第7話 ウーベル=ナーレ辺境伯

「代表者は誰だ?」


 随分近くまで来た奴らを睨む。

 この数日で、自分の非常識さは理解した。

 それに、四人がきっと、守ってくれるだろう。


 多少足は震えるが、相手をしたモンスターに比べれば、かわいいものだろうきっと。


「俺が代表者だ」

 そう言って出てきたのは、見るからに歴戦の戦士。

 大剣を背負い、フルプレートアーマーを着込んでいる。

 鎧を通すため中世ヨーロッパでは、レイピアとかが一般的になったはずだが、ここは大剣で叩く世界か?


「メリディアム国。マリチオニス辺境伯私兵団団長ヒエロス=イウスティツエだ」

 ヒエロスと言う団長は、周りの連中の中で目立つ。他に比べて大きく一八五センチメートルは有り筋肉質。グレーの短髪で肌は褐色。瞳はブルー。

 ……色男。


「色々とすれ違いがある様だ。話し合いたい」

 きっぱりと、宣言する。相変わらず足はガクブルだが。


「話し合い? すれ違いと言うが、先ほど我が軍を攻撃をしたのはあんたでは?」

「そもそも俺は、あー、街が襲われて、強奪や強姦が起こっているというので来だけだ」


 そう言うと、途中で見たのだろう。

「ふむ。あそこで倒れて居た奴らは、俺達の味方ではない」

「そう言われてもこの状況、勘違いも仕方が無いだろう」

「君は、一体何者だ?」

 あーまたか。もう良い。つじつまが合わなくなるよりましだ。


「妖精からの知らせを受けてきた。リギュウムディ王国。国王、山川 望だ」

「妖精からの要請? リギュウムディ王国、国王だと?」

「そうだ、この四人は、その…… 上位精霊だ」

 頼む。普通の人間にも、姿が見えていてくれぇ。


 兵団団長ヒエロス=イウスティツエは、扇情的な格好をした四人を見つめ、いきなり膝をつく。


「神の王。四大妖精を統べるお方。無礼をお許しください」

 子どもの頃からの、おとぎ話万歳。通じたようだ。

「あーいやいい。最近なったばかりでよくわからないし」

 言わなくて良いことを、つい言ってしまう。だって、高校生なんだもの。


「はっ?」

「いや、気にしなくて良い。それで、相互誤解は納得頂けたかな?」

「火傷は、多数ですが、死者はいないようですので」

「碧、何とかして。火傷を治せる?」

 ちょっと機嫌悪く、右手を振る。


 すると、皆の間を大量の水が流れるが、まるで質量がないようだ。

 受けた人たちも驚いている。濡れもしていない様子。何でもありだな。


 その後、ヒエロス=イウスティツエとレオン=グラビスをだまし、いや、言いくるめ。ウーベル=ナーレ辺境伯に会いに行く。


 中央の城で、療養中だと言う事だ。

 馬車が用意されて乗り込む。

 今は亡き団長の物らしいが、乗り心地は悪い。


 城は、空から見ると近かったのに、一時間ほど掛かった。


 城門も、順に開いていく。


 城の正面に横付け。

 正面には、ヨーロッパ調の庭園が広がっている。

 守備力は全くなさそう。


「こちらへどうぞ」

 最初とは、全く態度が違う二人。

 その後ろを四人に守られた状態で、好実を抱っこをしてついていく。


 やがて、歳をとっているが、目力のある男性が出て来た部屋にたどり着く。

「これは、レオン=グラビス殿。戦闘中では?」

「家宰セバスン=サミュエル殿。その報告を含みウーベル=ナーレ辺境伯に御面会したい」

 そう言うと、顔を曇らせるセバスンさん。


「左様ですか。ですが、ナーレ様はもうほとんど意識が無く、お会いしても理解が及ぶのか不明です」

「その助けにもなるはずです。この方は、リギュウムディの王…… すみませぬ。お名前を伺っていませんでした」

 ヒエロスには言ったが、レオンには言っていなかったか。

「山川 望だ。山川は家名だ」


「山川様で、両脇の方々は上位精霊様の様だ」

 そう聞いて、家宰さんの目が大きく見開かれる。

「伝説の王国リギュウムディの…… こちらへナーレ様に奇跡のお力をお願いいたします」

 いきなりハードルが上がる。

 失敗したら、殺されるのでは?


 中に入ると、中年のおっさんが土気色をした顔で寝ていた。

 自分で、浄化や治療も少しはできるが碧に投げる。

「碧。この人を治してあげて」

 お願いすると、まあいつものこと。手をぺっと振るだけ。


 あーするとだ、水の玉にベッドの上で包まれる辺境伯。

 ごぼっと、口から気泡を吐き、苦しみ始める。

「おっおい。大丈夫なのか?」

 そう聞いても、碧は興味がなさそうに返事もしない。


 やがて、水が紫に染まりさらに黒まで出てきた。

 だが少しすると、透明になる。

 水が消え、不安になり胸に手を添える。

「あっ、息をしていない」

 胸は動かず、鼓動も無い。


「ええい、それでも男ですか、軟弱者」

 碧がそうぼやくと、辺境伯の口元に水の玉ができて、一気に流れ込んでいく。

 そして、俺が手を置いているのに、雷が胸を射つ。


「どわっ」

 凄い痺れた。


 だが、辺境伯はそれで復活をしたようで、もぞもぞと体が動く。

 目を開け、周りを見回す。効き目が凄いな。

「私は一体? 先ほど祖父達が、花畑の向こうで呼んでいた。きっとあそこは伝説の王国。リギュウムディだと思うのだが」

「その王様に助けていただきました。王である、山川様と上位精霊の方々でございます」

 ベッド内でその報告を受け、一瞬で理解をしたのか、布団を蹴りあげて床に降りる。

 そして流れるような動きで、膝をつき頭を下げる。

 その動きは、さっきまで死にかかっていた男とは思えない。


「元気になったのならよかった」

 そう言って手を取り、辺境伯を立たせる。


「このお礼は、どうすれば?」

 家宰のセバスン=サミュエルが涙を流す。


「話と、何か食事を」

 食事を無心する、伝説の王爆誕。

 この後、噂は広まり、教会に食い物が寄進されることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る