2 笠原

 やがて晴れ上がり。

 瞳のパーツを動かすと、見覚えのあるマヌケ面がこちらを見ている。

 ニヤケた顔を前に、わかってはいたが落胆しかけた。やっていける気がしない。


 もしウェティブに忠誠心があるとすれば、自分に対してのものだ。目の前の男にも、依頼主の男にでもない。自身の求める自由と日常に忠誠心を持つことが彼のアイデンティティだった。ニヤケ顔について文句を言いたかったが、音声機能が完全に立ち上がっていない。視界に入るのは天井だった。つまり寝転がっている。動かせるのはまだ瞳のパーツだけだ。男がこちらを覗き込んできた。笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていなかった。


 色黒の肌に明るい髪色。いつもかけてるサングラスは胸ポケットだ。この軽薄そうな見た目に、狡猾さが溶け込んでいることをウェティブは知っていた。目の前にいる男は、ウェティブを造り出した企業の長男だ。


 笠原工業。大陸で利用されているオートマタのほとんどを製造、出荷している。今や人間の生活に欠かせないものになった。しかし正規品の機体の他に、違法オートマタ用の生体素材を造り出し、自分を実験にかけた企業でもある。


 笠原拓はその長男だ。とはいうものの、彼自身は家業に関わっていない。その実態を知り、家を飛び出した。勘当された身だ。しかし幼い頃から身近にあった機体やデータ、操作方法のノウハウを活かし、独自に違法機製造の証拠を追っていた。


 最中で事務局の連中と協力関係をとっていたようだが、笠原拓はなんとか、違法機製造を食い止めることができた。もっとも、違法機製造を停止しているのは笠原工業のみで、全ての違法機が完全になくなったわけではない。粗悪品を製造する業者は今でも複数存在し、事務局や大手がその監視業務を行っている。


 ウェティブの兄弟分が事務局に所属していたが、彼はそこから離脱した。彼もウェティブと同時に製造された違法オートマタ用の生体素材だ。伊野田というラベルが貼られていた。彼は同行者や笠原拓の協力もあって、しがらみから抜け出した。

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