第8話 話し合い

「さて今回のこと、シェレラートス兵団長の指示で、村を一つ襲ったと言うことで間違いないな」

 副兵団長レオン=グラビスが頷く。

「間違いありません。団長が放っている諜報部隊が、ある男が金鉱石を売りに来ていた。新しい鉱脈を発見したと、酒場で吹聴していたのを聞いたのが発端でございます」


 それを聞いて、団長ヒエロスが苦々しい顔になる。

「メリディアム国。マリチオニス辺境伯私兵団団長ヒエロス=イウスティツエだ。発言を許していただこう」

 それを聞いて、ウーベル=ナーレ辺境伯も驚いたようだが、うなずき発言を促す。


「ありがとうございます。あの開発村は、我がマリチオニス辺境伯の命令により探査した地。まさか横流しをして、さらに秘密を吹聴する者が居るとは思いませんでした。ですが、先日様子を見に行くと村人は全員吊るされ、こちらの兵が占拠しておりました。申し訳ありませんが、殲滅させていただきました。あそこは我が領地ですので」


 それを聞いて、ウーベル=ナーレ辺境伯が驚く。

「それは申し訳ない事をした。寝込んでいたのもあるが、一切情報を聞いていない」



 何の気なしに、碧に聞く。

「そう言えば、あの紫や黒は何だったんだ?」

「紫が毒。黒は死んだ細胞です。まさか、死ぬとは思わなかったので神水まで使うことになるとは思いませんでした」

「神水?」

「この数日、与えた水です。生き物に与えると、不老長寿になると言われていましたが、前王は千五百年ほどで亡くなったため。そんなに効き目はないようです。そうそう、その娘には普通の水しか、与えておりませんのでご安心ください」

 そう言って胸を張る碧。


「何で? 好実にも飲ませてあげて。だからこんなにやつれて、やばそうになっているのじゃないか?」

「本当によろしいので? 増長して、あーたは、仕事をして私を養えば良いのよ。それ以外には口を出さないでとか言って、若い男を侍らし贅沢三昧。そんな事になってもよろしいと?」

 そう言って、嫌らしく笑う。

 

 好実は、そんな事にはならないだろと思ったが、周りの大人が言っていた言葉。

 『女というものは、付き合っているときと、結婚した後。さらに子どもが出来た後に大きく変わる。お前も、彼女を作るならよく相手を見ろ』お正月に会った時に、おじさんがそんなことを言って、泣きながら飲んでいた。その時の光景が頭に浮かぶ。


「そうなったら、そうなったとき考える。だから飲ませて」

「やれやれ」

 そう言うと、好実の口元に水の玉が湧き、口の中へ流れ込んでいく。


 すると、効き目は抜群。すぐに目を覚ます。

「あれ? 私どうして」

「体調はどう?」

「随分楽になって、あっ、ごめんなさい」

 膝から飛び降りる。

 するとすかさず、セバスンが椅子を持ってくる。


「どうぞ、奥様にもスープをお持ちいたしましょう」

「私にも頼む」

 今はとりあえず、辺境伯だけがスープで、他の人間は紅茶だ。

 それを見て、よだれが止まらない。


「かしこまりました、少しお待ちください」

 そう言って、あくまでも上半身は優雅に、手が一振りに対し足は三歩ほどの急ぎ足で部屋を出て行く。見ていると気持ち悪い。


「すみません、先ほどの話し。私は毒に侵されていたのでしょうか?」

 先ほどの話? 辺境伯に聞こえていたのか?

「水の精霊である碧が、あなたを治療したときに、紫に水が変化いたしました。それがどうも毒のようです」


 それを聞いて、レオンがぼやく。

「やはりそれは、シェレラートス兵団長の仕業ではありませんか? 三年前の、それこそセプタントリオナリス連合国の村を、野盗の疑いをかけて、襲い奴隷として住民を捕まえてきた時のこと。辺境伯のご命令で調査され、関係がないことが分かり叱責したことをかなり恨んでいたようでしたので」


「ああ、その件があって、他のものについても調査をさせていた。すると、かなりいい加減な噂などで、殲滅に着手していたことが分かった。彼の業績はほぼでっち上げだったので、処分をどうするか考えていた。彼は、そう言えばどうなった?」

「死んでいました。首が転がって」


「そうか。そなた達が、討ち取ったのか?」

 ヒエロスに向かい、辺境伯が聞く。


「いえ、あの場についた時にはそちらの兵は倒れ込み、レオン殿と、山川王が会話をされているところでした」

「奴は、俺が殺した。無礼だったからな」

 俺がそう答える。


「あら、それは好実が」

「碧。良いんだ」

「そうですか?」

 だが、好実は起きている。碧が言った言葉で思い出したのか、表情が曇る。


「私、人を殺したの?」

 あーもう。碧め。

 立ち上がり、好実のそばに行くと、そっと抱きしめる。


「大丈夫。あの時君は意識がはっきりしていなかったし、僕のために反射的に対応しただけ、君は悪くない。君が何とかしてくれなければ、僕が怪我をしていただろう」

 そう言うと、顔色は悪いが、納得しようとしているのか、少し顔からこわばりが消える。


「そんな事起こりえません。すでに、その辺りの人間の攻撃は効きませんし、相手がエンシェントドラゴンであっても、私たちが守ります」

「あー。碧。少し黙っていようか」

 すると、怒気なのか、威圧なのか出たようで、碧が珍しくひるむ。


 碧がひるむという事は、周りの人たちも影響を受けたようで、好実以外は顔色が抜けブルブルと震え出す。

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