした笠原拓が、口を動かすジェスチャをしてみせた。何か言え、ということだろうか。ウェティブは時間潰しの思考を止め、顔周りのパーツを動かした。
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