5 "狭間"について
狭間といっても、大陸内のエリアから隔離や閉鎖されている場所では無い。立ち入りに審査も検問もなく、自由ではある。
そういった意味では狭間以南に位置するこの中立地帯の方が外部の侵入については厳しい。その立地を利用して、北方に狭間が形成された。
”姿なき主”が統治する土地、と噂だけが独り歩きしていたが、狭間は沈黙を守り続けた。大陸の者は皆最初こそ存在を怪しがっていたが、噂も飽きてしまえば話題になることも減り、狭間の存在は薄くなっていた。
存在すらしないのでは? といった考察もあったが、訪れたことのある者の話をきくと、”特に見どころも無い都市だった”と皆口をそろえて言った。
観光都市というわけでもないので、他地域からの受け入れには消極的で、呼び込みもしていない。誰もが訪れることはできても、歓迎はされない。もちろん攻撃もされないが、つまり訪れても何もされないしすることもない。それが姿なき主が統治する都市の実態だった。
中立地帯から北に抜け、白い木々が茂る林道を進むと、標高も相まって、道は徐々に霧に覆われる。それがいっそう狭間の神秘性を底上げさせていた。まるで来訪者を拒んでいるように。拓とウェティブは手配した無人タクシーに乗り込み、狭間を目指していた。
「前に、狭間の入り口まで来たことあるって、言ってたよな」
唐突に拓が尋ねた。車は静かに移動している。一時的に意識を本体へ戻していたウェティブは自分に話しかけられていたことに気づかず、わずかに遅れて反応する。
「……なに?」
「どこまで入り込んだんだ? って話」
「ああ……。前に来た時か」
ウェティブはそう言って目を伏せた。対向車が過ぎていく。誰が乗っていて、どこに行くのだろうか。
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